爆誕!ステ極振り魔法少女いっきまーすミ☆ その49
シル【こら、ヌータ!そっちじゃないって!】
ヒー【シルフィー、ヌータに任せよう。馬と違って天敵のいない生き物なんだし】
背中に乗ったあたしを見上げて、後ろにつながれた馬車からヒースが声をかける。
思ったように進んでくれない大きな甲羅の上でむくれていると、ひょいと上がってきてあたしの頭にぽんぽんと手を当てた。だけどそんなんじゃごまかされんぜよ。
シル【むー……】
ヒー【ほ、ほら見てごらんよ。なんかすごいよ。こんな風景は僕も見たことがない】
そう言ってヒースが指をさす。改めてこの先を見てみると、進む先の大地一帯がぼーっと輝いていた。
なんだか地面から力があふれ出ているみたいだ。確かにすごい。でも何だろう。
歩みを止めなかったヌータはとうとうその輝く大地に足を踏み入れた。
何があるんだろうと思って地面をよく見ると、ルファラではごくありふれた物が覆い尽くしていた。
ヌータはそこでやっと止まって、下を向いたままもごもご口を動かし始めた。
ヒー【あ、ほら食事をしたかったみたいだ。きっと好物なんだよ】
もっしゃもっしゃとぼんやり光る苔を食べている。
この苔、魔界に入ってからどこにでも生えてるけど、こんな一面大量に生えてるのは初めて見た。
魔界にはモンスターのはびこる不毛な荒野、またはおどろおどろしい暗黒の森のイメージが強かったけれど、全然そんなことがない。もちろん魔界の中心は違うかもしれないけれど、今のところあくまで人間界の延長だった。
大して人間界と変わらないのに、どうして魔王は人間界へ侵攻するんだろう。
モンスター達にとっての生活苦や過酷な環境からの脱出じゃないとしたら、純粋にこの世界の覇権を狙っているに違いない。それなら王様たちに頼まれた通り、バシッとやっつけてやる!
ヒースの生まれた里を出発して五日。あたしのマップを頼りに魔王城を目指して進んでいる。
魔界の奥地は魔素が濃く、人間界で育った人間界の生物はその魔素に当てられて体調を壊す、ひどいと命を落としてしまうことがあるそうだ。
こう言った事も原因となって魔界の中心に大々的に軍勢を送れず、魔素にも抵抗力のある少数精鋭で攻め入る事しかできなかったと聞かされていた。
あたし達がここまで来た馬車を牽いてくれた馬は生まれも育ちも完全に人間界。無理に進んで倒れてしまうような事になったら、魔王にたどり着くまでにあたし達の物資が尽きてしまうのが目に見えてる。
魔界育ちの馬をもらえないかなぁと思っていた時、里の人から救援を頼まれた。
最近里の付近で活動しているロックトータスを駆除してもらえないかとの事だった。
ロックトータスは決して攻撃的ではないけれど、農作物を食害する害獣だそうだ。
ただかなり巨大で防御力が高く、魔法も剣もほとんど通用しない厄介な魔物。
現れたロックトータスはロックトータスの中でもかなり巨大で、通常の罠なども通じず手を焼いているとのことだった。
あたし達が農地に赴き件の魔物を探していると、そいつはすぐに見つかった。
確かにめちゃくちゃデカい! 動物園で見た象くらいはある!
どしんどしんと音が響きそうなほど重厚な歩みで農地を荒らすそいつに近づくと、明らかにあたし達に気が付いているのに全く無視して穀物を食べあさってた。
チャージなしのファイアーボールを撃ってみたけど、巨大な甲羅に弾かれて全くダメージになってない。
レベルキャップ近くになってるあたしの魔法が効かないだと?!
チャージしてもう一回ファイアーボールを撃ったけど、わずかに巨体が揺れた程度でダメージがあるようには見えなかった。
シル【ば、馬鹿な!魔法を極めたあたしの魔法を?!】
ちくしょう、このままでは済まさん!
いくつか魔法を撃ってみたけど、まともにダメージになってるのは無かった。くっそー、もしかしてブーストモンスターか?
プライドを傷付けられたあたしが目の前の超巨大亀を睨み付けていると、ポップが出た。いつものモンスターの名前が出るやつだ。
『ロックトータス・ヌータ』
ヌータ。ヌータ?くそう、そんな間の抜けたような名前のモンスターに!
爬虫類だろうから王道に氷系魔法で攻撃してみたけど効いてるように見えない。さらに腹が立ってMP消費の少ない魔法をばしばしぶつけていったけどどれもダメだった。マジかよ!
シル【くっそー、ヌータ!いい加減にやられろぉお!!】
そう叫んでグランキャノンのチャージを始めた時だった。
あたしの方に振り返って首を傾げるような素振りをし、ゆっくりとこっちに向かって歩いてきた。
大きな体と頭部に似合わず小さめで丸くて優しそうな目で見てる。向こうに敵意があるようには見えなかった。
いや、確かにPFOUにはいくら攻撃しても倒せないってモンスターがいる。もしかしてロックトータス・ヌータはそう言う系のモンスターなのかも。
それならこれ以上魔法を撃ってもMPの無駄。チャージしてたグランキャノンを解除して、あたしもヒースの陰に隠れるように恐る恐る様子を見た。
十分に近づいてきて首を伸ばしてふんふんと、ヒースの後ろにいるあたしのにおいを嗅いでいく。
しばらくするとグリングリンと頭を擦り付けてきた。
ちょ、ちょっと待て!! そっちはじゃれてるだけのつもりかもしれないけど、あたしにとっては一大事の威力だから!
ヒースがかばって抱き上げ飛び退いてくれなかったら危ないところだった……。
そんで、なんだか分からないうちにヌータはあたし達の新たなる足となっていた。
ヌータに馬車を牽いてもらって魔界の奥地を目指している。
里の人達にここまで着いてきてくれた馬の世話を頼みたいと相談したら、農地を荒らす害獣がいなくなるんだからそれくらいお安い御用と、快く引き受けてくれた。
ヌータは頭が良く言葉を理解していた。どこかで飼われていたのかもしれない。
でも魔王サイドのモンスターがもともとの主人だったとしたらこんな風に人間の言う事を聞くとは思えないし、かと言って人間に飼われていたと言うのも考えにくい。
とりあえずあたし達に危害を加えようとするモンスターじゃないし、天敵もいなくて水陸問わない移動力があるから移動手段にはとっても有用。
マップによれば魔王城までの道中にモンスターの城塞都市と思われる場所がある。この先の地形には河や岩場もあるけどヌータがいれば迂回しなくても良さそうだ。
さぁさ、ヌータに乗って最短距離で強襲だ!
歩みはちょっと遅いけどな!
~懐かしのモンスター ―『まさかここで出てくるとは』編―~
「ロックトータス・ヌータ」
(命名:エシャリ)
コウスケ(邪眼王)の能力によってただでさえ高かった防御力を極限にまで高められた超巨大陸ガメ型モンスター。
あまりに高い防御力からもともと天敵のいなかったモンスターだが、ブーストされて超厄介な存在に。成獣だが成長も続いており、ほかのロックトータスとも一線を画す巨体を誇る。
硬度的には「ヌータ>アースドラゴン>クリスタルドラゴン」の順で本当に硬く、物理的に倒す事は出来ない。有効な攻撃手段は”死霊系”魔法のみ。
襲われる心配が限りなくゼロになったので、のんびりした性格がさらに加速し、全く攻撃性が無くなっている。
シルフィーに名前を呼ばれ、懐いていたエシャリ以来初めて人間の雌を見て当時の事を思い出し、めでたく二人の仲間(?)になる。
現在不定期更新中です。
どのタイミングで執筆できるかも分からず、本当にご迷惑をおかけしております。申し訳ありません・・・