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パン職人が、はぐれた勇者を拾いました。  作者: 笹野ちまき
異世界編 〜只今営業中〜
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女神様の長い1日 前編

お手紙を配達しにいきました。前編。


白い美少女女神視点です。


 私の名前は、サラーシャ。

 十三女神の十三番目。


 まだまだ駆け出しの、お姉様たちに頼まれたら絶対に否とは言えない、しがない下っ端の女神です。


 私の仕事は、広大なファーザス大陸の中央部、アーリガ・テエーアを見守ることです。


 私が生まれる前に、ここでは恐ろしい争い──人と魔の大戦があったらしく、ものすごくボロボロの大地が広がっています。その傷跡はあまりに酷く、三千年経った今でも、大地は未だ少ししか回復していません。


 生き物は僅かずつではありますが、増えてきました。

 ただ、この辺りは魔族のいる東地域に近い所為か、魔物のレベルがケタ外れに高すぎて、思ったようには増えていません。

 生命増加グラフは、横ばいなのか、それとも上がっているのか、目を凝らしてみても判別不可能です。数値表を表示して初めて増減を確認できます。数値表を開いてちょっぴり上がっているのを確認しては、にんまりするのが、私のささやかな楽しみの1つです。


 よって、私を信仰してくれる者もまだまだ少ないです。


 信仰力は、人々の祈りは、女神の力をより強くします。

 私が非常に弱いのも、この所為です。なんたって、人口自体が少ないのですから。仕方のない事なのです。いつか……遠い未来でお姉様達を追い越して、高笑いするのが私の夢で目標です。


 十二番目のお姉様は、私より少しだけ早く生まれた女神です。

 私と同じように、砂漠ばっかりの南の果ての地域をお姉様に押し付けられ──じゃなかった、見守りを任されています。その地域も、私の見守るアーリガ・テエーアと同じく、過酷な気候の為か、生命がとても少ないところです。


 よって、いつも私と信仰者数のデットヒートを繰り広げています。


 後、少し増えれば越せるのに、なかなか越せないのが悔しいです。越えられたら、お姉様達のパシリ役──違った、お姉様達のお手伝い役を交替できるのに。お姉様も必至なのか、とても熱心に任された地域を見守っておられます。ふふふ……でも、やっと、残り数人で同じ信仰者数になりそうです。必至になるのも分かる気がしますわ。お姉様。ふふふふふ。


 そういう訳で今回も、お姉様方に、ちょっと辺境の異世界まで行ってきて勇者様を回収してきてちょうだいな、と面倒事を押し付けられ──違った、大任を任された次第なのです。

   


 * * *



 いろいろありまして、どうにか【勇者】様を元の世界にお連れする事が出来ました。


 これはもう(ひとえ)に、ハンヤ様の多大なる助力の御陰です。


 ハンヤ様は、辺境の辺境の端っこの、私たちが誰も知らなかったくらいの、共通領域みたいな宇宙の端の、小さな異世界におられた方です。


 とてもお優しい方で、御姉様方の無理難題──ではなく日々の激務に疲れきった私に、一杯の水と食事を与えて下さいました。

 ナポリタンという異界の料理でしたが、ものすごく美味しくて、ほっぺたが落ちる程でした。また食べたいです。今度お伺いした際に、お願いしてみようかと思います。


 身体は小さい方ですが、とっても美味しいパンや料理が作れたり、あっという間にパン屋を開業してしまえる行動力と熱意をお持ちの、はっきりさっぱりした清々しい御気性の素晴らしい方です。


 なにより、あの【勇者】様に、言うことを聞かせられるのがすごいです。


【魔王に限りなく近い勇者】、【聖剣に選ばれなかったら魔王になっていた】【合法的破壊者】と、一部の方々や一部の神族の方々に、慄いた表情を浮かべて噂されていたあの方の頭を叩けるのは、ハンヤ様だけだと思います。実は最強なのではないかと思います。


【勇者】様が帰還に同意して下さったのは、ハンヤ様の説得の御陰です。

 私一人ではきっと無理だったでしょう。なんたって、魔王と同等の力を持った勇者様です。無理やり連れ帰る事など、しがない下っ端女神の私には到底無理です。力が及ばないし、第一、恐ろしくてできません。


 ハンヤ様は止ん事無き理由によって、こちらの世界に連れてこられ、帰る事ができなくなってしまいました。


 それを伝えた私に、怒るどころか、私の身を案ずる優しい言葉を掛けて下さいました。驚くほど美味しいパンもご馳走してくれました。本当に、お優しい方なのです。またあのパン食べたいです。お店に行ったらあるみたいなので、今度食べさせてもらおうと思います。


 そして、【勇者】様の面倒も引き続き見て下さっています。


 これはもう、本当に助かります。ハンヤ様がいてくださる御陰で、もしかしたら、いつかアレクシェイド様が次の魔王になってしまうのではないか、という恐怖から逃れる事が出来ました。感謝してもしきれません。


 そういう訳で、とってもとってもお世話になった方なのです。

 



 以上の事を、1番目の女神、イルーミネル御姉様にお伝えした次第です。


 御姉様は終始優しい笑みを浮かべ、静かに聞いておられました。

 私の報告を最後まで聞き終わると、何か御礼をしなくてはなりませんね、と下界に降りて行かれました。

 きっと、何かとても良いものを、ハンヤ様にお渡しに行ったのでしょう。




 さて。


 私はこれから、ハンヤ様の書かれたお手紙を、お届けしにいかなければなりません。


 大事な大事なお手紙です。

 責任は重大です。


 出張報告書にも、その旨を書いておきました。あちこち行かなければならないので、そこそこ長めの出張期間を申請しましたが、即オッケーがでました。


 では、行ってきます。



 そうそう。

 東京と言うところに、新名所ができたようです。

 ちょっとだけ、寄ってみようと思います。

 あのサッカーの試合の続きも気になります。どうなったのでしょうか。南の方で次の試合があるようです。対戦表に書いてありました。

 東の果ての海辺には、赤い鼻の【ネーズミー】っぽい動物や、服を着たたくさんの動物達が、一緒に踊ったり遊んでくれたりするところもあるみたいです。とっても楽しそうです。ガイドブックに載っていました。そこにも行ってみたいです。

 あと──


 ──こほん。

 遊びに行くのではないですよ?

 これはお仕事なのです。


 ですが、しっかり休養もとらなければ、いい仕事はできませんからね。


 ついでに、ハンヤ様が持ってくれば良かった、と言っていたエプロンなども、引き取って帰ろうと思います。



 さあ、早く出発しなくては。

 私は、【ネコタマーナ】の手も借りたいほど、忙しい身の上なのです。

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