6 「狂気に飲まれないように。」
さて、次で終わります。
楽しかったよー、書いてて。
コメントとかあったらください。
では、ウィリー君に待ち受けるものとは・・・!?
6
私はエレナ・キャロットです。
突然ですが私が生まれた日の話をしましょう。
私自身もあまり覚えていませんが、この世に命を授けられた瞬間重い病気にかかったらしいです。お母さんやお父さんはひどく悲しみました。それを聞いた私も悲しくなりました。
お母さんはイギリス中の病院にかかりましたが全て答えは「今の医学では治せない」と言われ、お父さんは知り合いの魔術師に頼み込みに行きましたが「これは魔法では治せない」と言われました。
そう、私は不治の病にかかっていたのです。
医者には余命二年半と言われてしまいました。
頭に血液がたまり続けると言う謎の病。
私の昔の写真見ますか?
みんな、「気味が悪い」と言いますから見せませんけど。
しかし、お母さんとお父さんは二年半、あきらめませんでした。
国内だけではなく世界中の名のある病院、名のある魔術師にアプローチし続けました。
それでも、現実は残酷です。
返答は全て拒否。
そうこうしている内に二年半が経ち、三年が過ぎました。
既に余命をきってしまっている私の頭はいつ破裂してしまってもおかしくありません。
お母さんとお父さんはそんな私を見ていつもこう言います。
「ごめんなさい。」
――ある日、いつもの様に大きな頭を支え、朝食を両親に食べさせて貰っていた私はとんでもない激痛に教われました。
ついに、その日がやってきたのです。
目の前の惨状にお母さんは絶叫し、お父さんはその場に倒れました。
辺りには大量の血液が撒き散らされ、チューブ状のよく分からない物体が散乱したと聞いています。詳しくは知りません。ただ、私の頭は破裂してしまったという事実だけは覚えています。
しかし、私は死にませんでした。
撒き散らされた血液は徐々に消えていき、チューブ状の物体も塵となってすぐに消えました。更に、破裂して修復不可能となっていた私の頭は、少しずつ元ある形に戻っていくのです。
そして、お母さんとお父さんはその異様な光景を目の当たりにして。
「だ……大丈夫だよ。お母さんお父さん。痛くないから安心して?」
その日から、お母さんとお父さんの態度は激変しました。
朝、起こしに来てくれません。
服を脱がせてくれません。
顔を洗うのを手伝ってくれません。
朝ごはんを作ってくれません。
お勉強を教えてくれません。
テレビを見させてくれません。
近所の子供たちと遊ばせてくれません。
ロクにトイレに行くのも許しません。
歯磨きもしてくれません。
昼ごはんも作ってくれません。
石鹸を使わせてくれません。
一緒に出かけてくれません。
お外で遊ばせてくれません。
本を読んでくれません。
折り紙も教えてくれません。
お風呂も入れてくれません。
晩ごはんも作ってくれません。
おかしやおやつを与えてくれません。
お手伝いをさせてくれません。
良い事をしても褒めてくれません。
悪い事をしても怒ってくれません。
夜寝るとき子守唄を聞かせてくれません。
私に話しかけてくれません。
泣いても構ってくれません。
笑っても笑ってくれません。
怒っても正してくれません。
学校に行く時見送ってくれません。
教科書を買ってくれません。
鉛筆の使い方を教えてくれません。
挨拶の仕方も教えてくれません。
お弁当を作ってもらえません。
放課後、友達と遊ぶ事も許しません。
水筒も持たしてくれません。
雨が降っても傘を使わせてくれません。
転んで帰ってきてもばんそうこうを貼ってくれません。
はさみの使い方を教えてくれません。
数の数え方も教えてくれません。
学校で起きたことの話を聞いてくれません。
私を見てくれません。
それでも私はそれが普通だと思っていました。
親は、子供に酷い事がないと何もしてくれないと、思っていました。
そう、私にとってそのような非日常は、何の変哲もない皆さんと大差ない普通でいつも通りの日常でした。
だから、私は感謝しています。
両親には感謝したりないほど、感謝しています。
両親には恩返したりないほど、恩返しします。
私は、恩返しのために一生懸命勉強しました。なぜかと言うと、どっかの誰かさんが言ってたからです。『勉強が子供の仕事』だと。
毎日仕事にまい進しました。
そして、中学受験でドイツのミューリッツ州にある聖ダイア魔法学校中級校一年超特待クラスSSに合格しました。世界でNo.1の偏差値を誇るとてもすごい学校です。
ありがとう、お母さん。
ありがとう、お父さん。
「ありがとう、お母さん、お父さん! おかげで、私はとても幸せです!」
合格発表の次の日、お母さんとお父さんは二人とも首を吊って死んでいました。
「あれ?」
* * *
そう言って、エレナは顔を暗くした。
まさか、彼女にそんな過去があったなんて……僕は、彼女の何を見ていたんだ!?
必死に助けを求めていたじゃないか。それを、僕はわざわざ丁寧に断って……!!
「――どうして、お母さんとお父さんは死んだのかな?」
エレナはそう僕に問いかけた。
すると、話を聞いて落ち着いたのか、ビスケットが立ち上がった。
「どうしてって、分かっていないのか? エレナ、お前は何も」
「あなたには聞いてないわ。私はウィリー君に聞いてるの。余計な首を突っ込まないでくれるかしら?」
体の機能をロクに果たしていない体でエレナはそう言った。
「ね、どうしてだと思う?」
そんな体でもエレナは意に介さず、好奇心旺盛な目で僕を見た。
どうして、そんな顔が出来るんだ……。
「少なくとも、エレナは悪くない……」
そう答えた。
答えとしては相応しくない答えを。
「……そっか。ウィリー君もそう思うんだね。ありがとう、おかげで目が覚めたわ」
嘘をつくエレナ。
本当は違うんだろ?
「じゃあ、この胸に刺さってる奴抜いてよ。とりあえず、こんな風に普通に話せてるけど本当はすごく痛いから」
「……分かった」
僕は一歩ずつ、エレナに近付いた。
「うっ――!?」
教卓の上の内臓の様なものが、実は少し波打っている事に気が付いて口を押さえる。
それにしても、臭い。
やはり、エレナの腐敗臭かよ……っ。
「あっ、ごめんね? やっぱり臭いがきついかな? ごめんね?」
謝ったエレナに。
急に何かを言いたくなった。
どうして――
「――謝るんだよ」
「え?」
聞こえなかったようで、エレナは僕に聞き返した。
「どうして、謝るんだよ」
「ど……どうしてって」
「分からないのか? お前が謝る必要はないって言ってんだよ」
後ろでビスケットが「ウィ……ウィリー?」と心配そうにおろおろしている。
「お礼を言う必要もない、謝る必要もない。誰からも、お礼を言われるような事もしてないし、お礼を言うような事もしてねーじゃねーか」
エレナは、もう心が捻じ切れている。
普通こんな状況で、謝ったりしねえよ!
「何? 何が言いたいの? どうしちゃったの?」
「何も。ただ僕が言いたいのは――」
エレナの心臓に刺さっている杭に僕は手を出した。
「僕は、お前が嫌いだ。だから、相手してやる」
「あら、ありがとうウィリー君。うれしいわ。私が一番やってみたい事なの」
そう言って、僕はエレナの杭を引き抜いた。
さぁ、始めよう。
僕は、お前の心を取り戻そう。