5 「死者は笑わない。」
5話目だよっ
ピクシブもやってますっ。
ピクシブではもっと進んでます。
5
校門まで僕とビスケットは何も話さなかった。
「――血は、完全に消えてるな」
学校に着いたときには、今まで通ってきた道の血は完全に消えており、学校にも一滴も付いていない。いつもの、変わり映えのしない馬鹿でかい校舎だ。
「ウィリー。これじゃあ、血が追えないぞ……」
ビスケットはいつもの学校を見て少しは気が元に戻ってきたらしく、いつも通りの口調で言った。
「そうだな……」
僕はそう呟いて、校内に入った。
「ウィリー、何処に行くのだ? まだ、誰も来ていないっぽいぞ?」
「それならそれで都合がいい。誰もいない方があんな血を、……いや。よそう。今は探す方が優先だ」
僕とビスケットはそのまま靴を履き替えるため、昇降口に入った。
自分の靴箱に超電磁浮遊登校靴をしまい、超電磁浮遊上靴――通称、浮きわ靴――を履いて、校舎の一階ホールに来た。
「それにしてもお前、靴でかいな」
なんか、僕のより大きい気がする。
「うん? あぁあ、私の靴は二十七あるからな。普通の一般女子の平均サイズを大きく上回ってるかもな」
「え、まじで?」
僕は二十六だ。一センチも違うの? 身長差は二センチなのに?
だが、身長や足のサイズに負けたからと言って拗ねるウィズリー・リルベルトではない
のだ。
そんな小さな奴じゃないぞッ!
「あれ? ウィリー怒ってるっぽいな? 私に負けているのがそんなに悔しいのか?」
「はぁ? そんな小さなことで拗ねるほど僕は小物じゃありませんよ」
「いーや、拗ねてる。ふふん。ウィリーはまだ子供だなァ」
「なんだと怖がり」
「言ったなチビ」
「血液恐怖症」
「いや、それは違うぞ。あの時は、シチュエーションがシチュエーションだったからな。道端にぶちまけられた血が、一瞬にして消え去るなんて予想だにしていなかった。あれは驚いたけど、まぁ。思い返してみればそんなに驚くほどでもなかったかな」
「嘘つけ。泣いてたじゃねーか」
「あぁあ。あれはあくびだウィリー」
と、ビスケットはしれっと言う。
……怪しいな。
「なぁ。ビスケット」
「うん? どうしたウィ――」
「っぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」
「っきゃあああああああああああああああああああ!!!!!????」
僕がいきなり大声を出すと、ビスケットは思いっきりビビった。
「って、めっちゃビビってんじゃねーか!」
「いやっ! それは反則だ! いきなりは誰でもびっくりするって!」
「驚かす方より怖がる方の声が大きい時点で、驚かした方の勝ちだぜ」
「まぁ、私はその程度じゃ驚かないけどな」
「驚いたって自分で言ってたじゃん」
「驚かないけどな」
……繰り返した。
「うわっ!?」
「ひぅえ!!?」
僕が今度はビスケットの後ろを指差して驚いたふりをした。
すると、案の定ビスケットは可愛らしい悲鳴を上げて地面にへたり込んだ。
「うぅう……だから、いきなりはやめてよぅ……」
目に涙を溜めてこちらを見上げてくる。
美少女+涙+上目遣い!?
何か、体の奥から熱くこみ上げる!
「分かったよ。悪かった」
僕はビスケットに手を差し出す。
「ほら、立って」
すると、ビスケットは僕の手を掴んで「んしょ」と立ち上がった。
「――で、ウィリー。どこを探すんだ?」
目にたまった涙を拭いて尋ねてくるビスケット。
「とりあえず、SSSクラスだ。僕のカンが正しいならば、もしかすると、もしかするかもしれないしな」
「そうか。じゃあ、急ごう」
ビスケットと僕は廊下をなるべく音を立てずに移動し、教室に向かう。
「なんで、SSSクラスだと思うのだ? 他にも候補があるだろう。まさか、私らのクラスが関わっているのか?」
「そうじゃないといいんだけどな」
SSSクラスは、さっきいた本館第一棟一階昇降口前ホールから約二百メートル程離れた本館第三棟三階の一番奥にある。
二人は本館第三棟に着き階段を無言で上る。
そして、第三棟三階の奥から三つ目の教室がSSSクラスになって……!?
「うっ!?」
「何……これ?」
酷い悪臭が僕とビスケットを襲う。
腐った生ごみを三倍に凝縮したような。
不快な悪臭だ。
「……行こう。この階に間違いなくいる……うっ!」
「分かった。だけど、ウィリー。この臭さは異常だっ!」
ビスケットは鼻を押さえ苦しそうに悶える。
腐敗臭か、これが。
二人はSSSクラスに向かって歩き出す。
教室に近づくにつれて悪臭は濃さを増して行き、我慢できなくなったビスケットは窓をあけて新鮮な空気を吸う。僕も窓に近寄り、肺の中の空気の洗浄作業に勤しむ。
だが、そんなものは気休め程度。次々と鼻腔内を襲撃する匂いは、空気の入れ替えでは防ぐ事などできず。すぐに肺の中は腐臭で一杯になる。
「ウィリー……吐きそう……う」
「おいっ! がんばれ! 何をがんばるのかは分からんが、お前は吐いちゃいけない気がする! 僕ならいいと思うけど、ビスケットはダメな気がする!」
しかし、ビスケットの口と不快指数は既に限界を超えており、決壊直前だった。
「いや、むりんぼろろろろおお!!」
「いやぁあああ! ビスケットやめっ! うわっ! 臭い! この匂いの中でもにおぼろろろろろ!!」
「ううううぅぅ。余りの臭さに私ウィリーの目の前で吐いてしまったうごろろろろろろ」
「まてっ! それ以上吐くのはやめろろろろろろお」
しばらく、その場で二人して胃の中身をぶちまけてしまった。
マジで、きつい。
死にそうだ。
「ビスケット! だ……大丈夫か!?」
「いやっ。うぅう……全然大丈夫じゃ……」
「ちょ、とりあえずここから出よう。無理だって。絶対死ぬ」
そう言って、口を押さえげんなりしているビスケットの手を引っ張ったが。
「待って、ウィリー。あれ、見て……うっ」
「ああ? 何を見るんだよ」
ビスケットが死にかけた目をしつつ、右手の指をその方向に向けた。
「――!! 血だッ!」
SSSクラスのドアの下の隙間から少しだけ、赤い液体が見える。
「行こう、ウィリー。ここまで来て引き返したら、私のゲロはどうなるんだぼろろろおおおおううぅぅえ」
「吐きながら言われてもっ! ……でも、お前の言うとおりだ。少しこの臭いにも慣れて来たし、あと、半分だし」
「そうだ、ウィリー。あとちょっとどどぼぼぼろろろろろえええうぇ」
「ちょ、もう吐くのやめろ! 僕はもう慣れて来てるんだから、ちょっと我慢してくれ!」
「う……うん」
ビスケットは白目になりながらも、理性だけは何とか保ち、うなずいた。
こんな状況でも自分を忘れないのか。
流石だな。
そんな、褒められるような事でもないけど。
「う」
腐臭、腐臭。
おいおい、どうして学校の連中は気付かないんだよ。ありえない位にやばいぞ。なんか腐った生ゴミを食料としているゴキブリの大群の死体の中を這いずり回ってるみたいだ。
本気で昇天しそう。あと、教室までの何十メートルが異常に遠い。普段は走って十秒かからないのに、既に一時間が経っていそうだ――隣のビスケットは吐くなと言っているのに顔の耳以外の穴から絶えず液体を流し続け、今にも死にそうな表情をしている。だが、それでも教室に向かおうと動く足のスピードは変わらないし、目の色は更に力強さを増してさえある。
「あと、ちょっと……!」
目測およそ十メートル。赤い液体は、先ほどの校舎前に続いていた血とは違い、流れ出る量は増え続け、僕たちの靴を湿らせる。
やはり、ビスケットが言ったように。これは血だ。しかも、まだ新鮮さが残っている。
そして、ついに教室のドアに手をかけ赤く染まった部屋を見た。
「……!?」
何?
何だコレは?
何が、ここであった!?
「ウィリー、ど……どうしたんだ……? ――――っ!!」
遅れてきたビスケットも、言葉を失った。
そりゃそうだ。一体、何処の世界にこの光景を見せられて固まらない人間が居ると言うのだ。もしいるとしたら住所・氏名・電話番号とご希望のコースを選び、下記の住所まで送ってもらいたい――とかふざけている場合じゃない。これは、やばすぎる。R‐18G指定だ。
そこには、何の変哲もない教室――の中心正面向かって北側に設置された黒板に。
「え……エレナ…………?」
そこには、昨日僕に告白をして、僕をフった、エレナ・キャロット。
の、真っ赤に染まった死体が貼り付けられていた――!!
「嘘だ嘘だ! な……なんだよこれ! 何時の時代だよ!?」
しかも、ただ真っ赤に染まってるだけじゃなかった。
学び舎の、皆のノートである黒緑の黒板の中央の上よりに、エレナの両手が重ねられるようにして直径五cm程の釘で留められており。首には二本のナイフが交差されるように刺さっている。さらに、華奢な両足は力なく伸びてどちらの足も、めちゃくちゃな方向にひん曲がっていた。
中でも強烈なのが胴体――その機能は十分に発揮されていない。胴体というには、中身がほとんど無いからだ――は無造作に切り開かれ教卓に中身がぶちまけられている。
右胸の、丁度心臓辺りには何度も打ち込まれたであろう杭が刺さっており、そこから絶え間なく血が流れ続けている。
「うぃ……りぃ。こ……怖いよ。何よ、こんなのっ。い……いやああああああ!!」
ビスケットは、その場に崩れ落ち頭を抱えて泣き叫んだ。
「ビっ……ビスケット! だ……大丈夫か!?」
いや、大丈夫なもんか。こんなの、こんな状況、発狂して当然だ。僕でさえ、今すぐに頭を打ってその場に眠りたいくらいだ。しかし、眠り込む暇も無い。それに、こんな所で寝たら血が気道を塞いで窒息死する――って違うよ! この状況でなお、ボケていられる自分がとてつもなく恐ろしいよっ!!
「だいじょば無い! 怖い怖い怖い!!! いっやあああああああああああっあああ!!! 帰りたい! 助けてっ! ウィリー助けて! 怖いよぉ!!」
ビスケットは頬を濡らして、僕に抱きついてきた。
そして、その。
「――さい」
瞬間、全てが停止した。
「うるさい」
な、誰だ? 今誰が喋っている?
「ウィリー君。おはよう」
後ろから、聞き覚えの声がした。
この声は、やはり最近聞いた声だ。
しかし、僕は今ビスケットのほうを向いている。先ほど、黒板を見ていた僕に後ろからビスケットは抱き付いてきたため、今は僕の背後には黒板しかない。
じゃあ誰が?
決まっている。
僕は、後ろを振り向いた。
「――私に会いに来てくれたの?」
エレナ・キャロットは、内臓を全て出され、手足はぐちゃぐちゃにされ、気道をナイフで塞がれ、心臓を潰されているのに。
笑顔だった。
そろそろ、終わります。
僕は閲覧数が少ない でも書こうかな。