1 「彼女に向けての単純な。」
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なお、この作品はpivivにも投稿されています。
こちら→http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=453214 からどうぞ。。。
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読んだことは多々ある。
主人公が突然異能に目覚め、そこから複数人の女の子たち(つまり、ハーレム状態)で展開していく学園異能バトル漫画を。面白い物も数多く存在し、逆につまらない物も少なくない。しかし、世に出る学園異能バトル漫画の中で特に売れるものがある。それは、大抵が主人公の能力が限度を超してチートか、ある特定の条件が揃えばチートか。この二つに一つが大半を占めている。なぜなら、まぁなぜなら、と言えば理屈っぽい見解を述べているような気もするが、これはあくまで僕の個人的意見であって総合的な事を述べているのではない。なぜなら、やはりその方が気分的に読んでいてスカッとするからではなかろうか。強い必殺技で敵を圧倒したり高度な頭脳戦で勝利を収めたり。
言うならば、気分がいい。
特に僕は――これも個人的意見のため無視してもらっても構わない――そういう物語の序盤が大好きなのだ。初めは弱い主人公が最強の能力に目覚めて悪い奴をぶっ飛ばす絵はいつ見ても気持ちの良いものである。
反対に、そのような物語の後半はあまり好きではない。主人公が強いと自然と敵も強くなるから、主人公の味方では太刀打ちできない。力不足もいいところだ。と、そんな感じで落ち込む味方の肩に手を置き主人公は大抵こんな台詞を言う――「あとは、俺に任せとけ!」そして俺は片手を上げた。大事な仲間とこの場所を護るため――的な。その場面自体はそんなに嫌いではないが主人公を目立たせるために敵を異常に強くするというのが嫌いなのだ。次々に強い敵を出していけばいいみたいな、そんな空気が嫌なのだ。
そんな中で何十、何百と学園異能バトル漫画を読破してきた。幾千、幾万と学園異能バトル小説を修読してきた。
おそらくは、この国で最もこの手の作品にくわしいだろう。いや、くわしくなっているはずだ。全ての作品のあらすじを二百文字程度で語れるほどに。
というのが、僕の裏設定である。
決して表舞台には立たない裏の設定。現実には存在しえないあり得ない設定で、他ならぬ僕が最も望む設定だ。
こんな、くだらない人間でいたかったのだ、と。
こんな、普通の人生でよかったのだ、と。
そんな事を言えば引かれるだろう。「夢見てんじゃねーぞ、死ね」の様な酷く辛辣な言葉が飛んでくるに違いない。言葉の暴力だ。暴力反対。
だけど、仕方が無い。僕はこの物語の主人公で、女の子の中心にいて、チートキャラなのだから。決して普通の人生を送れるはずが無いのだ。
僕は物語の主人公なんだから。
おそらく僕の描写もそのような物語にありきたりな格好をしているのだろう。目つきが悪く、無駄に髪の毛が跳ねていて、友達が少ない、勉強は出来るがテストを真面目に受けない、むしろ受けに行かないような不良少年で。そのくせ、女子にはモテている。
意味が分からない。なんだその超人は。チートにも程がある。ふざけるなと言いたい。苦しさから逃げ続けて、楽しさだけを得る人生がそんなに都合が言い分けないだろう。人間をなめるな。主人公職をバカにするな。
僕は毎日誰とでも隔てなく接しているし、勉強もテストも真面目にやっている。寝癖はちゃんと直し、目つきだって悪くない。当然女子からモテる訳が無い。
だけど、それがいいと思う。それでいいと思う。そんな超人チート人生になんのやりがいがあるというのだ。よっぽど、普通に生まれて、普通に育って、普通に勉強して、普通に働いて、普通に泣いて、普通に幸せになった方が人生楽しいはずだ。苦しんでこその人生だろ。
そもそも、そんな人間が物語の主人公になれるわけが無い。女の子に危険が迫ったらすぐに助けに行くなんて。裏を返せばただのストーカーじゃないか。前に述べたような主人公像を描いた人は頭が終わっている。頭が腐っている、死んでいる。
だけど、それも仕方が無いのかも知れない。
なぜ僕が主人公に選ばれてしまったのだろうかなんて、考えるだけ無駄である。
理由は単純。僕が、チートな異能を持っていたせいだ。
どうせ、主人公がチートなのはある程度確定していたのだから。
話を整理しよう。
いや、整理すべき話が全く書かれていないのだから整理も何も無いのだが。しかし、話を整理しなければこれからの物語を語る事も不可能となる。よって現状を報告しよう。
ここは、異能なんて当たり前、魔法なんて日常茶飯事の世界だ。だけど、普通の世界と姿はそっくりだ。ユーラシアがあって、オセアニアもあるし、アフリカ、アメリカだって普通に大陸としてある。極東の小さな島国だって普通に存在している。
だけど。大昔から異能、魔法は研究開発されていて、約百年前には既に文化として成り立っていた。生活の根本から違う、生活の基準からずれている。まぁ、普通の世界とは完全に別物だ、と認識していただければ幸いだ。
そして、僕についてだ。
僕は、ウィズリー・リベリスト。現在ドイツに住む十六歳の男だ。現在進行形で平均偏差値七十六を誇る、『聖ダイア魔法学校上級校』の一年超特待生クラス――通称SSSクラス――に通っている。今その道すがらを――通学路を通っている。しかし、毎朝通う学校なのに足が重い。僕は学校に行きたくないのだ。足が重いという表現もここでは不適切なのだが(超特待生限定の学校から支給される超電磁浮遊登校靴、いわゆるフェザーブーツ。歩かなくても自動に学校に向かってくれるという靴だ)気分的な問題で。
第一、僕は何一つ努力などしていないのに。生まれ持った才能だけでこんな特待生になってしまった事に苛立っている。もっと、僕じゃなくて。ほかの周りにいた、必死で努力に努力を積み重ねてこの学校に入学してきた人もいるというのに。何で僕なのだろうか。
第二に僕はこのSSSクラスで浮いている。理由としてあげるならば、素行が悪いだとか、髪が立っているだとか、黒髪だとか、目つきが悪いとか。例を挙げるとキリが無くなって来るけれど。おそらく最大の理由は「僕が男だから」で決定だろう。
そう、このSSSクラス。ウィズリー・リベリスト以外は全ての生徒が女子だ。全員女子、ただし一部を除くみたいな。その一部が僕なのだ。浮き過ぎている。静かな大広間の中で大きなくしゃみをしてしまい、結果周りの人たちから異常な注目を浴びる。その感覚がずっと続くようなものなのだ。肩身が狭すぎる。
だからと言って授業をサボる事が出来ず(何より僕のせいでSSSクラスに入れなかった同級生の努力を無駄にしないため)こうやって、授業を受けに足を引きずる思いで足を浮かせながら、毎朝登校。と、その時。
「あ、ウィリー君。今日も元気ないね。どしたの?」
近づいてくる女子、エレナ・キャロットがいた。
「あ。えっと、私のこと分かる? 同じクラスのエレナ・キャロットです」
外見は知ってる。
金髪で、若干のウェーブがかかったロングヘアー。目は丸く、耳にはピアスがある。身長は僕と同じぐらいで声はわりかし高い。外見はそんな女子だ。
しかし、僕はコイツの内面の事をよく知らない。あまり話した事さえないのに僕のあだ名を知っている。まだ五月だぞ? こっちがどういう対応をしていいのかが全く分からない。なので、しばらくだんまりを決め込んでいると彼女は、
「ウィリー君、そろそろ馴染んだ方がいいんじゃない? 確かに男の子一人はつらいと思うけど。でも、やっぱり友達の一人や二人は必要だと思うよ?」
そんな事を笑顔で言ってきた。
かなり余計なお世話だ。僕は好きで一人でいるのに。SSSクラスに入るのに、何もしてこなかった、僕への罰として。その前に、お前の方こそ馴染めてない様な気もするぞ。僕は無視をし続けた。
「ね、ウィリー君」
と彼女は一つ間をおいた。一体何を言い出すかと思えば、
「私と友達になってよ」
だそうな。
「……は?」
展開が速い。もうちょっと順序よく、手順を踏んで友達同士になれるんじゃないのか?
「私の能力知ってる? 『尾を噛む蛇』って言うんだけど。まぁ言ってないから知らないと思うんだけど。私ね。その能力のおかげでSSSクラスに入れたんだ。ウィリーと同じなの、何も努力しなくても、こうやってこのクラスに入ってしまった事。とても後悔してるわ。どう考えても私なんかよりよっぽど優秀な人がいるのにって。だって私勉強出来ないもん。先生が何言ってるのかが全然分かんなくて、問題とか当てられても答えれた事なんて一度もないし。そのおかげでクラスの皆からは笑われちゃうし。うんざりなんだよ、本当は。何で自分がこんな分相応な位置にいるのかなぁって。そのことを考えない日は無かった。でもね」
――と。彼女は言葉をついだ。でもね、と確かめるようにこっちを見ながら。
「ウィリー君みたいな、私と同じ境遇の人がいて……ってあれっ!? 話し聞かないのッ!?」
しかし、僕にそんな話を聞く意味も意義も時間もない。実際授業の始まる五分前だったので、そそくさと歩を早める。
「ねぇっ! ねぇってば! 話し聞いてよぅ!」
彼女は若干泣きそうな顔で僕を追いかけた。しかし、僕は前を向いたままこう答える。
「聞かない。そもそも僕はそんな悲しい奴じゃない」
と。嘘を、虚言を吐いた。
「嘘」
だが、彼女はそれでも。食い下がろうとはせず、僕に食らいつく。
「あなただって、私と同じじゃない。一人で、独りで。今までも、これからも。ずっとひとりぼっち――」
「心外だな。君の目からは僕がそういう風に映るのか。だとしたらいい眼科をお勧めするぞ」
「だって、あの日……ッ」
少しうざいので、ため息交じりに振り向き「じゃあ、仮に」と言って彼女を――エレナ・キャロットを睨んだ。その際、彼女はぶるっと体を震わせ身じろぎする。
「じゃあ、仮に。僕が本当に君と同じ境遇だったとしても、僕は絶対君とは関わらないだろうな。今までも、これからも。だから、関わるな」
忠告するように、言う。きつく、強く、咎めるように言った。彼女にではなく僕に対し
て。
すると、流石にあきらめたのか。それとも、僕の言葉がショックだったのか。
「そう……」
彼女は少しうつむいて呟いた。
彼女の足元には無残に潰された一匹の蛾が蟻に運ばれている。