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Eternal wish   作者: キッド
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夢の世界(ドリーム・ワールド)

ロックが両手を広げると途端に周囲は紫色へと変化する。

世界を飲み込むようにして変動していくが、俺の体にはなんら変わりない。

であるならコイツの能力は相手に直接的な攻撃を与えるタイプではない、付加型か何かだろう。



「通称ドリーム・ワールド。

そのままですが夢の世界ということです。

今この空間に存在するのは私とあなたと彼女だけ。

他のものがこの空間に割り込むことなどできませんし、逆も同じです。

あなた方は逃げることさえできません」


「おいおい、ネーミングセンスを疑うなぁ、ロック君よぉ。

かっこいい名前付けてやんねぇと能力がかわいそうだぜ?

加えて逃げられねぇだぁ? 何処まで夢見心地なんだよ、てめぇは。

昨日の現実を見てみろよ、逃げられてんだろうが。

お前よりも劣っている能力者によぉ?」


「かも知れませんね。 しかし、彼はターゲットではなかった。

言い訳にしかなりませんが、私としてはそれでよしとしているのです。

もしくは空間転移のような能力者だった可能性もありますからね。

そうであるなら逃げ出せても仕方ないのですよ」


なんか妙に開き直ってやがんな、こいつ。

けどまぁ、確かにこいつの考えは間違っちゃいない。

このドリーム・ワールドと現実世界をつなぐ境界線の一部に衝撃を加えて、そこにできた歪みから脱出したんだろう。

一見簡単そうに見えるが、かなりのオーラを必要とする。

だからあいつは、オーラをためるまでにかなりの時間を使ったし、脱出した直後、オーラを消耗しすぎて倒れたんだ。

まず普通の能力者なら歪みどころか、ヒビ一つ入れることさえできない。 ・・・・・・やっぱ隠してる力はあいつが一番か。


「まぁ、心配すんな。

俺は逃げ出したりしねぇからよ。

お前は、じっくり遊んで、じっくり殺してやる」


こいつは例の組織、勇のダチの組織の一人、ようは手下に当たるわけだよなぁ。

別にこいつ個人に何かあるわけじゃねぇ、放置しててもかまわねぇゴミみたいな存在だ。 だが組織の人間であるなら話は別だ。

こいつらの存在は、俺の行動の邪魔にしかならねぇ。 今はそうでなくてもいずれそうなる、なら今の内にできるだけ戦力を減らしておくに越したこたぁねぇ。

なにより俺の護りたいもののある場所を荒らそうとするやつらだ、生かしちゃおけねぇだろう。

あいつ、美由、そして唯。 あいつらがここにいる以上、この場所はまもらねぇとな。


「(……こいつらの思想、嫌いじゃねぇんだがな)」


こいつらのことを考えると、かつてのことを思い出す。

俺や陽介、暗黒騎士領内でのことだ。

ガキの頃の俺たちはまるでこいつら、俺たちももし、そのままの状態で、そのままの気持ちででかくなってりゃこうなっていたのかもしれない。

そうなってりゃ、お互いとても幸せで、こんな状況になんかなってなかったのかも知れねぇ。

だが、俺たちはそうもいかなかった。 普通の環境でなかったこと、周りがそうさせなかったこと……なにより俺たちの間には、深く絡み合った諍いの糸が、俺たちに見えずにこんがらがってやがったんだ。

……それはどうやっても。


「何をうつむいている、魔王!!」


!? 

人が考え事してる間にこいつ、殴りかかってきやがって。 おかげで一発もらっちまったじゃねぇか。

並大抵の攻撃じゃ何も感じねぇんだが、こいつのコブシは痛ぇ、おまけに口の中が切れて血がこぼれてきやがる。

まぁ、俺が考え事なんてまんざらでもなかったな。

何も考えずに殺す、それが俺のモットーなんだからなぁ。


「ってぇ~。

でもま、おかげで眼が覚めたよ、ロック君よぉ。 確かにおめぇはつえぇ、そいつは認めてやるよ。 

つええやつに手加減なんか失礼だからなぁ、ちょいと本気出してやらぁよ」


俺は手首につけていたゼロ・ブレスを外すことなく、体中からオーラを発する。

普通、ゼロ・ブレスってのは取り外し不可なんだが、あのちっこい生き物、先生が取り外し可能なタイプを遊に渡してくれたおかげで、いとも簡単に俺はゼロ・ブレスを外せる。が、外すわけにもいかねぇよな。いつ、体の所有権が遊に戻るか解らねぇんだからな。

あのちっこいやつも気になるところだが、今はこいつだな。


「貴様、何故ゼロ・ブレスを? それをつけながら私の攻撃を受けたというのか?」


「さぁなぁ、不思議と思うならTMA2区画、全てを探してみるんだなぁ。

まぁ、そうなった瞬間にお前らは動かざるを得ない状況になってGAME OVERだがなぁ。

てめぇの拳をもらったのも事実だよぉ、ゼロ・ブレスはまだ開発段階って話だからなぁ、ある程度のオーラを向こうかできても俺のオーラ全てを無効化なんざできやしねぇのさ。


意外と不良品ばっかだよなぁ、中立国ってのも。

大したもんだぜ、これで聖騎士と暗黒騎士の間で中立国やってるんだからよぉ」


「くっ……どれだけの化け物だというのだ?貴様は。

今ならわかる、主様がこの男を殺せと命じる理由が」


そして、ロックは地を蹴り一気に加速して向かってくる。


「貴様は生かしてはおけない存在なのだ、力もその性格も!

この地で、いや地球で貴様の生きる場所などない、与えてはならない!!」


お互いに武器を使うでもなく能力を使うでもなく、ただオーラによって強化された拳と蹴りだけで戦う。

端から見れば、路上でけんかしている不良どもと変わらないように見えるかもしれない。

ただ違うのは速度と力、そして身のこなし。

オーラをまとっていなければ、かすりもしないパンチでお互いに消し飛ぶ。

互いに体感速度についていけなければ、とてつもない重傷を負う。

そして、それらを生かす身のこなしがなければ、すぐにやられる。

……不覚だが、俺は感じちまってる。 こいつは強いってこった。


「はぁっ、確かになぁ。 俺には生きる場所も生きる価値も生きる意味も、他人と比べりゃ無いに等しいぜぇ?


「ならば何故貴様は、何のために戦う? 何に必要とされ価値を見出す? 何を糧に生きる?

貴様が、貴様たち人外生物が絶えれば、世界は平和なのではないのか!?」


「てめぇにゃかんけぇねえよぉ。 大体、他人の生きる意味だとか生きる価値だとかを勝手に決めるんじゃねぇよ。

そんなもん自分で決めて、自分で納得すりゃいい。

何もしらねぇ餓鬼が、人の物語に首突っ込んでくるんじゃねぇよお」


たぁいえ、俺の人生をしりゃ、誰しもが価値のない意味のない人生だと、生まれてこなければよかった存在だというと思うがな。



「そんなことよりも、今はこの状況を楽しめよ、ロックとやら。

俺が、お前は戦えると認めてやったんだ、もっと潰しあおうぜぇ」



理由、意味、価値、そんなもんとっくの昔、俺がガキの頃だった頃に捨てちまった。

今はそんなもんより、こいつとの死合を楽しむ方が先決だ。


「いいでしょう、あなたにはもうこれ以上の言葉や手加減は不要のようだ。

本気で……殺す」


「いいねぇ、その殺気。 ぞくぞくするぜ。

高鳴るよなぁ、相手に殺されそうになるときの恐怖感、自分に語りかけるかのような殺人衝動、出し惜しみのできない相手との戦いの最中の臨場感。

もっとだ、そいつを俺に感じさせてくれよ」


ロックの体を覆うオーラがどんどんと高まっていく。

なんだよ、もっと力を出せるのかよ、楽しいじゃねぇか。

補助系能力で俺と渡り合える力……くくっ、潰しがいがあるやつだ。


「そぉぅら、いくぜぇ!!」


地面をけり、ロックに向かって飛び出したそのときだった。


「(……!? あぁ!? 体が重てぇ?)」


飛び出して、マッハほどのスピードを出しているにもかかわらず、ロックにたどり着くことなく途中で体が止まる。

スピードを出して、急に止まったのに体に負荷もない。 ただ止まった。

いや、止まったという表現はおかしい、少しずつだが動いている。

体も全く動かせないわけじゃないが、凄く重い。

全くどうしたものかと手、足、腕を動かそうとしていると、眼にも止まらぬ閃光のような一撃で、ロックとは逆方向に弾き飛ばされてしまう。


「……つぅう、あんだよ、こりゃぁ」


「ふん、魔王の子といってもその程度ですか」


「あぁ!?」


「所詮は私たちの敵ではないということです。現に私の攻撃を見るどころか、体さえ動かすことができなかったでしょう?

どれだけ多くのオーラをまとっていようが、私の前では無力なのですよ」


確かになぁ、やつの攻撃が見えなかった上に体さえ動かねぇ。

こいつぁ、やべぇぜ。


「さぁ、私は遊ぶ気はありません。 どんどん行きますよ」


閃光という例えにたがわないスピードで俺に迫り、どんどんと攻撃を繰り出すロック。

やつに対して、俺は体を動かすことができず、ただ棒立ちで攻撃を受け続ける。

いくら膨大なオーラで防いでいるとはいえ、消費ってもんがある。

このまま受け続けりゃ、俺だってやべぇし、そのうえ俺には制限時間がある。

オーラが弱くなりゃ、いつ体の主導権が戻ったっておかしくねぇ。

まじかよ、おい。こんだけ追い詰められてんのは……あれ以来か。


「っ、ユーラス君!  ……生命の源である」


「やめろ!! 使うな!! 黙ってみてろ」


「!!」


いままで影から見ていた新山美由は、俺の置かれている状況に耐えかねてか、近寄り、能力を使おうとしやがった。

そんだけはなんとかしなきゃいけねぇな。

この体が重くなったのはこいつの能力、そう見て間違いはねぇ。

そっからさらに、動かねぇわけじゃなく、重い、ってんなら別に問題はねぇ。



「……解ったよ、力だのオーラだの時間だの、そんなこといってる状況じゃねぇんだろ?

後のこと考えんのはヤメだ。

……お前が能力を使ったように、俺も能力を使う」


「ふふん、いまさらどんな能力を使おうが、無意味であると解らないのですか?

動かないのでしょう?」


「そいつぁ……どうかなぁ!!」


「っ!??」


体の動かせない俺が、不意に繰り出した手に驚き、ロックはすぐさま後ろに飛びのく。

ロックの着ていた衣服には、大きな爪あとのようなものがついている。

そして俺の腕には……黒い線がどんどん浮き出し、体まで伸びていく。


「貴様……何故動いている!?」


「不思議かぁ? 不思議だろぉ? でも現実だぁ。 これが俺の能力だよぉ、ロックとやら。

いたって単純、ただ戦闘能力を引き上げるだけ、そんでこの黒いもんが体に浮き出すだけ。

そんだけの仕組みなんだよ、どれだけ不思議だろうがなぁ」


やつに与えたダメージは衣服破っただけかよ……ちっ、俺の体が重くなるだけの能力じゃねぇってことか。

さっきまでのやつの行動速度なら、心臓までブスリだったってのに、かすっただけかよ……やつも相当スピードアップしてやがるな。

今のをよけるとなると、こんだけオーラ使っても五分五分くらいかよ。


「だがやるじゃねぇか、今のよけるたぁ。

割と本気だったんだぜ? いまのはよぉ」


「そんな荒業で……私の能力を受けながら通常の動きをしているというのか」


「あぁ、つってもまだ動きが重いがなぁ。

まぁ、てめぇとはれるぐらいには動けてるけどよぉ」


まったく、ロックとやらの能力はめんどくせぇぜ。

此処まで力出してんのに、いつもの10倍はおせぇ。

ストレスたまるぜ、こりゃぁ。

まぁ、そっから察するに、やつの能力は負荷能力かなんかだろう。

第一能力が力の付加、こいつは自分や味方、おそらくこのドリーム・ワールドとか言うフィールドで認識されたやつだけにある程度の力やオーラを与えるもの。

第二能力が力の負荷、逆にこれは敵の力を低下させるもんだろう。

こいつだけだからいいものの、誰かとペアでこられてたら……ってところだろうな。


「……私の能力は時間経過短縮能力。 この世界だけでしか使えない力だ。

第一段階である第一能力は私自身やこの世界で認識されるものの時間経過を1倍から8倍に短縮するもの。

ただ空間時間や対象以外の時間は変わらないゆえにスピードが高まると思っていい。

第二の能力が時間経過負荷能力。 これは第一能力の真逆、1倍から10倍までスピードを抑える。



……ようは今、私は普段1分かけて動けるものを7.5秒ででき、貴様は1分でできる動きが10分かけなくてはできない、つまり、私と貴様の時間のスピード、体感スピードは80倍違っている」


「はぁん、ようはスピードが80倍ちげぇんだろ?

そいつはわかったが、何で自分から能力をばらしやがったんだ?

てめぇからしにてぇって言ってるようなもんだぞ?」


「……私だけが貴様の能力を知っているのは、性に合わないんだ。

別に、この戦いで負けを認めたわけではない」


……律儀な野郎だ。 敵に自分の能力明かすなんざ、殺しに来てるやつのすることじゃねぇ。

これだから勇の親友ってやつは……。

だから、うまくいかねぇんだよ……まぁ、甘っちょろくなかったら勇も認めやしねぇか。


「いいぜ、今すぐ殺してやる。 かかってこいよ」


「……ここまで力の差があるとは……私も甘く見ていたのか。

ロック、いざ参ります」


そんときだった、ちょうど頭が痛み出しやがったのは。


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