青年は
□ ■ ユウ □ ■
……昨日は不覚にも、俺が押し込まれちまった。
こんなこと、二度とねぇよぉにしねぇと。
危うく、あいつを危険にしちまった。
なによりあいつに罪をきせるわけにはいかねぇんだ。
その分、俺がうごかなくちゃよ。
まったく、このゼロ・ブレスさえなけりゃ俺ももっと自由に動けるんだが、常につけとかなきゃいけねぇらしいからな。
昨日の約束通り、ロックとかいう野郎に借りを返しに行こうと向かうと、一人の少女が海の向こうを眺めていて、もう一人の少女と話しているようだった。
刀を突き立てられていたが、俺は安心してみていた、あの刀、有名な名刀、水・青龍刀だが殺気が全く感じられねぇ。
あれならあの方も切られる心配もなく無事だろうよ。
……話が一通り終わり、刀を使っていた女が去ると、俺はあのお方に近づいて話しかけた。
「……俺は貴女に死なれては困る、勝手に死ぬどうこうの話をされてはまずいんですけど」
すると、少女は普段とは違う俺が来ることを予期していたのか、落ち着いた声で、
「……久しぶり、というよりも初めまして、ですね、ユーラスさん。
大丈夫ですよ、冷香ちゃんは優しいですから」
と答えた。
さっきの刀の女は冷香というらしい。
……あいつもこの方と同じ、いや、むしろ俺と似ている感じがするが……どうだかな。
「……本音を言っちゃいますとね? 俺は早い段階で貴女を消しといた方がいいと思ってるんですよ、その方があいつだって苦しまない、あいつにはなにもさせたくないんですよ」
「うん」
「でも、貴女を消してしまえばあいつだって悲しむ、生きる気力、意味を失ってしまう。 それだけは俺も避けたいんですよ、言っちまえば、今貴女を守ってるのは消極的に考えているだけです……って言ってやりたいんですがね? 俺自身、貴女に憧れに近い感情を抱いちまってんですよ」
「憧れ? 私が?」
「当然ですよ、俺だけじゃなく、多分勇もね。
だって貴女は……あいつの本当を知っている唯一の存在なんだから」
あいつのことを真に知っているのは、いや、真に知っているとかそういうことではなく、単純に知っている人間はこの人を置いて他にはいない。
あの糞野郎はもちろんのこと、立場上、一番近い存在である俺や勇は何も知らない区分にはいるはずだ……あいつに何もしてやれてないんだから。
……遊にいたってはまだ何も認識できてないからどうなるかは解らないが、あいつも俺たちと同じかもしれない。
いくら似ているからといって気持ちや心境が似ているわけじゃない。
……共有できるようになるかは難しいところだろうな。
「能力を……使ったのかも知れないよ?」
「使ってりゃ、今頃貴女は死んでますよ、俺が殺してる」
あいつが能力にかかって、なんてことはないだろうが能力を使用されていたとするなら話は別だ。
どんな能力だろうがそれは攻撃手段。体を共有していた俺が感じ取って、当時の俺ならこの人を殺していたはずだ。
・・・・・・まぁ、それも今となってはだが。
「……使っていましたよ、子供のころの私は、私にはあの力は制御出来ませんでしたから。
だから、なにもかもが望み通り、総てが言いなりでしたよ。
……でも、唯一、あの人だけが」
「正常でいられたと?」
「少し汚い言葉ですが、その通りです、彼だけが普通に喋りかけてくれた、話してくれたんです、だから互いに初めての友達になったんです」
なるほど、確かに言葉は汚いが。
それこそガキの頃の話だ、いくらこの人といえども、あれだけの力、国が重宝する力だ。
子供がそんな力のコントロールの仕方を知るはずもない、知らず知らずのうちに使っていたってことかぃ。
……だが、ならばなぜあいつには通用しなかったのだろうか? そういう能力だったのか、あるいは。
「友達、かぃ。 友なら名前を知っていて当然ってことか。 ……確かに俺や勇には友にはなりきれなかったな」
俺たちにはなれなかったな、友達ってやつに。
俺や勇にできることって言ったらせいぜい同情くらい、ほかには……何もしてやれなかった。
はっ、どうしようもねぇ屑だな、俺ぁ。
遊はまだなんも知らないからどうも言えないが……共感できるかくらいじゃねぇかな。
「そんなことはないと思いますよ? 互いに理解し合い、心配しあえる。
私達以上の存在ですよ」
「お世辞はあまり好きじゃないんでね。 でも、そんな貴女だから俺は決断出来ない、殺せばあいつは悲しむ、護ればあいつ自身に危険が及ぶ、どうしようもない状況だぁ」
「ふふっ、本当にユーラス君はあの人のことばかりですね。
唯ちゃんに怒られちゃいますよ?」
「それとこれとは別問題でしょうが。
……まっ、どっちも護りたい存在ではありますがねぇい」
「性格とは裏腹にはっきりといいますね」
「俺はホントのことしかいいませんよ」
「……」
「そのジト目やめぃ。 なんつー顔ですかぃ。
それよりも早く此処を離れた方がいいですよ? 貴女の素性がばれれば厄介だ」
「……龍才くんに、ですか?」
「!? あんた、そこまで知って」
いくら国の重大機密に触れているとはいえ、そこまでのことを把握しているとは、俺も思っていなかった。……だが、考えればこの方がここまで知っているとすれば、上の奴らは。
「ようやく見つけましたよ、魔王」
……新山美由と話していると、砂浜に沿ってこちらにゆっくりと近づく人影がある。
軽装の騎士の服装をし、白に青い三本線がはいったマントを羽織った男……ロックとかいったか?どうやら俺の探している相手が、向こうからやってきたようだ。
まぁ、当然といえば当然か。
元々、俺を探していたのは奴のほうだしな、俺はそれに乗っかったってだけの話だ。
「なるほど、これは待った甲斐がありましたよ。
まぎれもない、あなたが魔王のようだ。 その殺気」
「正確にゃ魔王の子だが、はっ、待った甲斐ねぇ。
昨日はターゲットに逃げられちまって、仕方なく待ってただけじゃねぇのかよぉ?
(今のうちにあなたは下がっていてください)」
俺は昨日のやつと話しながら、新山美由に後ろに下がるように囁く。
しかし、
「(そんな、あなただけ戦わせるわけにはいきません。 これはこの国の問題なのでしょう?
ならば私が)」
さすがは、ってとこか。 自分の国を護るという正義感、責任感、なにより待つ場所を護りたいという気持ち。
けど俺もこの方に戦わせるわけにはいかねぇ、いまんとこはだが。
このマント野郎と戦ってる最中、この方を守る余裕があるかも解んねぇし、傷つけねぇ自信がねぇ。
「あんただって解ってるだろ? あんたの能力は戦闘向きじゃねぇし、こんなとこであなたが表舞台に出ちゃいけねぇってな。
それに、今、あんたがここで出ていきゃ、あんたとあいつはこれから会うことがなくなる。
あんたは束縛されたまま、あいつは手が出せないままだ」
「……」
新山美由は悔しそうな、自分の力では何もできないことをうらむような顔でおとなしく後ろへと引き下がる。
……そうだ、この方に今出て行かれるのはまずい。
誰にとっても悪い流れになる、……いや、裏で手を引いてるやつらにとっては好都合だ。
? ならば何故、すぐに表舞台に出ようとしない?
やつらなら簡単に……!? この方を遊の近くに置くのはそのためか!? 耐え切れなくなったこの方を動かして、自分たちは手を汚さず、自分たちにとってよい方向に持って意向ってか!?
「おやおや? そちらは彼女さんですか? さすがは魔王だ、うらやましいですねぇ」
「あぁ? てめぇにゃ関係ねぇだろ? 童貞野郎。
てめえ、あいつに気に入られたからってあんまり調子に乗るんじゃねぇよ」
「あいつ? あぁ、昨日の彼のことですか?
残念ですよ、彼とは敵対関係でなければ仲良くなれたのに。
何とかしてわが組織に力を貸してくれないものですかね?」
「てめぇが、あいつのことを理解した風な言い方するんじゃねぇよ。
あいつの気持ちなんて到底理解できねぇ。 俺やお前程度じゃぁな」
「ふん、魔王が人の気持ちなどと世迷いごとを。
あなたはどうしても昨日の彼を贔屓するようですが、昨日は油断しただけです。
詮私には到底及びません。
無論、あなたもですが」
「てめぇ、俺を前にそんな口が聞けるとはずいぶん余裕じゃねぇか。
さほど自分の実力にご満悦ってか?」
「覚悟、といってほしいものですね。
あなたを殺せ、といわれてきているんです。
1度ならず2度までも逃げられては、私の面子が立たないというもの。
そちらの女性は見逃したとしても、あなただけは刺し違えてでも殺す覚悟できたのですよ」
覚悟ねぇ……よっぽど勇の友達とやらは慕われているのかね。
ま、いまだかつてない存在、唯一無二の〔龍神〕、だからな。
俺は直で見たこたぁねぇが、普通のやつが見れば慕うのも無理はねぇか。
「はっ、まぁビビッて戦意喪失されるよりはマシだよなぁ。
聞きてぇこともあるし、愉しませてくれよ」
「いいでしょう、ならば夢の世界へ」