そして何事もないように帰る
そしてそのまま履いていたジーンズのポケットへと、ゼロ・ブレスをしまう。
あぁ、動かしづれぇ身体だ。
意識はこうして外に出られてはいるが、まだ融合出来たわけじゃねぇし。
その上、暗黒騎士以外の能力を最小限まで落としちまう、ダークブレスをつけちまってっからな。
まぁ、無理矢理外せなくも無いんだが……無能力者にほぼ近い今の俺に外せるほど、この腕輪はやわじゃねぇんだよな~。
……家に帰って、ようやくマヤが外してくれるってこったな。
暗黒騎士の能力自体は跳ね上がってるから、遊自身が強くなってることに変わりは無いんだが……そのコントロール権は身体の中心核である遊か、もともとの能力保有者のユウにしかねぇから、融合できてねぇ俺にとっちゃ、マイナスでしかねぇんだよな。
ユウの忠告通り、ユウと変わればいい話だが……俺だってたまには自分で人を見極めねぇとな、ニートになっちまう。
「さて、ディバイン・レリックを発動させたということは、準備が出来たということですよね? ならば死合いましょう、魔王よ!!」
一喝し、戦闘体制万全の二枚目白マント。
んー、向こうのイケメン君はマジで俺を殺すために構えてくれてるみたいだが……俺もなんか構えた方がいいんかね。
んー、お生憎と俺は戦闘経験ゼロだし、そのての構えとか基本動作みたいなもんをしらんのだがねぇ。
……まぁ、腕を組んで突っ立ってみるか、なんか強そうだし。
「……なんの真似ですか? 挑発しているつもりですか?」
なんか怒らせちまったらしい。
まぁ、そりゃそうか、普段、相手を見下ろす時にする体制だしな。
まぁ、いいや。
ディバイン・レリックでイケメン君、もといロックの能力を。
「遅いですよ」
眼を離したつもりはない。
十メートルは離れた位置に立っていたロックとやらは、一瞬でその距離を潰し、俺の顔面に殴ろうとしていた。
「うおおっと、あぶねぇ」
俺はバックステップでなんとか避ける。
あぶねぇ、あぶねぇ。
そうだった、これは闘い、月見みたいにマイペースでやるわけにはいかないんだった。
それにしても。
「おや、よく避けましたね。 全力に近い早さだったというのに。
それに貴方はオーラ無しにほぼ近い状態じゃないですか」
こいつ……はえぇな。
あん時はみてただけだから、あんまし正確じゃねぇけど、スピードだけでいやぁ、不知火よりも早い。
一端の小さい組織の手下でこのレベルか……予想してはいたが、俺の過大評価どころか、過小評価だったみたいだな。
威力も相当なもんだろう、普通の人間なら風圧だけで、失神ものだな。
「私としては、貴方に本気でやってもらいたいのですが……どうしてもオーラ無しの状態で闘うというのですか?」
「よくいうだろ? 本気出させたいならやってみろぃ、てよ。 いまんくらいならなんとか今の状態でもやってけそうだし、俺は必要以上の労力使うんがめんどいの」
「なら仕方ない、後悔させてあげますよ」
先程と同じく、一瞬で距離を消し、素早い殴り、蹴りを連続して放たれる。
だが、スピードも威力もかわらない、だからそのまま俺は当たらないように避けられているが……妙なことがある。
ひとつはあの一瞬の動き。
部分的な殴りや蹴りを見切れているのに、身体全体ごと使う、移動が見えないのはおかしい。
普通なら明らかに移動の方が遅くなってしまうのに……拳や蹴りはまだまだ速く出来るってことか?
だが一番引っ掛かるのは……こいつの能力だ。
ディバイン・レリックを発動しているというのに、イマイチこのイケメン君の能力が見えてこない。
ディバイン・レリックってのは相手の能力の起源、要約すると仕組みやらが解るものだよな?
ユウなら解るんだろうが、俺は戦闘経験ゼロだし、専門的なもんも解んねぇしなぁ。
……んあ~、まぁでもいいや、大体のこたぁ、解ってきたし、後はユウに任せますかね。
……。
「まぁ、いいやぁ~。 ほんじゃ、ロック君、俺は帰るわ」
「戯れ事を。 そろそろ一発、喰らっていただきましょうか!!」
「!? ……へぇ~、ようやく移動のスピードを拳にもつかってきたかぃ」
「!? なぜです!? 見切れるならともかく、なぜオーラを纏った拳を、オーラを纏わない、ただの素手で掴んでいるのです!?」
「あ~、なんででしょうねぇ~。 説明、だるいから俺は帰るわ」
「……ふふっ、結界をやぶるとでもいうのですか?」
「んにゃ、別に。 帰るだけだ」
「出来るものならやってみせて欲しいものです」
「いわれんでも帰るが……二つくらい言っとくわ。
ひとつ、お前のターゲットもとい、お前の組織のトップの狙ってるやつは俺じゃねぇぞ?」
「そんなはずはないです、あなたが魔王のはずなのですよ」
「だから俺は魔王じゃねぇって。 まぁ、遠からず近えんだが、惜しいな」
「?」
「あぁ、まぁそこは心配しなさんな。 お目当てのやつは連れてきてやっから、明日の夜くらいにここにいてくれ」
「それともう一つ、こいつぁ俺の推測だがよ。
……たぶんお前じゃあいつにゃかてねぇぞ?」
「……そんなこと、やってみなくては解らないじゃないですか」
「まぁそこらへんは任せるけどよ。 死ぬなよ? こんなへんてこなことで死ぬなんてばかげてるし、何より俺はあんたのこと、嫌いじゃないからよ、単純に死んでほしくないんだわ」
そして遊なる人物は紫色の世界、ロックの結界から姿を消した。