気まぐれ
「ロックとやら。
こっちにゃ、戦闘の意志はない、なにも起こらずに平和に解決したいだけなんだ。
なんとか手を引いてはくれねぇか?」
「理由は先程も述べた通りです、貴方を殺すことは決定事項なのです。
例え、貴方にやる気が無かったとしても、ね」
なんつー堅物だよ、それとも好戦的ていうのか、普通進んで殺し合いがしたいなんて言わねぇだろ。
どうしてこう能力者ってのは危ない連中が多いのかね、俺を見習えよ、俺を。
「……たくっ、しゃーねぇーなぁ」
「おおっ、やる気になりましたか?」
「あぁ、話し合いをな」
……。
まるで時間が止まったような空気がながれ、ロックとか言うやつは虚をつかれたかのように、口をぽかーんとあけていた。
「ぷっ、アハハハハハ。
魔王になる素質のある者が、戦うことを拒否し、話し合いですか」
そして腹を抱えて大爆笑。
なにがそんなに面白いのか、ハリセンがありゃ、横から叩いてやりたい気分だ。
「なにが面白いんだよ、おりゃあ真面目だぜ」
「いえいえ失敬、あまりにも予想外の言葉が返ってきたもので。
かつてこの世を乱したものの子孫とは思えなくてですね」
「別にまぁ、そう思ってくれて構わねぇよ。
親の顔も覚えてねぇ、過ごした日も、思い出も解らねぇ、それに俺は魔王って言われて喜ぶ厨二患者じゃねぇし、それに俺は無能力者で、馬鹿で使えないゴミ、糞人間で通ってるからな」
「ふふっ、話し合いをこの場を解決出来ると考えている。
成る程、貴方は自らの力を使用したくもなく、認めたくもない。
何より自分は無能であると」
別に話し合いで解決出来ると、そう思ってる訳じゃないが。
「ですが、貴方は自覚がないわけではない。
何より貴方自身、魔王という言葉に慣れてきている」
……こいつ、話し合いする相手にしてはかなりめんどくさい。
確かにいまのおれは、魔王という言葉に違和感を感じなくなってきている。
魔王が存在しているかもしれないという認識で話を進めているわけではなく、魔王という存在がいるという認識で話を進めている。
中立国である、この日本では魔王は存在していないというのにだ。
たく、周りの奴らが魔王、魔王とうるせぇから、俺自身、無意識に違和感を感じなくなってきちまってる。
「何より貴方は自分を隠し卑下している。
貴方の持つ知、技、力、全てが人間の範疇を越している、なのに貴方はわざと自分を無能であると、ゴミであるという人間を装っている」
そこはまぁ、めんどくさかったり、買い被りってところもあるんだが……注目されたくねぇってとこは確かにな。
たぁーいえ,このロックってやつと話し合いじゃ勝てる気はしなくなってきやがったな。
「だがよ。
ここまで、話を聞いてる限りじゃ俺は危険じゃねぇから殺さなくてもよくないか?」
「ふむ、確かに力を使用しない、魔王を否定する、記憶を失っているという情報も確かなようだ」
「ならよ」
「ですが、貴方がなにかを企んでいるかもしれない、そのためのなりすまし、とも考えられる。
それに私の意志で消すと決めたわけではないのでね」
さっきも言ってやがったな、ある組織から、と。
こりゃもう俺の我が儘で押し切れそうな相手でもねぇよな、わりと頭かたそうだし。
……まぁ、最初からそのつもりだがな。
「ある組織の意志、もしくは組織のトップの意志、ねぇ。 ……ロックとやら、お前の言う組織ってやつぁ、悪魔でも天使でもないんだろ?」
もし悪魔か天使の勢力であるなら、そこまで遠回しに言う必要はない。
俺が記憶を失っているという情報を知っているなら、俺が世界をどこまで知っているのかも承知の上。
なにも隠す理由などない。それ以上にどっちかばれたからといって、俺にはどうしようもない。
革命軍は魔王軍で手一杯だし、日本で騒ぎ立てても、結果は俺が頭おかしいやつ、って認識が更に強くなるだけだ、今でさえ強すぎるというのに。
「えぇ、別に隠すつもりもないですが。
貴方が力を貸そうとしている革命軍とほぼ変わりませんよ。
組織名などを告げても宜しいのですがね、革命軍とはこれから仲良くやっていきたいですからね。
ばれたところで、我々は見つからず逃げることも出来る。
……でも、今は未だ時期も早い、動くにも、世に出るにも」
……中々興味ぶけぇことをしゃべってるが、今はスルーしとくかね。
……ってか、俺、喋り方おかしくないか? でもいいか、気分いいからよ。
「その組織については俺はノータッチだ、俺の知りたいとこはそこじゃないんでな。
それよりも、そのトップの人間、本当に俺を殺したいのか?」
「!? なにを?」
「ん~、なんとなくだなぁ~。 特に決定的な理由とかは見つからないんだが。
だが、それは俺だけじゃない。
そのトップのやつが俺を殺す理由もお前が俺を殺す理由も」
「私はあるでしょう? 能力が知れては」
「なら今解除すればいい、今ならまだ能力を使ってはいない、俺もディバイン・レリックを使っちゃいない、それに俺にはどこの国でも発言力は最低だ、能力が洩れることなんか万が一もねぇよ」
「……くっ、フハハハハハ。
全てお見通しですか、貴方という人は本当に、人という存在、いえ魔王の存在すら余裕に超えていますね。
えぇ、その通りですよ。
この行動にはなんの意味もない、ただの、あるお方の気まぐれですよ。
全く、今は動くときではないというのに」
しかしとんでもねぇな、予測がついてたとはいえ、気まぐれで殺しの対象にされちまうとはなぁ。
冗談じゃねぇぜ。
「本当だぜ、俺もそんな理由で命狙われちまったら、理不尽にも程があるぜ」
俺は初期神眼であるディバイン・レリックを発動させ、バックステップで距離をとる。
そして左手首につけていた取り外し可能のゼロ・ブレスを外す。