世界能力体制
AD高校風紀委員の海へ行くという無謀な試みも一日目が終わろうとしていた。
風紀委員、AD高校の能力者たちは海で遊ぶことはできなかったものの、貸切であった宿についている温泉に満足の様子であった。
終始ご機嫌斜めの夢も、夜景がきれいで広々とした、快適の温泉に
「今まで経験した温泉の中でも最高級のもの」
とお墨付き。
彼女らは普段の疲れを癒し、すやすやと静かな眠りについた。
風紀委員の仕事をほぼ全て受け持っている服部 夢。
革命軍との仕事を両立している清水 冷香。
何をしているかは解らないが、いつも用事用事と、空いている時間がない新山 美由。
彼女らにたまった疲労は彼女らが感じている以上に重いもので、小さな音ではもちろん、誰かが部屋を出て行く音さえ気づかないほど深い眠りについていた。
静かな夜。
暗闇の中丸く明るい月がただ静かに光っている。
こうして一日が終わると思っていた、はずだった。
誰もが疲れ寝ていると。
だがそうではない、少なくともユウは起きていた。
■ □ ユウ □ ■
ふぅ。
全く、まさか殺し合いでもないのにこんなにも簡単に外の世界に出てこられるとぁなぁ。
これもあいつの使い魔、マヤが遊に渡した腕輪のおかげだろうなぁ。
遊の腕にはめられていた腕輪、つまり俺の腕にはめられた腕輪は「DIB」、まぁ、一般にはダークブレスとか呼ばれてんなぁ。
効果自体は単純なもんで、暗黒系統の能力者の力を高めるというもん。
能力者の系統の見分け方には何通りかある手言う話だが、一番手っ取り早いのはオーラの色を見ることだろうなぁ。
能力自体で判断するって言う方法もあるんだが、大体はその前の段階、オーラの色で区別がついちまうし、何より簡単だからだぁ。
世界能力体制。
現在の世界情勢じゃぁ、魔王軍に人間がいることや、天使軍に人間がいることが大半であんま区別はつかねぇが、元々能力ってのはおおまかに二通り、暗黒系統と聖天系統。
文字通り、悪魔側が使う能力が暗黒系統、天使側が使うのが聖天系統。
だが今の世の中では暗黒系統も聖天系統も少なくなってきちまってる。
その理由が人間の介入だ。
純粋な天使、純粋な悪魔が使える能力だった暗黒・聖天だったが、時代の流れとともに純粋な天使の血を持つものも、悪魔の血を持つものも減ってきた。
それは人間どもを勢力にむかい入れ、悪魔と人間、もしくは天使と人間で結ばれ、混合の血を入れちまったことによる。
もともと天使・悪魔は少なかったんだぁ。 世代が変わるごとに人間の血が濃くなっていくのはめにみえていることだ。
そして人間たちもこの特殊な力、オーラや能力といった力を手にしていく。
そしていまや能力は3つに分けられる。
前記の二つと人間共が手に入れた能力は四大元素に基づいて作られた、元素能力というもの。
四大元素に基づいて、とはいえ今の世の中もっと噛み砕いて元素というものが存在し、さらにそれを分解できそうなくらいの科学レベル。
そんな情報はいまやあてにならねぇかもなぁ。
本題はこっからだぁ。
難しい話に聞こえるかもしれないが、結構単純なんだよなぁ。
さっきも言ったように、能力はオーラで大体どんなもんか想像できる。
俺たちの暗黒、聖天は特殊だから暗黒であるとか聖天だとかの区別しかつかねぇが、今説明した元素能力に関して言えば簡単だ。
能力を発動させるにせよ、オーラをまとうにせよ、全ては自分のイメージによって操作できる。
自分は自分の能力を理解したうえで能力やらオーラを出すに到る。
此処で重要なのは「イメージ」。
イメージすることによってオーラを出すことができる。
なら何をイメージとして出すのか?
自分の能力だろう?
そして能力として非常にイメージしやすいものが「色」だ。
火なら赤、水なら青、雷なら黄色といった共通色イメージがオーラに出てしまう。
つまり、オーラには能力者のイメージそのものが出てしまうため常識的な色が出ちまうんだよなぁ。
火ってイメージして、青や黄色とかイメージできなくもないが、すぐに思い浮かぶのはあかだろぉ?
だから色だけ見りゃ、能力がどんな門なのか理解できるって話だ。
その色の系統が黒に近いものが暗黒系統の能力。
黒、紫、紺……などの色を持った能力者たちは暗黒系統の能力者。
それらの能力者の力を上げるのが、この腕輪の力ってわけだ。
全く、殺し合いでもない場所に出されても、おれぁやることがねぇんだがなぁ。
今の状態は俺が外の人格として出ている状態で、遊と勇は俺の中で眠っているってわけだ。
こんなめんどくさい状態で俺がどうしようもないかというと、実はそうではない。
いつだって実行は可能だよぉ、俺も勇もなぁ。
ただ俺たちはそうはしない、……まぁ、いろいろとあるんでねぇ。
そうするには時期が早すぎる、というよりも勇を待ってるって言ったほうが正しいんかねぇ。
いずれにせよ、この状況がしばらく続きそうだなぁ。
「それにしても、海ねぇ。……何年ぶりに何のかねぇ」
静かな夜に波を打つ音。 黄色く光る三日月が大きく空に浮かび上がっており、ただ淡々と時は流れていく。
あれから十数年かぁ? 意外と早かったなぁ。
あの血みどろで薄汚れた夜から十数年、またこんなにもきれいな景色が見れるとは思ってもみなかった。
「くたばり損ないで、役立たずの俺が今こうして強く生きていられんのは全部遊の――――いやその名も正しいかどうか解んねぇが――――あいつのおかげだ。 ……俺にとっちゃぁあいつが俺を作ってくれたんだ。
だから俺ぁ」
「ユウ、……兄さん?」
砂浜で明るい三日月を見上げ強く誓う少年は、後ろから聞き覚えのある声に気がついた。