檻の中の、翼のない鳥
さっさと歩いていってしまう夢のあとを、俺はついていくことしかできなかった。
……なんとまぁ、情けないことなのか。
しかし、こいつの前ではどんな男も情けなく見えてしまうのは仕方ないことだと、誰かに理解してほしい瞬間でもあった。
□ ■ 新山 美由 ■ □
海について早々、夢ちゃんが買出しといって外出、立花君はご機嫌取りといって夢ちゃんの後を追った。
つまり、あの二人は二人きりということになる。
……。
「ううっ、うらやましいでしゅ」
私は一人、誰もいない宿の大きなロビーのソファーでうなだれていた。
現在、旅館には私と冷香ちゃん、唯ちゃんの3人がいる状況。
でも、冷香ちゃんと唯ちゃんはお風呂に入ってくるということなので別行動中。
私もご一緒したかったのですが、今はそんな気分じゃなくて。
一人になりたい気分で、考え事がしたかったんです。
「二人きりということはあんなことやこんなことも!?……」
まっ、まじゅは二人で熱いきしゅを交わして! お互いがお互いを求めて抱きしゅめあって!……いえ!熱いきしゅというのはやはり舌を絡めたりするものなのでしょうか!?
しょっ、しょれで抱きしめあううちに立花君が、遊君が夢ちゃんを押し倒して……。
「いっ、いえいえ、しょんなはじゅありましぇんよね~」
だっ、だめでしゅ!! 変なことを考えては!! 遊君は決してそんな人ではないでしゅ!!
そんな人では……。
「……否定できないでしゅ~」
今の遊君なら信用できるのでしゅが、着々と戻りつつあるんですよね。
……戻る、という表現は適切じゃありませんね。
私に見せていた性格も一つの顔、今見せている性格も一つの顔。
そして他にも……。
「でも、結局はそれら全てが混ざり合って初めて自分という性格ができる、ですよね? ユウ君」
私だってそう。 今は遊君と呼べているけど本人を前にしたら言いたくてもいえない、絶対にね。
私は人によって性格を変える人のことを悪く言うつもりはない、むしろうらやましいと思えるくらいです。
今も言ったように、それらが重なりあってはじめてその人なんです、それらが個性なんです。
たとえそれが都合のいい言葉に聞こえても、私はそう思います。……ユウ君の受け売りですけどね。
「ユウ君が言ったから、て言うのもあるんですけどそれだけじゃないんですよ? 私の前ではどんな人も一つの顔しか見せてくれない、でもあなたは、ユウ君はいろんな顔を見せてくれたんですよ。
何気なく面倒臭そうな顔をしていてなんだかんだいって結局は真剣に問題を解決しようとする顔。
いつもはへらへらしていてお気楽そうにしている、でも頼ったときには余裕の表情で自信ありげに答えを出してしまう。
……ふふっ、今思い出してみてもおかしい顔。
……でも、だからね? 私はユウ君を信じて、此処までこられたんですよ」
そう、今の私があるのも全部ユウ君のおかげ。
私がこうして普通の女の子として生活できていることも、感情を表に出していられることも、私として生きていられることも、生きる意味が解っていることも、全てがユウ君のおかげ。
……私一人じゃどうすることもできなかったこと、生きてはこられなかった。
「好きとか愛してるとか、そんな感情じゃ表せないよ私は。 あなたは私にとってかけがえのない人。
唯一無二、私という存在を作ってくれた人、私という人間を始めてくれた人……だから」
だから……。
その後が続いてこない。 今の私のにどうしようもないこと。
私には待つことしかできない、今のあなたを見守ることしかできない。
それが今の私の使命……いえ、それはただの言い訳。
ただ束縛されて動けないだけ……。
「本当に私は,情けない……言ってしまえば、羽根のない、檻の中にとどまる鳥。 自分ひとりでは飛ぶこともできない、檻を抜け出すこともできない。
あなたが、ユウ君が私に翼を与えてくれるのを、檻の鍵を開けてくれるのを待つことしかできない、ひ弱な鳥」
……自分という人間は……。