奇跡とは人それぞれ。
「仕方ないだろ? 俺だって努力したさ。
休日だぞ?休日。 普段なんか早くても午後の三時に起きれば早いほうだ!!
11時半だぞ!? 俺からすりゃ奇跡に近いぜ!?」
「そんなもん奇跡と呼べるか!!! そんな要らない軌跡に誰が感動するって言うよ!?
大体、奇跡だとしても約束時間に間に合ってないじゃない!!」
いや、まぁたしかにそういわれればそうなんだが。
奇跡とはいえ約束は果たせてないし、誰一人感動させられそうにない。
けど、そんな必要はない!! 俺自身が感動してるからだ!!
「……まぁ、そうかっかすんなって。
今回は三泊四日なんだろ? それならあと三日も残ってんじゃねぇか」
そう、今回の旅行は日帰りではない。
何を思ったかは知らないが、宿を丸ごと貸しきり、なおかつ三泊ときたものだ。
というか、男女比が一:四だから俺は寝るとき一人部屋か!?
……まぁ、広い部屋を独り占めというのは悪くはないが……その、物足りないよな?……男として。
「じゃあ、あんたは三泊四日と聞いて最初から気を抜いていて、その上四日のうち一日は無駄にしていいって考えてんのね?」
「いや、そうは言ってな__」
「私はみんな揃って遊びたかったのに、あんたは私に色気がない、私がかわいくない、がさつ、暴力的だからって理由で遅れてきたんでしょ!?」
「いや、いつからそんな話になったん__」
「どうせ私はがさつよ!!、女らしくないわよ!! 色気もなくて、かわいくなくて、胸も小さいし、経験もないし」
「何の話してんの!? そんな自虐キャラでしたっけ、夢さん!! 大体、名に口走ってんですか!? 女の子がそんなこと言っちゃだめでしょうよ! ってか、俺の話し聞け!!」
「うるさい、馬鹿!! アホ!! ドジ!! マヌケ!! デブ!!」
「ガキの喧嘩かっ!? ってか何でそんな子供っぽく怒ってんの、あんたは!?」
「このっ、へっぽこち○こ」
「それ、いっちゃらめぇぇえぇぇ!!!!」
だめだろそれは。 人として、女として、言葉として、男に対して。
なんかすごいドSの人に罵られてるみたいだ。 ……まぁ、あながち悪い気はしないが。
それから夢は、半泣きのような、女の子が時折見せるような顔で、目の下を赤くして、頬を真っ赤にしながら、いつものような不敵な笑顔を見せていた。
……ふーん、こいつもこんな顔できるんだな、かわいいとこもあるんだ。
俺は感心せずにはいられず、夢の見せる笑顔に少しだけ惹かれていた。
いやいや、見惚れている場合じゃない!!
現在、俺は危機的状況に陥ってるんだ。
なんといっても、あの能力者学校で、オーラも能力もいまだ発揮せず無敵を誇っている、あの天下無双の服部夢を、だ。
……下手すりゃ殺される、なんとしても許してもらわないと。
「あの~、夢さん。 この後、俺ってどうなるんすかね?」
「殺す」
「え……どぅぅうええぇぇええええ!?!!??」
嘘、だろ? 冗談だとは思ってたのに、まさか本気で?
……夢の表情伺うが……本気みたいだ。
現在もかわいい女の子の半泣き顔してるが、彼女からはまがまがしいさっきが駄々漏れになってる。
「絶対あんたは許さない、泣いても、土下座しても、許しを請いても、足をなめて忠誠を誓っても許さないわ!!
……ま、まぁ、総てを私に差し出して、私専属のメイドになるなら考えてあげてもいいわ」
「そこまでやっても許してもらえねぇのかよ!? ってか、なんだそりゃ!? どんだけ俺の罪は重いんだよ!?
しかもメイドじゃなくて、執事の間違いだろ!?」
「別に間違っちゃいないわよ」
「真顔で言うな!? 絶対着ねぇぞ、俺は。 ぜっぇぇぇぇぇたいっだ」
やっぱりこいつは油断ならねぇ。
俺にメイド服だと? ……何考えてんのかさっぱり解んねぇ。
というか、風紀委員全員、何考えてんのか解んないやつばっかりだ。
夢にしろ、美由にしろ、唯にしろ、清水にしろ。
……全く、どうして俺の周りにはそういうやつばっか。
「ううっ、ともかくあんた、後で覚えてなさいよ!! 荷物、全部あんたもちだから!!」
「はえ? 荷物?」
……そういや、夢は買い物のために外に出てたんだっけ?
「そう、今から買いに行く荷物。 夕飯は自分たちで作るから、私たち五人分の食材、飲み物、明日の朝ごはんの食材、その他女性に欠かせない用品とか生活用品とかもろもろ」
「おいおいおい!!?? どんだけの重量になると思ってんだよ!? 軽く十キロくらいいくだろ!?
何で一人でそんな門買いに行こうとしてたんだよ!?
……まさか!?」
「そりゃそうよ、もともとあんたが荷物持ちって決まってたんですもの」
「……なんてやつだ、夢。 お前、俺を人としてみてないだろ!?」
「ん? まぁ、一応見てるわよ。 私のいい使いっパシリ程度で」
「それは人としてみているって分類で間違いはないんですかね!?」
絶対違う、特に夢のパシリって事は人じゃできない。
人間はもちろんのこと、ロボットですら弱音を吐くんじゃないか?
俺がそんなことを考えていると、夢はさっさと進んで歩いていってしまう。
「ほら、もたもたしてるとおいてくわよ」
「おい、ちょっ!!?? おまっ、買い物って五人分のだろ五人分、ホントに全部俺が持つのかよ!?」
「当然でしょ?あんたが悪いんじゃないの」