誰なんだ
そして、清水は話を続ける。
「いくらあなたが魔王の息子とはいえ、今のあなたは記憶喪失の状態。
そんなあなたに私たちが脅威を抱くのはただの偏見でしょう。
それに、今の革命軍には力が必要なんですよ。
一般的な能力者よりも優れた力を持つあなたのような人がね」
「……けど、俺の記憶が戻ったときは」
「そのときは私があなたを切る!!
……ただそれだけのことです」
さらっと怖いこと言うな、この人は。
けど、それが普通、いや優しいほうだ。
俺に力があるから、革命軍においてもらっているわけじゃないみたいだ。
いや、それもあるが第一の理由ではない。
最大の理由は、[信頼]であるようだ。
俺が記憶喪失であることを信じてくれている。
なにより、そうでないと想うことを偏見だといってくれている。
理屈じゃない……そう考えてくれている清水から[信頼]の気持ちを感じるんだ。
いきなり切りかかられたり、うるさいって言われて嫌われてるかと思ってたが
俺の思い過ごしだったようだ。
……?
「(でもさ、遊。 人の本心は、心に聞いてみないとわからないよ)」
!!!!!?!??!??
またっ、いつかの頭痛と同じだっ!!
頭が割れるように痛む。
「(……でも、直接遊が聞くのは厳しい だから僕がやる)」
や、め……ろ。
■ □ ?? □ ■
「……それじゃ、君からみた僕はどんな感じなのかな?」
遊にもうつらい目はあわせたくない。 だから、僕が聞いておかないと。
遊にとって、今の環境はいいものなのか。
……ユーラスほどじゃないけど、僕も遊のことは好きだから。
「どんなって……いきなり聞かれても」
たじたじと赤くなり、言葉に詰まるツインテールの女の子。
見ていれば解る。 この子がうそをつく子じゃないってことぐらい。
きっと一途で無垢な子なんだ。 ……今の任務だって仕方ないんだろう。
でも、重要なことだ。
僕も後には引けない。
「聞かせてほしいんだ、君の本音を」
これから、遊の身の回りの人間たち の動向によっては……。
僕が……龍才やユーラスの代わりに動かなくちゃならない。
それも、遊のためだ。
……後で何を言われようとも。
「ほ、本当は…ω#$”&”……」
□ ■ 立花 遊 ■ □
突然体の自由が利かなくなってから数分、清水は俺と何かを話しているようだった。
だんだん俺も体をコントロールできるようになってきたぞ。
……どうやら、前にもあったみたいに身体をコントロールされているようだ。
俺の今いる場所は……どこなんだろう。
今まで、こんな場所は見たことも聞いたこともない。
見た場所、聞いた場所、それらどんな場所にも、なにかという存在物というものがあるはず。
だがここには、ない、なにも。
真っ白な平地がただ坦々と続いている。
「(まったくふざけやがって!! ……はやくっ……かわりやがれぇぇええ!!)」
「(……もう起きてしまったんだね、遊)」
白い平地から叫ぶ俺の前に突然、少年が現れる。
なんだ? こいつは……子供?
身の丈、150cmくらいの少年が俺を見つめて立っていた。
黒髪で、顔も西洋人や北欧人よりではなく俺たちと同じ、日本人のような東洋系の顔だ。
俺たちとなんら変わらない少年。
……だが、なんだ? この少年から感じられる気が普通じゃない。
こいつには人から感じられる欲望だの怒りだの悲しみだのといった感情が読み取れない。
いや、というより……無心なんだ。
無心で、総てを見透かしていて、総てを包み込むような。
俺はどこか、この少年に白いイメージを抱いた。
「(お前の仕業かっ!? これは!! 早く元にもどせ!! 大体何なんだ!? この間から俺の身体を)」
「(……君は勘違いをしている。 僕がこの体をコントロールするのは初めてだよ)」
「(なにいってやがる。 現にこうやって)」
「(もう一度、じっくりと考えてみるといいよ。
あせることなんてない。 あの時と違うことをじっくりと、ね)」
あの時と違うこと? こいつは何を言っているんだ?
「(まぁ、いいや。 僕のやりたいことは終わったから。 後は遊、君しだいだよ)」
「(……お前、いい加減にしろよ。 好き勝手ぺちゃくちゃしゃべりやがって。 ぶっ殺すぞ!!)」
「(ふふっ、君は優しいから。 そんなことはできないよ。
大丈夫、さっきも言っただろ? 焦らなくてもいい。 今は解らなくてもいいんだ)」
「(優しい? 俺次第? 何なんだお前は!? 俺のことも知らないくせに! 誰なんだ、お前は!!)」
「(知っているよ、深くね。 それに、僕のことを知ったところで関係ない。 僕なんて自分から投げ出してしまったようなものだから 本当に選択できるのは遊、君一人だけなんだ)」
そしてそいつは俺に背を向けて去っていく。
まるで空気に溶け込むかのように姿を消してしまった少年。
……何なんだ? ぜんぜん解らねぇよ。
やることが終わったからいい、だと? 自分勝手すぎるだろ! あいつだけじゃない! どいつもこいつも!!
記憶喪失になったとおもった矢先、俺を魔王の息子だと言い出す輩が現れる。
何も知らない故郷では革命が起きようとしていて、顔も見たこともない魔王が俺の父で、そいつを殺すことが革命軍の目的。
それで俺のことを知っているかのようなやつは、優しいだの俺次第だの言い出す始末。
……誰なんだ、俺は!?
焦るなだと? 焦るに決まってんだろうが!!
自分で自分のことが解らねぇんだぞ!?
どうしたらいいんだよ、俺は。
……今ほど自分のことが知りたいと、記憶を取り戻したいと想ったことはなかった。
そして、俺の意識はどんどんと遠のいていく。