魔王
死を覚悟した少女、唯。
心臓を貫かれそうになるが……?
掴んだ男の手首を離すと、男は後ろに飛び、距離をとった。
……やっぱり放ってはおけないだろ? ……まぁ、一応男として。
「……たまたま通り掛かっただけだ」
「たまたまって……」
「貴様は……そうか。貴様が……」
男は、一人でブツブツと言っている。
「……おしゃべりは終わりか?魔王」
敵であろう、白いスーツの男がこちらに話し掛けてきた。 ……魔王、か。 正体はばれているみたいだ。
「……できれば、この場もおしゃべりでお開きにしたいんだが……」
「それは貴様次第だ。 そちらの女をこちらに渡せば帰してやる」
「……お前はバカなのか? ここで渡すくらいならさっきの一撃を弾いてないだろう」
「ならば……お前も死ね」
「唯! 下がってろ!」
唯は、指示に従い、通りの端の方にあった木箱のような物の後ろに隠れた。
白いスーツの男は戦闘体制にはいったようだ。 俺も眼とオーラを解放し、目の前の現状を打開することをきめた。
……イメージすれば、能力は使える。能力は魔法みたいなものだが、魔法ではない。 根本的な違いは才能。 魔法は才能の無いものでさえ術式、術名を唱えれば使うことができる。 が、能力は生まれ持った才能そのもの。 能力はその者にしかつかえず、それをイメージするだけで使用可能である。
まずは先手必勝。 ……シューティングレイ。 光の閃光が相手を突き刺す能力。 ……牽制には持ってこいだな。
俺はイメージした能力を現実にし、奴にむかって放ち、突き刺した。 ……はずだった。
「!?」
だが、それは奴の手前で消えた。 いや、正確には弾かれた? 奴は動きさえみせていないのに?
「魔王もこの程度か。 つまらん」
何かしらの能力を使ったのか? しかし、能力を使えば俺の眼で起源を読み取れるはずだ。 なのに反応しない……どういうことだ?
「彼は戦闘で傷を負ったことが無いんです。 それは彼の周囲に発生しているバリアーみたいなものがそうしているらしいのですが……」
唯は落ち着いた口調で俺に助言した。 ……傷ついたことがないか。……ふざけた話だ。負けなしなら分かる。しかし、傷なしというのは……。
「所詮、魔王もその程度ということだ。 なら、すぐに終わらせるとしよう。」
奴は腕を体の前で一振りした。 何かくるか!? ……見えた!! これは能力みたいだな。 避けっ……
ブシュっ!!
瞬間、何かが切れた音がした。
「っ!? 遊さん!! 右腕が!!」
右腕? なんだというのだ? 俺はつい、左手で右手を触れようとした。 が、その空間に右腕は存在しなかった。 いや、右腕は肩からすっぱり切り落とされていた。
「……。」
……マジかよ。こりゃ、本格的にまずいかな?……だが、こういうときほど冷静でいられるものだ。 痛みは感じない? 確かにそれもおかしいとおもったが、それ以上におかしいことがあった。
「(血がでていない?)」
そう。切り口からは血が出ていない。 ……どういう……っ !!
「くっくっ。魔王もこの程度か。まぁ、安心しろ。梶原は殺さずに連れていく。……まぁ、向こうでどうなるかわからな……」
「グゥっ……アァ――。!!」
「 !?腕が……生えた!?」
俺の切られたはずの腕は、俺の叫び声とともに生えた。
「……腐っても魔王ということか。化け物め」
……今回ばかりは否定出来ない。自分ですら、魔王であることを実感しているからな。
「だが、いくら再生しようとも我の攻撃は避けれまい」
再び腕を一振りする。 が、俺にはもうあたらない。