更なる影の…。
「お帰りなさいませ~、魔王様~。」
海へ行くことが決定したその日、俺は特に何をすることもなくそのまま直接、家へと帰ってきた。
家に帰ると、ワンルーム唯一の広間から黒い羽をパタパタと動かし、マヤが迎えてくれる。
ふと思ったが……コイツはつれていったほうがいいのか?
「……なぁ、マヤ。」
とりあえず、話してみるか。
「はい~?」
「……明日から海に行くことになったんだが・・・行くか?」
とりあえず、自分のベッドに腰掛けたおれは、マヤを誘ってみる。
だが、マヤはピクシー。 決して、人間ではない。 大きさもコウモリ位で、飛んでるし……今思ったが、皆に説明しなきゃいけないんじゃないか ……面倒だな。
そんな俺を気遣ったのか、マヤは、
「……いえ~、私はいいですよ~。 留守になるこの家にいますから~」
「……そうか、悪いな。」
気を遣われるとはな。 ……まぁ、都合がいいっちゃ、いいんだが。
なんか隠しているような……そんな浮かないような暗い顔をしていたマヤに、俺はどこか疑問を感じていた。
■ □ ? □ ■
遊たちが海へ行くと決めた次の日、つまり約束の日の午前2時38分56秒。
場所はわからない。
解るのは暗い場所。
背が高く、甲冑を身にまとった侍のような男と、黒いマントを羽織った男が、そこに存在した。
現実に。
侍は言う。
「貴公と会うのも久しいな」
「えぇ。 貴方は魔王側。 私は神側の動向を探っていましたから」
お互いに再会をよろこびあうかのように握手を交わす。
その手には、二つの異なる微かにオーラが感じられた。
「魔王側には動きがあると聞きましたが?」
「うむ。 お主の考え通り、あの少女が……意思を託されたようだ」
「そう……ですか。 ……惜しい人を失いましたね。 できれば、私の考えが外れて欲しかったのですが」
「しかし、そうも言ってはおられまい。 私たちにはやるべきことがあり、今、姿を現すのはまずい」
「解っています。 だからこその今回の命令でしょう」
「……それで。 主からの命はなんと?」
……彼は姿も中身も侍。 喋り方も。
だが、怖いというわけではない。
顔が隠れていないうえ、その表情はどこか優しげである。
「貴方の考えている通りですよ。 ……魔王の子をを殺す気で殺れ、と」
一方の特に目立つような体型でもない、むしろ細身である男はその言葉を自分で言いながら笑う。
侍は腕組みをしながら溜息をつく。
「……はぁ。 一体何を考えているのか。 某達の主は」
侍もその言葉に呆れるように笑う。
「……ですね。 いつもの気まぐれでしょうがね。
まぁ、あの人のことです。 何か真意あってのことでしょうが私にも解りません……一つだけ言えることがあります。」
何を悟ったように、マントの男は言った。
「……おそらく、世界が動き出すでしょうね」
……なんのことなのだろうか。
「ふむ。 我等が動くとなればこそか。 だが」
「えぇ。 少なくとも、貴方は動かないほうが良いでしょう。 ……私なら、まだごまかせる。」
……重い空気になる。
侍は下を向き、相手に表情を見せないようにして。
「……かたじけない」
「いえ、しょうがないでしょう。 肉親というものは、どんなに時が過ぎようとも自分にとって一番大切なものなのです。 それを見失ったからこそ、今の魔王軍になってしまったのでしょう。
何より、これも私たちの望む、世界のため」
そして、二人は同時に頷く。
「我等、夢のために」
「我等、夢のために」
そして、二人は違う方向へとむかう。 自分達の望んだ同じ世界のために。
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「……遅いわ」
午前11時36分24秒。
場所は校門。 明るい。 日が既に昇りかかっている。 今日は、風紀委員で海に行く予定なのだ。 五人で。
「……まだ三人しかきてないじゃないのよ!!!!!」
その場には、夢、唯、美由しかいなかった。
……遊がいないのはともかく、怜香がいないのは意外だった。