念願のデー…!? 3
理由はどうであれ、新山のおかげで今日の夕食と人数が決まった。
多少手間はかかるが、そんなことを気にしていては料理は出来ない。
それに作るとなれば、一人も二人も変わらないしな。
「了解。 んじゃ、食材を探しにいきますかね。」
マヤもいれて……三人分だな。
俺はカートを押し、各食品コーナーをまわっていく。
ふーむ、買い忘れがあっても面倒だし、カゴにいれた商品を確認しながらまわるか。
肉、玉葱、デミグラスソース、バニラエッセンス、イワシ、生クリーム、レバー、おはぎ…ってちょいまてぇい!
「いやいや待ってください、新山さん? 貴女は一体、何を作ろうとしているんですか?」
「えっ? ハンバーグ……ですよね?」
うんうん、どうやらつくるものは解っているみたいだ。
……。
「なおのこと悪いわ! 何を作ろうとしてるの!? ハンバーグじゃないよね!? 俺の知らないハンバーグを作ろうとしてるよね!? 」
この人、料理したことないんじゃないか? いや、疑問にすらならない。 絶対したことない。 確信できる。
……不安が募るとは、まさにこのことだ。
「隠し味です(-^〇^-)」
……いや、自慢げにピースされても。 そんな純粋な笑顔と自慢気なピースをされても安心できないよ!? 恐怖心しかわかないから! 希望の光も見えないから!
「いや、隠せてないから! イワシとおはぎなんか飛び出しちゃってんじゃねぇか!
ってか、せめて調味料とかにしてくれ! 出来上がってる食材をハンバーグにぶち込むなよ!?」
「えぇ~? でも、いれると案外美味しいんですよ? あっ、立花君! なら、これを入れましょう!」
なにかを見つけたらしく、子供みたいに両手でもって、その商品を持ってくる新山。
……。
「あの、新山さん。 一応聞いておきますが。 それはなんですか? 何に使うんですか?」
「何って、練乳ですよ? これを使うかどうかによって美味しさが決まってくるんです。
調理中にハンバーグの中に入れてもいいし、出来上がったあとにかけるのも」
「……よーし、新山さん、君は何も触らないでくれ」
「なっ、なんでですか!? 本当に、練乳を使うのと、使わないのでは大違いなんですよ」
そりゃ大違いだろうさ。 味も見た目も大きく変化する。 それならまだいい方だ。
ハンバーグなのか、そうでないかさえも変わってくる。 月と鼈とはよく言ったものだ、まさにぴったりの言葉である。
……この人に料理をさせたらまずい。 俺の第六感がそう告げている。
「…一応、聞いていいか?」
「はい。なんですか?」
「料理の経験は?」
…………。
「経験というよりも、毎日作ってますよ?」
ちょい待て今の間はなんだ!?
そんな恐ろしいものを毎日作っているのか!? この子は。
誰だ!? こんな純粋な子にそんな危ない技術を学ばせたのは!?
料理と理科の実験を間違えて教えたんじゃねぇのか!?
「おいおい勘弁してくれ、家は実験室じゃないんだ」
「いや、でも本当に」
「あぁ、わかった。んじゃこうしよう。 今度、新山の家に行ったら手料理をご馳走になる。 今日は俺がご馳走する。 ?」
顔を真っ赤にした新山だったが、なんとか納得したみたいだ。
何かかわいそうにもなってきた。 この子の味覚が壊れているのかどうかは解らないが、そんな危ないモノを作り、毎日のように食べているなんて……。この子の胃袋は何で出来ているんだ?
俺も胃袋には少し自信があったんだが、この子のなんでも食えるような胃袋とは勝負にはならないだろう。 開始早々に秒殺だ。
「なら、せめてカートは私が押しますよ。」
「・・・あぁ、頼む。」
ようやく安全な役割分担ができた俺たち。
だが……その後も新山が規格外の食品を見つけては、俺がカゴから弾き飛ばすという漫才が続いたのは言うまでもない。