念願のデー…!? 2
デパートが初めてだという新山を連れ、俺達二人は一階・食品売場へとやってきた。
俺はカートを押しながら、今晩の夕食のメニューを考えていた。
「♪~~♪」
その隣を鼻歌を歌いながら、嬉しそうに歩く新山の姿。
しかし、
「やけに上機嫌だな、新山。
なんかいいことでもあったか?」
初めてでテンションが上がっているとはいえ、限界はある。
その限界値を軽く越している新山さんはまるで子供のようだった。
「だってこの状況、まるでデー…!?」
「デー?」
新山の顔を真っ赤に変化していき、口ごもる。
「デ…」
「デ?」
そして、口から出てきた言葉といえば
「わっ、わたしっ、デミグリャシュショーシュがしゅきなんですよ!!」
普通の人が聞けば、異国の言葉にも聞こえてしまう日本語を使う。
……。
「いっ、いまのはわしゅれてくりゃひゃい」
あまりの落ち込み具合で日本語にすらならない。
新山は膝からそのまま床へと崩れ落ちる。
「まっ、まぁ言葉を噛むことなんかしょっちゅうなんだから気にすんなって」
「フォローになってないでしゅよぉ~。 それにそっちで落ち込んでる訳じゃないんでシュって」
「?」
女の子というのは、やはりさっぱりだ。
しかし
「そんなことより」
「そんなこと!? そんなことって言われちゃいましたよ!?」
「デミグラスソースか……なかなかいい考えだ。 よし、んじゃハンバーグにすっか」
新山からヒントを得た俺は、今晩の夕食をハンバーグに定めた。
「ハンバーグでしゅか。 いいでしゅね」
どうやら、デミグラシュショーシュの人も納得の様子。
「なっ? いい考えだろ? ちょうどいい具合にデミグラシュショーシュが絡まって美味しいと思うぜ?」
「……お願いでしゅ。 もう忘れてくだしゃい。 噛んだ私が悪いんでしゅ」
からかうと、自己嫌悪にはしってしまう。
流石新山だ、からかいがいのあるやつだ。
だけど、これ以上は流石に悪い気がしてきたので、
「悪い悪い(笑) 謝るからそんなに落ち込むなって(笑)(笑)(笑)」
「謝る気ゼロじゃ無いですか!? 目茶苦茶笑っちゃってますよ!? ツボですか!? 人の惨めな姿がツボなんですか!?」
本当に面白い奴だ。 ここまで俺がSの立ち位置にいるっていうのも珍しい。
「まぁ、そう怒るなよ。
…けど、おかげで今の言葉を噛まなかっただろ?」
「あっ!」
「なっ?」
本人も気づいていないみたいだったが、新山はあれだけ長い文章を噛まずに言えた。……まぁ、単なる俺が話を変えて逃げただけなのだが。
……何故、噛まなかった?とか聞かれてもそれは解らない。
「……立花君は意地悪です」
どうやら、新山さんは御立腹のようでそろそろ本気で謝らないとまずいみたいだ。
「悪かったって。 お詫びといっちゃなんだが、家でご飯食べていかないか?」
「えっ!?」
今まで落ち込んでいた新山だったが、俺の誘いにびっくりし、口が開きっぱなしだ。
「好きなんだろ? デミグラスソース」
「そ、そ、それはそうでしゅけど。 で、で、でもしょれって、立花君の家でお食事ってことでしゅよね?」
「当然、そうなるな」
「二人でってことでしゅよね?」
「まぁ、大体合ってるな(正確には二人と一匹だけどな)」
「向かい合って?」
「そうなるんじゃないか?」
「立花家専用のお箸を使って、和気藹々としながら?」
「意味はよくわからんが、そうじゃないか?」
「……」
質問を重ねるごとに、ぼっ、ぼっ、と頭から煙を吹き出すデミグラシュさん。
……若干戸惑ってるな、まぁ当然か。 女の子だもんな。
男の家に行くなんて抵抗あるよな。 ……女子に限らず、男子でも同じだけど。
「いや、まぁ嫌ならいいんだが」
「行きます!! ぜっっったいいきましゅ!! この身、朽ち果てようとも!!」
……なんか動揺してたわりには、きっぱりと答えたな。
ってか、新山ってこんなテンションの人なんだな。
俺は意外と勘違いをしていたのかもしれない、人を見た目で判断してはいけないのだと、思い知った瞬間であった。