念願のデー…!? 1
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あのどうしようもない状況を抜け出すため、新山の手を引き近くの公園でやり過ごした。
少ししてからようやくデパートに向かうことができたが本題のことをすっかり忘れていたことに気がつき、雰囲気や空気もお構いなしに重たい話を展開する。
俺が魔王の子供であること、能力やオーラが使えること、世界情勢、革命、その他俺が最近体験した出来事諸々。
……当初の俺の予想では話のことが理解できず、そのまま訳の分からない空気になるかと思っていたんだが、それに反して新山は全てを把握しており、陽介のこと、不知火のことを納得したにとどまらず、自分も革命軍の一員になるという決意も明かした。
どうやら、清水や唯、不知火からちょこちょこと話を聞いていたらしく大体の事情は事前から知っていたようだ。
俺としては理解が早くて嬉しい限りだが……何か引っかかる気がする。
何故、不知火や清水に接触していたにも関わらず今になって、しかも俺に決意を語るんだ?
大体、状況を理解できているなら何故俺に陽介のことや不知火のことを聞いたんだ?
屋上で清水や唯に相談したときも、あいつらは新山に接触したということは話さなかったし。
…謎は深まる一方で、どんどん訳が分からなくなってきた。
だが、やめよう。 考えたところで答えは出ない。 無駄なだけだ。
何より新山の性格上、裏があるような企てはできないはずだ。
俺の勘違いが膨らんで出来た謎なんだろう。 最近、こんなことが多いし。
商店街に着く頃には全て話し終わっていた。
前にも話したが、俺の住む町…というよりも区画は能力者しか住めない。
この能力者しかいない区画、TMA2区画というのだが、ここには商店街はひとつしかない。というよりそれ以上必要がない。
故に商店街は人が多くいつもは賑わっているんだが平日ということもあり、軽く頭で数えられる程度。
割と落ち着いて歩ける、素晴らしいシチュエーション。
いちゃついている学生もいなければ、何時間もべちゃくちゃしゃべるおばさん主婦もいない。
仕事帰りや学校帰りで疲れた人たちにとっては、商店街の静寂が何よりの癒しになっている。
…ただ一人落ち着ず、興奮状態の女の子が俺の隣にいる。
「こっ、これがデパートでしゅか!?」
まるで初めて商店街に来たかのような驚き方。
周りでは静寂を乱す少女に対して、咳払いをする人やチラチラとこちらを見る人も。
俺は、目で謝りつつ少女をなだめる。
「新山さん、もうちょい声のトーンの方を」
どうやら空気を読めたらしく、荒山は申し訳なさそうに、
「すみましぇん」
と反省。
「いや、解ったなら問題ないよ。
でも新山はデパートとか来ないのか?」
いくらなんでもそんなことないよな?
だって、日用品とか食品ってここかコンビニくらいしかないし。
けど、さっきの驚き具合は。
「? 今日が初めてでしゅ」
……おいおい、マジかよ。
「だって、家に帰れば食材もお洋服も揃っているものではないでしゅか?」
いや、そんな当たり前のような顔をされてもらいましても。
……新山はお嬢様なんだろうな、きっと。
そんな意外な一面を見つけてしまった何気ない会話だった。
「まぁ、いいか。 でも初めてなら楽しみが増えるかもな」
確かに、初めてならさっきの驚き方もうなずける。
それ以上に、新山は女の子だからな。 女の子は買い物が好きって話をよく聞くから楽しみも倍になることであろう。
「とりあえず、中に入ってみるか」
「はい!」
期待と興奮と脂肪で胸を膨らませた新山は、俺の後に続きデパートへと入っていく。