こうして主人公はブラックリスト入りしたのだ。
…放課後…
学生にとって苦痛でしかない授業も終わり、時間は夕方になっていた。
いつもはこのあと、風紀委員会に出ないといけないんだが、役員が足りないということで委員会は役員が集まるまで中止。
放課後が暇になった俺だが、新山に事実を伝える、という使命を果たすため珍しく放課後の教室に残っていたのだが、考えてみれば家に食料が全く無く、買いに行かなければならないことに気がつき、どうせならと新山も買い物に誘った。
夕方の帰り道、こうして誰かと一緒に歩くことなど今までほとんどなかったな。
……強いていえば陽介くらいか。
新鮮な気持ちではあるが、別に緊張感があるというわけではない。
一般男子からしてみればこれはおいしい展開なのだろうが、俺はいたって自然。
変な気だって起こってこないし、別に優越感に浸り他人を見下すというわけでもない。
……あくまでも俺は。
だが、隣の少女は違うようだ。
白い雪のような髪はまるで夕日の色が溶け込んでいるようで、オレンジ色のようにも見える。
グラビア顔負けの体は、いつもと変わりなく美しいのだがもじもじしているところも変わりないよう。
むしろいつも以上。
「……どうした、新山? そんなそわそわして」
こういう展開に慣れていないのか、新山はどうも落ち着かないような感じ。
まぁ、俺も慣れているわけじゃないが。
「しょ、しょの……男の子とこうして歩くの……慣れてなくて」
予想は的中。
そういや、新山って男子とまともにしゃべれないんだっけ?
だから言葉も噛むし、いつもおどおどしてるって聞いた気がする。
「所謂、男性恐怖症ってやつか?」
「い、いえ。 …しょんなわけじゃないんですが。
ただ」
緊張しているのか声もかなり小さい。
聞き取るのも一苦労だ。
「ただ?」
「注目されるのが…苦手なんです。
あまり…そういう経験がなくて」
なるほどな、そりゃ納得だ。
なんせ。
「んじゃ、俺とおんなじだな」
俺も注目を浴びるのは好きじゃない。
むしろ嫌な方だ。
「そうなんでしゅか? でも立花君、今しゅごく落ち着いてます」
「ん? まぁな。 なんつーか慣れだな。
俺の場合、今まで注目されすぎちまったから。
無能力者ってだけで、あらゆる奴から視線を向けられっぱなしさ。
登校、授業中、休み時間、放課後、買い物の時までな。
…逆に、これで慣れなきゃおかしいって話だよ」
噂話も絶えなかったし、一番厄介だったのは不知火だ。
他のやつには目もくれないくせに、俺にしょっちゅう絡んでくるおかげで不知火目当ての連中からは目の敵にされてたからな。
全く、俺が何したってんだよ。
「さ、さすがでしゅ。
やっぱり立花君は凄いです」
驚いているのか、興味深いのか、落ち込んでいるのか解らないような顔をする少女。
果たして凄いと言えるのか謎だがな。
「私も…立花君みたいになれるでしょうか?」
ようやく表情がまとまったようだが、やはり落ち込んでいるような、何か考えているかのような俺には推し量れない表情をしていた。
…俺みたいに、か。
「どういう意味で、なのかは解らないが」
頭をポリポリと掻きながら答えを告げる。
「慣れる、てのはそう難しいことじゃない。
今の環境受け入れて、あくまで自然体でいれば知らないうちに出来てたりするもんだ。
それに」
「それに?」
「要は自分次第だぜ? 自分はこうしたい、こうなりたいって思ったんだろ?
なら、自分で未来を決めちまえばいい。
そっからは前進するだけだ」
…なんだか、俺らしくもなく熱く語っちまった。
しかしどうやら言いたいことは伝わり、一瞬ぴくっと反応し、下をむいたまま涙を流したようにも見えたが、顔を上げ、
「そうでしゅよね! 前進あるのみ、でしゅよね!」
と胸の前でガッツポーズを作り、顔をパァっと明るくする。
まぁ、彼女は明るい表情が一番だよな。
下をむいてるなんて…なんつーか、似合わない。
「よーし! 頑張るぞ~!!」
明るい笑顔を壊さないまま、自信満々に前進していく少女。
……なんだろうか、嫌な予感がする。
「あの、新山さん? 最初っから張り切って行くんじゃなくてまずはちょっとずつ」
「下校中の皆さ~~ん!! 私を見てくださ~~い!!」
いわんこっちゃねぇ、やっぱりか~!?
「おっ、おい! 新山! 何やってんだ!?」
これはもう女子高校生のノリじゃないよ!?
完璧に居酒屋のノリだよ!
居酒屋で酔いつぶれたおじさんのノリだよ。
「おい、みてみろよあれ。 無能力者で有名な立花と転校生の新山さんだ」
だが時すでに遅し。
下校中の生徒皆さんは、なにやら集会のようなものを開いており、今まで培ってきたであろうそのありとあらゆる思考回路を巡らせ、根も葉もない噂話をでっち上げていく。
…どうしようもないのか?
「ホントだ。 もしかして、あの二人できちゃってるのかな?」
おい! 一緒に下校してるから恋人ってどんだけの勘違い野郎だ、お前は!
ってか、お前絶対、付き合ったことないだろ!? お前のことの方がモロバレしちゃってるよ!
「でも、立花君って不知火さんとお付き合いしてるって聞いたよ?」
聞いてねぇよ!? 誰だよそんなこと言ってたの!! 俺も初めて聞いたよ!?
「デマだって、それは」
おぉ、お前解ってんじゃねぇか。
よし、もっと言ってやれ!
「いいか? 立花は不知火さんとの勝負に勝っただろ?
だからそんときにお願いしたのさ、俺の犬になれ、ってな。 だからあれは事実上、ヤ・ラ・セ、さ!」
なぁに言ってんだ!? オメェは!!
不知火にそんなこと言ってみろ! 地獄の拷問が待ってるぞ!?…いや、それで済めばいい方だ。
ってか、いかにも俺が言ったかのように話すのはやめろ!!
しかも、ドヤ顔で髪をかきあげる動作をするんじゃねぇ!! 大体、お前坊主なんだからかきあげる髪の毛ねぇだろうが!!
「えぇ!? 嘘だよ。 だってこの間、立花君にハンカチ拾ってもらったもん!!
立花君は優しくて紳士なんだよ?」
「…考えてみればそうよね。
立花君ってやる気なさそうに見えるけど、意外とみんなに優しいし」
「そうよ。 どうせ男子が勝手にでっち上げてるだけでしょ!!
…皆、いこ」
そう言って女子はその輪から外れ、男子だけが取り残される。
「……立花をブラックリストに入れておけ。 いずれ必ず処断してくれる!!」
……どうしてこうなったァ~!!??