表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eternal wish   作者: キッド
43/83

主人公は空気が読めないもの。

「…」


匂いが尋常ではないくらいに甘ったるい。

封を切ったのはいいが、俺はただでさえ甘いものが苦手だというのにこんな甘さだけを追求したようなものを食べきれるのか不安になる。

しかも、パンから漂う臭いは甘いというだけの香りではない。

今までに嗅いだこともないような異臭だ。


だが、この空腹の中食べるものも無いし、むやみに食べ物を粗末にするわけにはいかないしなぁ。

うーむ。

腕を組み、一人唸っていると新山が教室に戻ってきた。


「あれ、立花君? なんでしゅか? そのメロンパン」


新山は、昼を食べたのか、水筒しか置かれていない、自分の席に座った。

そして、その前の席に座る俺に話しかけてくる。


「ん? あぁ、白石先生に貰ったんだが」


俺は新山の方を向くついでに、俺の机に置いてあるパン的なものを、新山の机へと移す。

新山は不思議そうにパンを見つめて、


「なんだか、めじゅらしいピャンでしゅね」


と一言。

……俺からしたら、貴女も珍しい女の子なんだが。

一体、どうやったら<パン>という言葉が、<ピャン>という人名になってしまうのだろうか?

誰なんだ、ピャンって。

まぁ、理由は承知してるがな?


「食べないんですか?」


うん、正論だな。

ただ、俺が気になるのはなぜ貴女はそんなに物欲しそうな顔をされているのですか?

余計、食べづらいんだが。


「腹は減ってるんだが…まぁ、とりあえず食ってみるか」


俺は、ゆっくりと口に運び、ネズミがかじる程度、ほんのわずかな量を口に含んでみる。


「………」


うおおおおぉぉう!! うわっやばいぞ、これは。

どんぐらいやばいかっていうとだな、それはこう、物凄くやばい。

……口では説明できないが、言葉が出ないくらいだ。

本当に身の危険を感じたとき、声はでないと聞いたことはあったが……まさか本当だったか。



まぁ、とりあえずここは冷静にリポートしてみるとしよう。

なんだこれ? 本当に食べ物なのか?

最初にピーナッツチョコのドロッ、としたような甘さが口に広がり、そのあとにイチゴジャムの甘さと、メロンパンの砂糖やら、なんやらの甘さが追い撃ちをかけてくる。

ってか、端っこかじっただけなのに、全部の味が混ざり合ってくるなんて、どんだけびっしり詰めてんだよ!? 死角はないってか!?

甘すぎて気持ち悪いというか、食物であるかどうかも疑いたくなる一品だ。

……もしも、街中で見るようなことがあれば早々に排除することをお薦めする。

俺はもう……ダメだ……さらば世界。


「だっ、ダイジョーブでしゅか!? 立花君!!」


俺の容態におかしいことに気がついた新山は、心配そうに声をかけてくれる。


「あっ、あぁ」


荒山の声で、俺はなんとか意識をつなぎとめた。

危ねぇ、意識ごと持っていかれるところだった。

なんとか、味覚だけで済んだようだ。


「立花君、すごい目がうつろになってましゅよ。

苦しショーな顔もしてましゅし……ましゃか」


心配してくれている新山は、何かに気がついたようだ。

そうだ、このパンのことに気がついたのか?

…だが、様子がおかしい。 なにやら顔を赤くしてるみたいだが。


「ましゃか?」


新山語がうつってしまうが、この際どうでもいい。

パンを批判してくれ。 このパンは食べ物じゃないです~、ってさ。


「まっ、ましゃか立花君!」


そうだ、パンが!


「今日が、あの日!! なんでしゅかー!?」


「んっなわけあるかーい!! どうした!? 何があったんだ、お前の頭の中で!?

馬鹿なのか!?」


全く、とんでもない女の子だ。

まさか、あの日呼ばわりしてくるとは…天然とかそういうレベルじゃないぞ。

つーか、ないからな!? 男だからな!? そんな日は一生来ないよ!?


「うぅ、痛いです~☆⌒(>。≪)」


俺は机に置いてあった、食べ物と呼んではいけない人殺しのパンを新山の顔に投げつけ、とんでもなく恐ろしいギャグに、素早いツッコミを入れた。


味覚を持っていかれ、口の中が恐ろしいことになっている俺は新山の机に、ピンク色のちょうどいいものを見つけた。


「その水筒」


何も感じなくドロドロの舌を癒す水筒が、新山の机にはあった。


「えっ? あぁ、あの、これですか? お茶ですけど・・・飲みますか?」


ちょうどよかったぜ。


「すまない、恩に着るよ」


俺は急いで水筒の蓋を開け、蓋にお茶を注ぎ、ゴクゴクとのむ。


「あっ!? それは…くちじゅけ…」


小さな声で何かを呟いた新山は、顔を真っ赤にする。


「…ん?何か言ったか?」


「えっ!? あっいや! 何もなっ」


ビックリした新山は、体勢を崩し、椅子ごと後ろに倒れそうになる。


「おい」


俺は慌てて新山の手を掴む。

なんとか、新山は転ばずにすんだ。

がっしゃーん…。

椅子の倒れた音が響いたあと、僅かな沈黙が訪れ互いに見つめ合う。


…? なんだこれは?


「無事か?」


「あっはっ、はい!! ダイジョブですっ」


何故か、また顔が赤くなる。

…?

…俺、なんかしたか?

いや、まさかとは思うが考えられるのは。


「新山、お前まさか風邪ひいてるんじゃないか?」


「えっ?」


「いや、だって顔真っ赤にさせてるし」


……。

なんだこの沈黙は? さっきとは違う感じだが、またなんかやっちまったか?

新山は、はぁーっとため息をひとつし落ち込むかののような目で俺を見つめる。


「立花君は……鈍感でしゅ……バカ」


「何か言ったか?」


「なんでもないでしゅ!!」


新山はそっぽをむいてしまい、頭から火山でも噴火しそうな勢いで、プンプンしている。

だから、俺なのか? 問題は?

さっきから理由が全然解らん。




再び、沈黙が訪れそうになったときだ。

ぐぅ~!!

という、お腹がなる音がした。


……最初に言っとくけど、俺じゃないぞ?

腹が減っているとはいえ、所詮は昼飯を一回抜いている程度。 そこまでじゃない。

誰かと気になり、辺りを見回すと、

「・・・」


先程よりも、更に顔の赤くなった少女を見つけた。


「今の……新山か?」


俺が聞くと新山は、こくっと頷いた。

察するに、昼を食べていないらしい。

昼食を食べた訳じゃなくて、元から弁当はなくて机に水筒しか置いてなかったってわけだ。

女子が弁当を食べない理由は一つ。


「…ダイエットってやつか?」


更に新山は、こくっと頷く。

…はぁ~。 女性って、解らんことだらけだな。

ダイエットなんてしなくても、体を動かせば痩せるはずだと思うんだがなぁ。

大体、


「新山はそんなに、[体重]なさそうに見えるんだが?」


そういうと、新山は、ピクッっと反応する。


「立花君 女子に体重って言葉は禁句です」


いきなり、新山は大声をだす。


「おっ、おい? あんま大声だすと注目浴びるぞ?」

新山は、

「あっ……すみません」っと言って、また赤くなる。

……なんかだんだん、俺が悪い気がしてきた。

なんとか、新山に飯を食わせてやらんと。

このままいったら、新山の体調が心配だ。

……いいこと思いついた。


「先ずな、新山。 君に質問だ」


「はい」


「ダイエット、ダイエットって言うが、そもそもダイエットってなんだ?

飯を食わないことか」


俺がそう聞くと、新山は少々困った顔をする。


「んじゃ、質問を変えよう。

テレビとか本で紹介されてるダイエットって飯抜いてるか?」


「……むしろ食べるように勧めているように見えます」


「んで、飯を食べないでダイエットしてる奴が成功したって話は聞いたことあるか?」


「……ないです」


ほら、見ろ。

普段男子を馬鹿にしている女子だが、結局俺からしてみればどちらも同じだ。

なんの根拠もなしに、ただ見栄を張りたいだけでそんなことをおおっぴらにしてやがる。

どうしようもない。


ただ、新山の場合は何か違う気もする。

だからこうして助言している訳だ。


「なっ? 飯は食わねぇと。

そんで、どうしてもってんなら体を動かしゃいいんだよ。

……まぁ、そこでだ……腹減ってるんだよな?」


こくっと頷く。


「……んじゃ、これ、食べるか?」


俺は、先ほど白石先生に貰ったパンを手渡す。


「えっ? でもこれ、立花君の」


「いやまぁ、気にすんなって。 それに、腹減ってんだろ? なら食べとけって。」


新山は、


「それじゃ。」


といって、パンを半分に割って、俺のかじった部分を食べる。

……いや、人と違うから新山に助言したんじゃないな、きっと。

俺は、新山のことが心配だったから、不安だったのだろうと思う。


「……どうだ?」


俺的には、アウトなんだが。


「んー、すごく美味しいです!! というかこれ、ピーナッツメロンパンシリーズじゃないですか!!」


「うっ、美味い、のか?」


なんだって? ピーナッツメロン?


「立花君、知らないんですか? ピーナッツメロンパンと何かを組み合わせる、パンのシリーズですよ。 女の子の間では大人気なんです。」

つまり、これは、ピーナッツメロンパンとチョコとイチゴを組み合わせたパンで、他のものも、ピーナッツメロンパンと何かを組み合わせているらしい。

……マジか。 今度は男子にもアンケートをとってもらいたいものだ。

おそらく、俺と同じ意見のものが必ずいるはずだ。

女の子の味覚を疑っていると、突然、新山が、


「あっ!」


と、また赤くなる。


「もしかして、かじった部分って…」


「ん? 俺だが? ってか、見てたんじゃ?」


「…あわわ、また…間接…」


赤くなり、小さな声でまたつぶやく。

……全く、なんだってんだ?


「やっぱり、新山、本当に風邪なんじゃ」


……。

このあと、新山は一部始終プンプンだった。

なにやら、俺が空気読めないみたいなことになってたが、さっぱりだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ