意思を託したもの、托されたもの。 2
リリーはかつて魔王によって支配されていた国のお姫様であった。
容姿は美麗でその美しい姿は国すべての者たちを魅了し、頭も良く並みの学者では歯が立たないほど。
彼女の名を知らぬものは暗黒騎士には存在せず、父である王からは姫であるにもかかわらず次期当主として選ばれるほどであった。
だが、ただ容姿や頭がいいだけで選ばれたというわけではない。
もっと重要なこと、大切なものを彼女は備えていた。
それは信頼。
何よりも民に愛され、何よりも民に信頼されていた。
優しく、威風堂々たる身構え、その凛々しく美しい姿に魅了され、常に民の先頭に立つその勇ましい姿に心惹かれた民たちは、国家に従うというより、姫に従うという姿勢を保った。
国は明るかった。
そんなリーダーの姿を見てか、総ての民が団結し、全力を尽くし、姫のため姫のためとどんどん国力は増していった。
と同時に笑顔が絶えない国でもあった。
全力を尽くしているとはいえ、死力を尽くしているわけではない。
心には余裕があり、失敗してもくじけず助け合い、みんなで前をむいていた。
だが、そんな明るい生活は長く続くことはなかった。
ある事件によって、国は豹変していく。
魔王の心変わりによって。
心優しかった魔王が突如、心が変わってしまったかのような極悪非道ぶりを見せつけた。
重い重税、無意味な死刑、強引な兵役。
これに見かねた暗黒騎士領、つまり北・南米諸国はいくつかに別れてしまった。
当然、リリーの国もそのうちの一つだ。
だが、これを見過ごす魔王ではない。
すぐに魔王は動き出す。
独立していった国々を次々と焼き払い、反旗を翻したものには迷わず死を与えた。
この動きに驚異を感じた独立国家は次々と降伏し、魔王は反乱を抑え、再び大陸を統一したかのようにも見えたが、リリーの国だけは違った。
……その後も戦いを挑んだのだ。
「我々、魔王軍の信念とは〔各々の志を護るために戦う〕ことであろう。
それが今はどうか!! 今の魔王軍に志はあると言えるのか!! 否!!
志は!! 正義は我々にある!! 皆、立ち上がり奮起せよ!!」
と勇ましくリリーは言い放ち、国民を奮い立たせた。
リリーは真正面から戦った。 国と大陸の戦争になるにも関わらず。
戦争とは無情なもの、当然勝ち負けは戦う前から決着がついていた。
正義も理想も信念も、リリーが勝っていた。
だが、歴史上の正義はリリーではない、魔王だ。
第三者から見て、どちらか正しい方が勝ち、正義となる、訳ではない。
所詮、力あるものが勝ち正義となれる、のだ。
戦争の理りだ。
この戦争もそうだった。
能力を持たないリリーたちの軍は、正規軍で能力者を主体とする魔王軍の前に何もできるはずはなく敗北していった。
そして、戦争が終結したあとで、魔王は見せしめとして能力によってリリーの国を丸ごと消し飛ばし、「国」というものをこの世から無へと帰した。
当然、彼女もここで死んだとされている。
……わけなんだが。