意思を託したもの、托されたもの。 1
意思とは偶然に生まれるものではなく、その者の過去の出来事に対して、その者の感情から生まれ、時が流れ、重ねる度に強くなっていき大きくなっていく。
だが、消滅することはない。 いずれその者の意思を引き継ごうという者は必ず現れる。
人は死ぬとき、後に残った、つまり意思を引き継ごうとする者たちへ意思を託して消えていく。
やがてその名は薄れゆき、忘れられ消滅していく。
だが、意思は消えない。 何代、何千年と時が流れようとも意思の引継ぎは留まらず行われていく。
遊の知らぬところで動いていた世界、革命軍。
遊によって助け出された、力無き少女はいつの間にか革命軍リーダーとなっていた。
少女は変わった、意思を引き継いで。
今まではついて行くだけだった、見ているだけだった、守られているだけだった少女が初めて想った。
私が世界を変えると、私が戦ってやると、私が皆を守ってあげると。
少女を変えたのは一人の英雄・リリーと、その意思。
自分の運命も変えられぬ英雄は、思いを託し後世を変えることができるのか。
少女は初めて体験する死をどのように受け止め、何を想うのか。
これはそんな彼女たちの、リリーの終わりと革命軍リーダー、天草 鮮の始まりを描いたお話。
俺の妹、天草 鮮救出というミッションを終え日本から暗黒騎士領の革命軍本部へと戻ってきた俺と京子ちゃんと鮮。
だが、このまま暗黒騎士領を乗っ取るため、行動を起こすとはいかない。
元々の日本での戦力増強という目的を遊と怜香に任せた俺達には、まだまだやることが山積み。
まずは何と言っても根回し活動。
魔王を倒したところで、そのあとに国がバラバラとなっては意味が無い。
そのため、暗黒騎士配下となっている各王国や町、村や里といったあらゆる場所の統治者を説得しなくてはならない。
なによりも重要で、なによりも最優先しなくてはいけないことだ。
怠ってしまえば、革命で始まった戦火が、各地に拡がり、罪も無い人々の命が失われてしまう。
魔王を倒すことと戦火を拡げないこと。
二つはセットで、初めて革命が成功すると言える。
その次に戦力の補強。
あくまでも日本ではなく、暗黒騎士領内で、ということ。
日本での戦力増強はとても魅力的。
魔王が敵と言うことで、情に流されないし、なによりも能力数値が高い。
流石は能力向上を念頭においているといったところだろう。
だが、いくら魅力的で能力数値が高いとはいえ、数に限界がある。
あまり多くの人間を日本からとりすぎてもまずい。
今はまだ日本から数人しか引き抜いていないから、俺達でも事をもみ消せてはいるが、これが何十といった人数になれば……革命どころか日本と暗黒騎士での争い事になってしまう。
いくら日本のトップの人間が国民に暗黒騎士や聖騎士の事実を隠しているとはいえ、こちらが敵対行動を起こせばすぐに国民に全てを話、総力をもって戦争をしかける、かもしれない。
当然、戦争を起こさせるわけにもいかないし、なにより国内のことは国内で解決させたいのが一番の理由だ。
事の事実を知っている者の力を借りたいし、革命という名目があるのだ。
本質も知らないくせに、なにが革命かと。
歴史も語れず、正義も語れないものに革命を起こす権利はあるのか……革命を起こす以上、俺は自分に素直でありたいんだ。
そのほかにもやることはある。
他国、聖騎士、中立との友好。
現在、差別を受けている者達、生活に不自由がある者達をいかにするかという政策。
そのために必要となってくる資材や食べ物の生産量上昇のための内政。
だが、それらの項目を達成できるものは、俺達の中にはいない。
俺や京子ちゃん、怜香は長い間戦場に身をおく者として生きてきた。
そういうことはあまり得意とは言えない。
できたとしても俺くらいなものだが、国民から支持を得るということは絶対に出来ないだろう。
遊や唯は……あれで色々と重いものを背負っているんだ。
これ以上なにかをさせるということは、俺には出来ない。
ということはだ。
これらの内政やら政策をする前に、俺達には必要な人材がいる。 国民から絶大な信頼を得られる、リーダーが。
そして、その目処は既についている。
そのリーダーの名は。
リリー・アブル・フェイス。