俺は…。
□ ■ 立花 遊 ■ □
やっとのおもいで、家まで帰ってきたかとおもうと、家ではマヤのやつがやりたい放題やっており、俺のかわいい生活費達が翼を生やし、一気に飛び立っていくという事件が発生していた。
当の本人はというと、深い眠りについたようで、心地好く眠っていた。
……まぁ、裏を反せば、俺にもやっと平穏な時間が訪れたってことなんだがな。
そんな貴重な時間を俺はなにに使うかというと、夜空を見上げることにだ。
「……ったく、とんでもねぇやつだ」
人の大事な生活費を一日で大きく消費した挙げ句、「夜更かしは、女性にとっての天敵なのです~」 とかいって、何気ない顔して俺のベッドに飛び込んでいきやがって。
……待てよ? そうなると、俺は床で眠らなくちゃいけないんじゃないのか!?
……。
「はぁ~↓」
この小さい女の子?の悪魔が来てから、ろくなことがおきちゃいない。
こんなめんどくさい能力を手に入れて、魔王だのなんだの言われるわ、不知火には殺されかけるわ、初対面の女の子(唯)をたすけるはめになるわ。
今日だって、戦いに巻き込まれて、革命軍に入ることになってめんどくさかったんだぞ。
「…」
今日の戦い、か。
暗黒騎士達同士の戦い。
……今さら、後悔しちゃいけない。
一歩間違えば、陽介、不知火、妹さん、そして清水の誰かが〔犠牲〕になることだって有り得たんだ。
……もちろん、俺が死ぬことだって、可能性がない話じゃなかった。
そう考えれば全員助かった。
最善を尽くしたんだ。
完璧だったはずなんだ。
だが、違う考え方をすれば、彼等も助けられたのではないか?
……そういった意見も出来るはずだ。
彼等も元は同じ仲間。 少しでもやり方を変えれば、全員、助けられたのではないか、と。
助けを請う者だっていたはずだ。 なにも、殺すことはなかったのではないか、と。
……だが俺は否、と答える。
さっきもいったが、誰かが死ぬことだって有り得たんだ。 奴らを殺さなければ、俺達が殺されていた。
仮に、奴らを助けて、革命軍に加えたとしよう。
確かに戦力は大幅に増えるが、それと同時に再び、同じ過ちが繰り返される可能性が出て来るんだ。
そうなれば、今回同様、陽介が俺を殺さなくてはならない、ひどくなれば、陽介と不知火が殺し合う。
さらに最悪なのは、陽介が鮮を殺すことだって……。……生かしておいたって、結局、同じことしかできないのだ。
人のいう、心が改心するなど有り得ないのだ。
……全く、人間という生き物は。
「…」
俺の気になるところはそこではない。
……陽介との戦闘中のことだ、おかしくなったのは。
……急に右腕がいうことをきかなくなった。
それどころか、右腕から俺のオーラではない、別のオーラがふきだし、逆に俺を飲み込もうとした。
それだけではない。
右腕には見たこともない刻印が刻まれていたのだ。
その刻印もオーラ同様、右腕を起点に、俺の身体に広がっていこうと、飲み込もうとした。
「…」
さらに不可解なのは、突如として脳内から発せられた謎の声。
「(もっとその力を見せてくれよ)」
「(俺と変われよ。一思いに殺してやるからよ)」
「(ただ、この先迷うようだったら……覚悟しな)」
あの声は一体、なんだったのだろうか?
何度か同じことがあったが、ここまではっきりと聴こえたのは初めてだ。
……そして、その声について思い当たる節は、一つ。
あれは唯を助けるため、白いスーツの男にとどめをさそうとした時だ。
「やはり甘いな、遊。……俺に変われよ。」
あの時も〔俺に変われよ〕という言葉を使った。
……結局、その時は俺の意識が途切れてしまったが、唯の説明によれば、〔白銀で長髪の少年、魔王〕となったという。
……そいつの仕業なのか?
そういえば、今日も意識が……?
いや、今回は完全に意識がなかったわけじゃない。
……身体を共有しているような、気がする。
「……」
俺の中に、なにかいるとでもいうのか?