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Eternal wish   作者: キッド
序章:始まりのようで、終わりのようで<始>
29/83

ここで、俺が……

■ □ 天草 陽介 □ ■


妹である鮮を救出し、全員が無事であったのを喜ぶのも束の間。

指示はなかったとはいえ、一応は暗黒騎士内部の問題。

俺は魔王にこの出来事の一部始終を報告し、これからの方針やそれに対する俺や京子ちゃんの動きを聞きにいかなければいけない。


いそいで報告しなければならないとはいえ、鮮をこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかない。

細心の注意を払う、という意味で、鮮を先に革命軍本部に送り届け、その護衛役を京子ちゃんに任せておいた。


そして俺、天草陽介は魔王とご対面するってわけだ。

……対面とはいえ、気は抜けない。

抜けないというよりも、抜いたら死ぬ、と考えたほうがいい。


と、自分に言い聞かせ、俺は魔王のいる部屋、暗黒騎士軍本部の中で一番大きい部屋(魔王の間)のドデカイ扉に手をかける。


「失礼いたします」


中は薄暗く、目を凝らせばようやく魔王の姿が見える程度。

魔王は部屋の一番奥の王座に座っており、なんとも言い難い気を放っている。

俺はその前まで歩いていき、王座の前で跪く。


「ーーーほう、貴様が生き残ったか」


王座に座る魔王は、ニヤリ(暗くて見えないが、おそらく笑ったであろう)として、俺を見下ろす。


「はっ、天草陽介。

      無事、妹を救出しこの地に戻ってまいりました」


そんな奴に対し、俺は下をむいたまま報告を済ませる。


「ふん、ご苦労。 以後、この地にて戦力増強に務めよ」


「はっ。」


戦力増強?  今更なぜそんなことを?

今回の事件によって生じた戦力の穴を埋めようとでも言うのだろうか?


「それでは失礼いたします」


俺は立ち上がり、その場を後にしようとすると、扉の前で呼び止められる。


「……俺の考えに不満でもあるのか?

     もしそうなら、意見してもいいのだぞ?」


俺は冷静に後ろを振り返るが、部屋は暗く、魔王の顔は定かに見えない。

ただ見えるのは、魔王の赤く光る眼、だけだった。


「いえ、私からは今回のことにつきましては何も」


「何もないわけではあるまい?  俺は貴様の意見が聞きたいのだ」


……俺の意見を聞きたい?

この男はどこまでが本気なんだ?

今までさんざん意見してきた俺達の重大な意見を無視してきて、自分のしたいようにやってきて、暗黒騎士領土に住む全員が困っている時は聞かないくせに。


……こんな、戦力増強、戦いの話になると俺の意見が聞きたいというのか!?


「一体、何に関しての意見、でございますか?」


俺は怒りやその他諸々こみ上げてくる感情を押し殺し、皮肉じみた質問を問いかける。


「フッ。  まさか、俺の命令に何の疑問も抱いていないわけではあるまい?」


……当然だ。

いや、むしろ疑問しか抱けない。

もちろんのことである。


今や平和な時代。

悪魔や天使が争っていたのも昔の時代の話。

暗殺やテロが絶えないとはいえ、戦争が起こらないよう、停戦協定が打たれているのだ。


その停戦協定を結んだのが、この男と天使側のリーダーだ。

……信じ難い話ではあるがな。


「この生ぬるい時代に戦力増強を図ろうというのだぞ?

ならば、考えられることはひとつしかあるまい」


……!?  まさか、この男!!


「そう、戦争だよ、司令官。

何故、相容れぬ天使などと共に生きる必要がある?

おかしいと思わないか?

以前、殺しあっていた者たちが、現在、同じ時代に手を取り合って生き抜いていこうというのだぞ?」


……俺は言葉が出なかった。

と同時に、再認識した瞬間でもあった。


この男は変わってしまったのだ、と。


なぜかは解らないが、最早、この男は王の器がないとかそういう問題ではない。

感情、つまり心をなくした生き物となったのだ。


「……俺の言いたいことが解ったか?」


口を開かない俺に対し、魔王は上機嫌のように問いかけてくる。

……さっぱり解らない。


「今、この俺を止められるのは、お前一人だけなのだぞ?」


……。


「ここで俺を止めなくては、多くの犠牲が出るぞ?

お前の嫌いな『犠牲』がな。

……下手をすればあの女も妹も」


嬉しそうに話す魔王に対し、俺は淡々と答える。


「失礼ですが、先を急ぎますので」


「いいのか? チャンスは今だけだぞ? 今なら意見を聞いてやるぞ?」


「先程も申しました通り、私はあなたに意見する気は毛頭ありません。

……それにもし、そうなったときにあなたを止められるべき男も私ではございません。

では、失礼します」


そう言い切って、俺は部屋の扉を開け、その場を後にする。

あのまま会話を続けていたら俺は……。


俺は俺を抑え切れる気がしなかった。

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