奨学金と書き、せいかつひ、と読む
「はぁ~。 ようやく帰ってきたか」
公園から帰路についてから1時間半、道が分からずに自分の勘だけを頼りに歩き、ようやく家に着いたというわけだ。
おかげでもう歩けねぇし、体は戦いの方でズタボロだし、心はもう……折れそうだ。
決めた。 ぜってぇ今日はめっちゃ寝てやる。
もう、明日は起きねぇぞ。 せっかくの休日なんだ、一日中寝てやる。
……ん? そういや、清水にまた明日、っていっちまったが休日だったな。
まぁ、いいか。
そんなことを思いながら、俺は家のドアを開ける。
「お帰りなさいませ~、ご主人様~」
……。
あるものに目を奪われ、俺は身動きができなくなる。
メイド服を着たマヤの姿に目を奪われ。
「……家を間違えました、すいません」
「ちょっと~!! ちがいますよ~!? あってます!! ここはあなたの家です~!!」
そういって、外に出ようとする俺の腕を引き止めるマヤ。
ってか、前にもこんなことあったよな(汗
「そんで、お前は何やってんだよ?」
いつもなら黒いマントだけ羽織って、宙に浮いてるのに。
……なぜかシンプルな白と黒のメイド服を着ている。
「疲れたお体を癒そうと思いまして~。
日本の文化では、この格好で、ご主人様~、と言えば見たものに所謂、萌え、という癒しを与えられると聞きましたので~。」
いやいやいや、どういうことだよ!?
確かに間違っちゃいねぇけど、そんな感情を抱くのは一部の人間だけだぞ?
例えば、陽介だろ? あとは……陽介とか?
……陽介……お前ってやつは……。
いや、俺は違うぞ!? 断じて違うぞ!?
ってか、そんなことはどうでもいいんだよ!?
大体、こいつどっからそんな情報仕入れてきやがったんだ?
……ん!? まさか!?
「おい、マヤ!! お前、まさか一日中テレビ見てたんじゃ……」
「? 当然じゃないですか。 他にこの家でやることがあるんですか?」
……最悪だ、コイツ。 なんて事してくれたんだ。
「? 何かいけませんでしたか?」
頭の上からハテナマークが表示されていそうな顔で俺に質問してくる。
……はぁ。
「……俺が貧乏っていうことは知ってるよな?」
呆れたように、俺はマヤの問いに答えていく。
「えぇ。 だから食費、お風呂の水、水道水の使い方、その他もろもろをケチくさく抑えていますよね?」
……せめて節約していると言って欲しい。
仕方ないのだ。
俺には仕送りがなく、学校から送られてくる……というかなんというか、奨学金のようなものだけで生活費をやりくりしている現状なのだ。
普段は何故、特待生なのかと疑心暗鬼なのだが、こういう時ばかりは自信満々に胸を張って、俺が特待生だ、と言ってやりたいほどである。
生活費全てを賄ってもらっている立場なのだから。
……こう考えると、俺って情けないなぁ……。
ん? バイトすればいいって?
……めんどくさいだろ?
「よく解ってんじゃないか。
その物わかりのいいマヤさんが何故、電気を使いたい放題やっちゃってくれてるのかな?」
「……電気ってお金かかるんですか?」
……は?
「ちょっと待て!? お前そんなことも知らねぇのか!?」
んなこと一般常識だろ?
小学生はもちろん、下手したら3歳のガキですら知ってることだぞ!?
「私、今まで王宮で仕えていまして~。
王宮の電気は、能力者が供給していましたので~」
……コイツが魔王の使い魔てのを忘れてたぜ。
知らないことは罪、だとよく言われるが、叱るとなるとそれも別問題だよな。
俺には怒ることが出来なさそうだ。
……柄でもねぇしな。
「……はぁ~、解った。
今度からは気を付けてくれ」
少々困り顔であったマヤだが、何かを思いついたようで、顔が一気に明るくなり、笑顔で、
「すみません~、ご主人様~。
お詫びに~、私がご奉仕させていただきます~。
ご飯にしますか~? お風呂にしますか~?
それとも~、わ~・た~・」
「だから、それはもういいんだよ!!」
こうして、長く、そして騒がしい一日は幕を閉じようとしていた。
……今日はいいこと、ひとつもなかったな↓