勝利者の姿
「ぐっ!!あああっ!!」
頭に……声が。それに同調するかのように頭が……。
あまりの痛みに、俺は地面に膝をついてしまう。
「なっ、なんだ? いきなり崩れ落ちたぞ?」
「おい、今ならいけるんじゃないか?」
「野郎ども! 構えろ!!」
その号令によって、今まで混乱していた兵士たちは落ち着きを取り戻し、士気が上がる。
そして、各々の能力を発動させるための、戦闘態勢に入る。
「(立って、遊)」
まただ。頭に声が。 だが、さっきまでとは違う。
誰なんだ?
「(僕が誰なのか、今やるべきことはそんなことじゃないはずだ。 今すべきこと、君ならわかるだろう?)」
今やるべきこと……。 あぁ、わかっているさ。 俺がすべきことは……。
「(頑張って。 君ならできる。 僕にできることはまだ限られているけど、少しなら協力できるから。)」
こいつらを殺すことだ。
「……くっ。あっはっはっは。ビビらせやがって。 なんだかしらねぇが、頭がおかしくなっちまったみてぇだな。 今のうちに死ねや!!」
頭の痛みが引区と同時に立ちあがり、相手を睨みつける。
四方八方、数えきれない程の攻撃が、俺を取り囲む。 能力は解らなかった。 なにせ、数えきれない程の能力数。 ただ、攻撃は遅かった。 相手が未熟だからということではなく、
ただ単に、俺の力が、ディバインレリックの力が増しているからだろう。
ディバインレリックだけのおかげではない気もするが……。
「・・・遅い。」
全ての攻撃を上へと弾く。 無論、天井は崩れ落ちる。
うあああああっ!!という、悲鳴がいくつも聞こえた。 そこは一瞬で、リッチなホールではなく、光り無き絶望の地獄と化した。
「これだ。 ……ここが、てめぇらの墓場と化す。」
「うっ……うわあぁぁぁ」
何人もの能力者が逃げ出そうとする。 が、逃げ場は瓦礫に阻まれ、逃げ出すことはできない。
「……大丈夫だ。 俺もそこまで非道じゃない。 ……一瞬で、跡形もなく消してやるよ。」
右手を上へと掲げる。 と同時に、右腕と顔の右目あたりまで支配していた刻印が、右腕を黒く染め上げていく。
「……終いだ。 死ね。」
その瞳には、普段のようなやる気のない瞳ではなく、……ただ、殺すことを愉しむかのような瞳だった。
ユウの手が黒く染まった瞬間、館、全てが、跡形もなく潰れていた。
……ホールであった場所は、ただただ、真っ赤に染まっていた。
■ □ ■ □
「うっ、ううっ」
魔王によって、館、仲間全てが消し去られた。
だが俺は、能力によって生み出した、傀儡兵士を盾にすることによって生きながらえていた。
だが、いくら生きながらえているとは言っても、あと数分の命。 それくらい、俺も悟っている。
それほどの威力だったのだ、奴の攻撃は。
「(……所詮、俺も、ファン・リートムもここで死ぬのか)」
最後に一目と、館跡につったっている魔王の後姿を見た。
そして、一目で悟った。
自分は負けるべくして、負けたのだと。
その後ろ姿で悟ったものとは。
風に揺れる長い髪、跡地を見つめる紅い瞳、そして何より、深い悲しみを思わせる表情。
「(……これほど、気持ちのいい気分は初めてだ。 ……初めて、素直に負けを認めることができた。
)」
やがて、彼は命を引き取った。 清々しい顔で。
だが、ひとつ不思議に思ったことがあったという。
遊の髪が長く、白髪と黒髪に分かれていたということが。