意図
……ホール……
相手は百ほど……いや、相手の能力で二百ほどになった。 陽介や、不知火達は無事逃げ切ることができたのだろうか?
もしそうなら、俺も今すぐ逃げ出したいところだが……今回はそうもいかない。
「よぉ、そこのあんた。 能力をこっちに回したってことは、外の連中は無事なのか?」
首謀者らしき男に問いかける。
「くくっ、まぁな。 奴らは足早に逃げて行ったみたいだぜ?」
不敵な笑みを浮かべ、答える。
……? 何かおかしい。 鮮を誘拐しておきながら、簡単に逃がす? しかも上機嫌で。
「……お前の意図が解らない。 軍の上位職に就きたいからこそ、誘拐を実行したんじゃないのか?
なぜ、その対象である陽介たちを簡単に逃がす?」
「ぷっ!!……はっはっっは!! こりゃいい、傑作だ」
その場の者、すべてが大声で笑い出す。
なんだ?ついに頭おかしくなったのか?
「いや、失礼。 ただ、何も知らないお前が傑作だったもんでな」
……?
「俺らの狙いは、あんな小物じゃねぇ」
「俺らの狙いはただ一人」
「てめぇだよ、立花 遊!!」
狙いは……俺? 何故だ? 俺は王位に就いてすらないし、何の得にもならないはずだ。
……いや、まて。 狙いが陽介なら、わざわざ鮮を日本にまで誘拐してくることはない。
つまり、初めから狙いは俺であることは解った。 そこはいい。
だが、こいつらに。
「お前らに何の得がある? このまま俺を殺したところで、悪魔側に戻ったとしても」
「まだわからねぇのか?」
「俺らはあそこに戻るきはねぇ」
「もう、俺らは天使側の人間なんだよ」
!?
……いや、驚くこともないか。 これですべての話が繋がる。
「あのお方は、落ちこぼれだった俺らに生きる場所を与えてくれると約束してくれた。
お前を殺すことでな!!
悪魔側じゃ、最早、天草家以外が最高司令の座に就くことなんてありえないからなぁ。
昔からあの一族は気に入らなかったんだが……まぁ、あのお方は手を出すな、って言ってたしな。
見逃してやったってわけよ。」
続けて、ちがう男が、
「まぁ、要は考えようだよなぁ? これ以上悪魔の名を語っていても未来がねぇ。
外にいる奴らを殺してもよかったんだがな」
……。
俺はただ立ち尽くしていた。
男たちの話など聞かずに。
「おいっ魔王!! てめっ、話聞いてんのかよ!!」
「……お前らさぁ」
「あぁ!?」
「少しでも陽介の気持ち、考えたことあんのか?」
……。
「ぎゃっーはっはっはー。 なに、気持わりぃこと言ってんだ? てめーは?」
「んなもん、考えるわきゃねーだろ」
げらげらと汚い声で笑い出す糞野郎ども。
「そうか……すっきりした」
俺がいけないんだろうな。 戻ったら謝らないと。 俺のせいで皆に迷惑をかけちまった。
「何言ってんだてめー?」
けど、その前に、今は……
「まぁ、この人数差だ。 声も出ないほどに怯えてるんだろうな。」
この糞野郎どもを……。
「……俺ぁ、あんまりキレたりしないんだがよぉ……」
ぶっ殺せるんだからなぁ!!!
■ □ ■ □
「てめーらぁはべつだぁっっ!! 俺の親友を傷つけた挙句、大切なものを踏みにじったんだからなぁっっ!!」
一喝……いや、その限度を超えていた。 怒りはオーラへと変わり、館全体が揺れ、震度7ほどの地震が起きたように感じるほどだった。
「ひっ!!」
そして、その場にいる者はすべてが震え、遊の気迫に、気絶する者さえいた。
「……はっ、ははっ。いっ、今更そんなキレたところで、この人数差は埋められまい。」
確かに気迫はすげぇさ。 さすがは魔王の子、いや、化けものだ。
だが、……周りからみれば、明らかに圧倒的。 なんせ、一対二百。 圧倒的に俺らの有利だ、賭けにさえならない。 ただ、もうひとつ圧倒的なものがあったことに、俺らは気がつくことはできなかった。
「……確かに人数じゃ、勝ち目が無いなぁ。多数決じゃ、そっちの勝ちだ。 だが、闘い的にはどうみても俺が優勢だな」
「はっ。冗談も程々にしろよ。 オーラの量をみたって……!?」
オーラ量が桁違いということは、その場にいるものも理解していた。 だが、違うにしても限界はある。 どんな化け物であっても、最高でも、五十人くらいのオーラ量が限界だろう。
だが、こいつは……何もかもが違う。
こいつのオーラは……館全体を覆っている……だと!?