黒い刻印
ホールは先程まで、シャンデリアの明かりで明るかったが、陽介の能力でそこは闇と化した。
ブラックサイト。 辺りを暗くし、視界を奪う能力。 これにより、俺は陽介の姿が見えず、防戦一方となっている。
「だが、流石だな、遊。 眼ではなく、空気の流れや、俺の足音から攻撃を予測し、回避するとはな。 俺もなるべく足音を殺しているんだがな」
……気づかれてたか。 まぁ、空気の流れや音が聞こえるだけマシだ。
五感全て奪われていたら……死んでいたな。
ただ、完璧に避けられていた訳じゃない。 さっきから、右腕を抑えるためにほぼ百%と言っていいほどのオーラをまわしている。 つまり、今の俺は無能力者といっていい程の実力だ。
「……せめて最後は、お互いの姿が見える状態で……」
陽介は、能力を解除したのか、辺りはいきなり明るくなった。
「……陽介、手加減はいらないと」
「手加減じゃない。俺なりのけじめだ。」
……まぁ、陽介なりに俺にチャンスをくれたみたいだが……。
相変わらず、甘いやつだ。 だからこそ、優しさを捨て切れてないんだろうな。
だがまぁ、俺も俺だ。 チャンスをくれた陽介に、反撃できるかどうかって考えたら……。
まぁ、無理だろうな。 ダメージで、身体は立ってるのがやっとだし、何よりオーラを右腕に全て注ぎ込んでるってのがつらい。
「早く剣を取れ、遊。」
そうしたいのは山々だがな。 剣を空間から出すことさえままならない。 その時、
「(俺を抑え込むとはなぁ、見込通りだぜぇ、遊。 ……良いぜぇ。 もっとその力を見せてくれよぉ)」
なんだ!? 右手が熱い!! 頭に誰かの声が!!
「(なんだよ。殺らねぇのか? なら、俺と変われよ。 一思いに殺してやるからよぉ)」
俺が……陽介を?殺す?
「(あぁ、じゃなきゃ、お前が死ぬんだぜぇ? 友達も何も、関係ねぇ。)」
俺が死ぬ? ……だが、
「(有り得……ない!! 俺は約束したんだ!! 何があっても陽介を裏切らないって。
友達は護るって!!)」
「(けど、そんな甘っちょろいこと言って生きていける世界じゃないぜぇ? そんなこと言ってっと、どっちも死んじま)」
「(……お前、ちょっと黙れ。 殺すぞ?)」
「(!? くぁっはっはっは。 やりゃあできるじゃねぇかよ、遊。 それだよ、その感じ。
これは期待がでかいぜぇ。 んじゃ、俺は、高みの見物といこうか。
今はな。 ただ、この先迷うようだったら……覚悟しな。)」
!?
なんだ? 頭に声が聞こえてきたと思ったら急に右腕が熱くなった。
!? 右腕に黒い印が浮かび上がっている。
「なんだこれは!?」
何と言ったらいいのか、薔薇のようで薔薇でないような、刃物の先端が四つ、四方に伸びているようでいないような。
……一番解りやすいのはチンピラの刺青、個人的感情で表わすと、【悪魔のタトゥー】、といったところか。
ビックリした。いや、ビックリしないほうがおかしい。 いきなり、右腕に黒い印が浮き上がってきたのだ。 そしてなにより、陽介がつけた傷も全てが消え去り、俺は平常、いや、最高の体の状態になっている。
「そいつは……」
陽介は何か知っているようだった。
「陽介さん、戦うのをやめてください」
おかしなタイミングで、声をあげたのは、待ち望んでいた清水の声だった。
「兄さん!!」
少女は涙を流しながら、陽介に走り寄った。
「鮮」
感動の再会。二人は抱き合いながら、喜びをかみしめ合っている。
「……鮮。ホントによかった。無事で」
「兄さん……」
「清水、良くやったな。 これで一件落着ってか?」
「そうですね。 立花先輩もお疲れ様でした」
……うーん、完璧に場違いになってるんだが……
「……水を差すようで、済まないが……早く脱出しないか?」