信じるもの
……牢獄……
「……ちっ。 こんなところの見張りなんてな。ついてないぜ。」
牢獄には兵士が一人、鮮の見張りについていた。
「おっそうだ。いいこと思いついたぜ。 おい、可愛い子ちゃん。 せっかく、牢獄の鍵を持ってるんだ。 楽しいことしようぜ。」
そういって、男は鍵を開けて、中に入ってくる。 だが、鮮は動かない。 声もあげない。 抵抗さえしない。
兄が助けてくれると信じているのだろう。 あれ程、頼れる兄が何処にいるのか。 純粋な少女にとっては、彼こそが正義なのだ。 それは、聖騎士でも、暗黒騎士でもなく、彼でなくてはならない。
……徐々に男が寄って来る。 もう終わりだと、眼を閉じた時、バタッと音がした。 不意に眼を開けると、その男は倒れていた。
「鮮!!」
……やはり、訂正。 彼だけではなく、彼女も正義だ。 清水 怜香。 私のかけがえのない、たった一人の親友。 怜香は私に抱きついて来る。
「鮮!! よかった、本当によかった!!」
「怜香、ありがとう。 ……私……。」
「いいんです、鮮。何も言わないで。 さぁ、ここから早く。」
……館前……
「さぁ!! かかってきなさい!!」
私が一喝すると、一斉に動き出す。 だが、その動きは単調で遅い。
当然、不知火相手には歯が立たない。
「さて、もう10人も切っちゃったわよ? どうするのかしら?」
……ホール……
「そういや、お前とこうやって対峙したことはなかったな、遊」
「……そうだったな」
「そう考えるとさ……そろそろ白黒はっきりつけとくか?」
おそらく、どっちが喧嘩が強いか……ということだろう。
そういや、こいつとは互いに背中を合わせて、良く町中の奴と喧嘩したものだ。
……ほとんど、相手から吹っ掛けられたんだがな。
「……めんどくせぇ御託はいいから早く来い。」
「んじゃ、遠慮なく。 ……ブラックサイト」
→↓←↑
見えない。
ヒュッ!!
空気が切れる音がする。 と同時に、俺の左腕からは赤い血が滑り落ちてくる。
「どうした?遊。 今のは避けきれない攻撃でも無いだろ? それでも、京子や唯を殺そうとした者に勝った者の実力か」
「……俺は一度だって、勝負に勝ったことはねぇよ。」
わざとにせよ、不知火に負けたし、暗殺者倒したときは意識無かったしな。
「……だが、その出血量じゃあ、ホントに死んじまうぞ。」
確かに。 そろそろまずいと、俺の体も告げている。
どれほどの時間が経つのだろうか。
俺は防戦一方で、体はズタボロ。
数十か所に傷を負っており、体からは赤い血が滴り落ち、床は俺の血で赤く染まっている。