婚約者
「陽介さん!! 今、外では不知火さんが兵士達と戦ってるんですよ!? 婚約者が助けなくていいんですか!?」
……えっ?
ちょっと待て。 会話の流れから察するに。
……不知火の婚約者=陽介
あぁ、なるほどねぇ~。
……。
こ、こ、こ、
「婚約者~!?」
不知火と陽介がか!? 不知火と陽介がか!? 冗談もいいところなんだが。
……と考えるとだ。
「陽介。」
「なんだ?」
「……お前が受けで、不知火が攻めか?
いや、普通すぎるか。 実は不知火はMで、お前がSの方か!?」
「何の話をしてるんですか!?」
顔を真っ赤にしている清水。 ……なかなかいいリアクションだ。
「遊、それは違うな。」
「ほう。どう違うというのだ?」
「……俺らに受けも攻めもない。 ただひたすらに、京子にボコボコにされるだけだ!!
あの空間で、Mを名乗れるやつがいたとするなら……そいつは勇者だな」
ゲラゲラといつものように笑い合う二人。……何も変わってない。 いつも通りの陽介だ。 立場が変わろうと、親友という大前提に変わりはない
「……だが、婚約など昔の話だ。今は、妹を、鮮を助けることが重要だ。」
表情を変えず、ただ、黙々と陽介は答えた。
「だからって……」
清水は悲しそうな顔をする。 ……見るに堪えないな。
「……清水、お前は陽介の妹を助けに行け。」
「……でも」
俺の指示に迷いを感じていた清水だったが、親友のことが気になったのだろう。 少しして、清水は地下へと向かった。
「行かせてよかったのか? お前は奴らに、ここを通すな、と言われたんじゃないのか?」
「……俺の視界に、清水は一度も入っていない。 清水という存在自体ここにいた、という認識が俺にはなかった。」
なるほどな。 どおりで清水と会話を交わさないなと思ったが、そういうことだったか。
「だが、まぁ、お前が悪魔側の人間だったとはな。 驚いたよ。」
「失望、しただろ? 親友だったお前を騙していたんだ。」
「……別に。隠し事の一つや二つ、誰にだってあるだろ。 お前が正しいと思ったら、それは正しいのさ。」
「だけど、今から俺は!!」
「言うなよ、……実の妹を助けるためだろ? 俺を殺さなきゃ、妹さんが死んじまうんだろ?」
そう。しょうがない。 俺を殺さずに、妹も助けるなんて、虫が良すぎるんだ。 ましてや、それを一人でどうにかすることなど理想論でしかない。
なら、俺は……
「……だが、俺も死ぬわけにはいかない。 陽介、本気でこい。」
だから、俺は、時間を稼ぐ。 一人でなら助けられないかもしれない。 けど、今は清水がいる。 俺はアイツを信じる。……柄じゃないけどな。
「やるしかないみたいだな。」
陽介は大鎌を構える。 俺もそれに呼応して、ディバインレリックとオーラをだす。
!?
俺は咄嗟に右腕を抑える。 あの日、唯を助けた日から右腕がおかしい。独りでに動き出すというか、意志があるみたいだ。
「……どうした? 右腕を抑えたりして。」
陽介は俺の心配をする。 全く、優しいやつだ。
「今は敵同士だろ? 敵の心配なんかするもんじゃない。」
「……そうだな。」
俺は、右腕をオーラで無理矢理におさえこみ、ディバインレリックを発動させた。