生涯あなたの髪色に染まりそうです。
「あなたの髪の毛、気持ち悪いわ」
私のトラウマは、はじめて歳の近い子との交流の場でそう言われたことだ。
私は生まれた時から、髪の色が白っぽい透明な色だったそうだ。
だけれど、取り上げた産婆に触れた途端に、産婆の髪色を映し取ったように髪色が変わったという。
触れた人の髪の毛の色に変わるという、かなり変わった特性を持って生まれた。
昔の記録に同じような人はいたというので、特に病気というわけではないが、家族も使用人もだいぶ戸惑ったという。
それでも、私のことを受け入れてくれる理解ある両親の元に生まれたなと思う。
触れればその人の色になる。
私からしたら当たり前のことで、母様や父様と同じ色になるのは嬉しかった。
まだ喋られもしない私がとても喜んでいるのを見て、次第に両親もそれが可愛く思えたそうだ。
自分の色の髪を引き継ぐなど、他の家でもそうであって、私は触れれさえすれば両親2人の髪色になれる。
それは、自分にとっては自慢できる自分の好きなところだった。
ところが、転機が訪れたのは5歳の時の貴族同士の交流会だった。
身分も歳も近い子らが集められて、礼儀作法などのお披露目会のようなものだったけれど、そこで仲良くなった女の子にお菓子を取りに行こうと、手を引かれた時だった。
その彼女の淡いピンク色の髪と同じ色に様変わりした私を見て、その子は勢いよく手を振り払った。
そうしてこう言われたのだ。
「急に変わってヘンなの!あなたの髪の毛、気持ち悪いわっ!」
その言葉とともに周囲はざわつき、たくさんの好奇の目線が私に向いた。
家族と使用人としか触れ合ってこなかった私からしたら、心変わりするには十分だった。
その日から絶対にオペラグローブをつけるようになった。
そして、誰にも触らないようになった。
また『気持ち悪い』と言われたくない一心だった。
人の髪が写ったままでいるのは、せいぜい1週間程度だった。
それが過ぎると、元のやや白い透明の髪に戻る。
両親は抱っこしたり、手を繋いだりしようとしてくれたが、怖くて全部拒否した。
そのうち、内気で暗い性格にもなっていった。
私は、本来の地毛で過ごすようになり、結婚適齢期を迎えた今は、老婆のようだと揶揄されている。
俯きがちで長い髪の毛が表情を覆うようで、陰気臭いと煙たがられ、おまけに本当に暗いから、婚約者どころか女友達すらいないような成長を遂げてしまった。
だからこうしていつものように、夜会で壁の花と化している。
…早く、帰りたい。
父様は私にいい相手をと思ってくれていて、こうして夜会に顔を出すように言うが、私自身はなんでもいいと思っている。
こんな白髪のような、白髪にもなりきれない髪の女の貰い手がいるならいい方だ。
どこかの後妻や大商会の奥方など、どこかにと告げれば及第点だと思う。
気味悪がられなければ、嬉しいけれど…。
こうして会場の隅っこで誰とも目を合わさずにぼんやり眺めていると、同じように花の壁になっているお嬢さんが目に入った。
あら、綺麗な淡い金の髪だわ…、素敵ね。
こちらに歩いてきているけど、なんだか足元がおぼつかない気もする。
お酒に酔われたのかしら。
そんなことを思いながら、彼女を目の端で捉えていると、私の目を通りそうだった。
だけれど、その手前でフラッと体が傾いたのが見えて、思わず手を伸ばしていた。
彼女の腕を掴むように、体を支える形となった。
「……っ」
「だ、大丈夫ですか?」
そう声をかけた時には遅く、私の視界に写った毛先が、淡い金色に変わっていた。
──どうして…!?ちゃんとオペラグローブをつけているのにっ!
これさえつけていれば、髪の色も変わることがなかったのに…。
何が起こっているの…?
頭の中はパニックで、でもフラついている彼女を振り払うこともできずにフリーズしてしまった。
絶望に落とされそうになった瞬間に、目を見開いたご令嬢と目が合って、泣きそうになった。
「あ、私…」
「あのっ、助けていただいてありがとうございます…!」
「いえ、その…」
なんて言ったらいいかわからなくて、口がもごもごする。
私が次の言葉を探す前に、ご令嬢の方が私の手を握り返して、グッと顔を近づけてきた。
「失礼ですが、あなた様は魔法使いですかっ?」
「へ…?」
「それとも妖精か何かの類の血を引いていらっしゃったり?」
その目には軽蔑は浮かんでいなく、純粋な目が私を見ていた。
その彼女の顔色はなぜかさっきよりよくなっているし、足もしっかり立っていた。
「……いえ、そのような者ではございませんが」
とりあえず手を離してほしくて、やんわり離れようとしたのだが、彼女の柔らかい手は私を捕まえたままだった。
「そうなのですか?とっても綺麗に変容されたので、魔法が使えるかと思ったのですが」
そう言われて、やっぱり髪色が変わってしまったんだと悲しくなってくる。
目をぱちくりさせている彼女の可憐さに圧倒されて、今すぐこの場から逃げたくなる。
「そ、それより体調が悪いのではないですか?休憩室まで行かれますか?」
「ああ、それなのですが…。いえ、大丈夫です。兄を待っているだけですので」
何かを言い淀んで、何もなかったようににっこり微笑んだ。
とても可愛らしい人だわ…、こういう方が殿方に求められて、すぐに縁談が決まるのだろうな。
「そうでしたか、では私はこれで失礼いたしますわ」
「えっ、少し待ってください。お礼もしたいですし」
「そんな、私は何もしていませんし」
「いえいえっ、助けてくださいましたよ!命の恩人をここで帰すような真似をしたら家の者に叱られますので」
「えぇ…?」
戸惑いながらもやっぱり退出しようとしたのだけれど、彼女にふんわり微笑まれたまま、手を離してもらうことは叶わなかった。
でも、それもすぐに状況が変わった。
「あっ、お兄様、こちらです」
彼女の声に、一人の男の人がこちらへと歩いてきた。
スラッとした長身で、手足が長く、そして夜を閉じ込めたような濃紺の髪だった。
「おや、リシェル。新しいお友達でもできたのかい?」
「いいえ、お兄様」
リシェルと呼ばれた彼女は私の手を引いて、兄という人の前に立たせた。
いいえと否定されて、まだ心が痛くなるのだから救えない。
「この方はお友達以上ですわ、命の恩人なのです!」
「へっ」
「私、また倒れそうになってしまったの。だけれど、このご令嬢が支えてくださって助かったのよ」
「それはそれは、妹がご迷惑をおかけしました」
「いえ…」
「お兄様、話はまだあるの。この方に支えてもらった途端、具合がよくなったのよ!すごいわ!きっと何か素敵なお力を持っていらっしゃるのよ!」
リシェル様が嬉々としてそう報告したものだから、お兄さんは私と妹さんを交互に見た。
具合がよくなったって、私何もしていないけれど…、大丈夫かしら、これ詐欺にならない…?
「確かに顔色がよくなっているね。失礼ですがお嬢さん、何か特殊な能力持ちだったりしますか?」
「い、いえっ。魔法使いでもなければ、妖精の血も引いておりませんわ」
「でもね、お兄様っ。支えてくださった途端、ご令嬢の髪がふわっと色づいたのよ!とっても神秘的で美しかったんだから!」
「髪?」
お兄さんの方に首を傾げられて、慌てて説明を付け足した。
「か、髪が透明のような色をしていまして、生まれつきのもので、それで…時々色が変わるんです。でも、それだけですっ…!」
しどろもどろになりながら答えると、お兄さんは顎に手を当てて私の髪をじっと見た。
「お兄様、ジロジロ見るなんて失礼よ」
「あっ、申し訳ない。綺麗な髪だなと、つい」
「い、いえ…」
この反応を見るに、私の薄っすら白い髪の方は知らなそうだ。
ほとんどの方に気味の悪い白い髪だと認知されているが、色が変わると私自身だと認識されにくいのかもしれない。
「とにかくっ、お礼がしたいの!ねえ、お兄様、今度お家にお招きしてもいいかしらっ?」
「いえ、本当に大したことはしておりませんし、具合がよくなったのもたまたまかと…」
「妹を助けていただいたことには変わりません。ぜひ、私からも後日お礼をさせてください」
美形の兄妹にキラキラした目で見つめられて、これ以上断る気力は持ち合わせていなくて…。
「……シノン・グローケンと申します」
「私は、リシェル・ナイタダーラと申しますわ!この度は本当にありがとうございましたわ!」
「兄のグレイリヒト・ナイタダーラです。後日、必ずお礼させていただきますね」
人好きの笑みを浮かべている兄妹に圧倒されながら、私はただただ肩身が狭かったのだった。
翌日には本当にお礼をしたいと、ご兄妹の方が身分が上にもかかわらず、招待状が届いた。
約束の日にお伺いすると、すっかり元気そうなリシェルに出迎えられたのだった。
「シノン様っ、ようこそお越しくださいましたわっ!また早くお会いしたかったんです!」
ふわっと抱きつかれて、甘い香水とともに、また私の髪が変わったのが見えた。
「すごい…、本当に髪の色が変わるのですね…!」
その後ろをついてきたグレイリヒトは、驚いた様子で興味深そうに髪を見ていた。
見ないでほしくて、自分の髪を両手で握った。
「やっぱり、シノン様とくっつくととっても体が楽になります!」
「え…?でも、私は…」
「偶然にしては出来過ぎですわ!だって、私万年体調不良拗らせ女なんです!」
「まんね、こじ、…え?」
「こら、リシェル。その言葉遣いはやめなさい。あと、自ら弱点を述べない」
グレイリヒトは困ったように、リシェルを引き剥がしていく。
「助けていただいておいて、それは不誠実ですよお兄様」
「妹がすまない。普段、家からあまり出ないから人が来てはしゃいでいるんだ」
「…本当は具合が悪いのですか?」
心配になってリシェルの顔を見たが、特に顔色は悪くなさそうだ。
「それがあの夜会の日から調子がいいんです。きっと、シノン様のおかげですわ!」
「いえ、私は」
「グローケン嬢は心当たりがないのかもしれないが、その可能性は高いと思う」
私の言葉はやんわりと、グレイリヒトに否定された。
意味がわからなくて黙ってしまったけれど、グレイリヒトは柔らかく笑って、庭を指した。
「ひとまず、テラスでお茶はどうかな?長い話になりそうなんだ」
そう言って笑った彼の濃紺の髪が揺れて、男の人でも髪は綺麗なのだなと思った。
「あれから色々と文献を調べてみたのだが、昔髪の色が変わる一族がいたそうなんだ」
グレイリヒトの言葉にびっくりして、私は固まってしまった。
この短期間で調べたなんて、相当優秀か、かなりの資料が手に入る人物か、なんだか凄そうで気が引けてくる。
「その資料は古くて、詳しいことはわからなかったんだが、どうやら髪がいらないものを吸収してくれていたらしいんだよ」
「いらないもの…?」
「私は、ヒーラーの類だったのではないかと考えている」
「治癒ができた、と…?」
「そんなに大きい力ではなくて、もっとささやかなものだったんじゃないかな」
グレイリヒトが慈しむように妹を見たので、ドキッとした。
その優しい眼差しが、これまで彼女を守ってきたようにも見えた。
「リシェルは性格こそ大人しくないが、先ほど言ったように生まれつきあまり体は強くない。すぐに立ちくらみを起こすし、風邪もよく引く。だからといって大病というほどでもなくて、逆に困っていたくらいなんだ」
「それなのにシノン様とお会いしたあの夜から、貧血を起こしたのは1回だけなんです!すっごくないですかっ!?」
「普段は、もっと多いのですか?」
「大体2日に1回は具合が悪いですね」
「それは、また…」
なんとも言えない気持ちになって、俯いてしまう。
紅茶に映った自分の髪は、紅茶越しではわからないけど、きっとリシェルの淡い金色になっている。
私のこの変な特性は、役に立つものだったのかな…。
「きっと、病気そのものは治せない。でも生活の困難さは取り除ける、そのような力だったんじゃないかなと、文献とリシェルの話を聞いてみて、私はそう推測したというだけなんだけどね」
肩を竦めるように笑ったグレイリヒトのおどけた様子に堅苦しさがなくて、少しだけ緊張が解けた。
「…もしそうなら、お役に立ったようでよかったです」
ぎこちなく笑い返すと、グレイリヒトの顔が少しだけ近づいた。
「ちなみに、髪の色が変わる条件は何か知っている?」
「えっと、相手の方に触れたら、です。でも、いつもはこのようにオペラグローブをしているので、ナイタダーラ嬢の際も、変わらないはずだったんですが…」
「いやですわ、シノン様。そんな他人行儀な呼び方なさらないでくださいまし」
「リシェル、礼儀というものがあるだろうに」
「せっかくはじめてできたお友達ですのよ!名前で呼んでほしいじゃないですか!」
友達…、私でいいんだろうか。
「リシェル様…?」
「はいっ、シノン様!」
人懐こい笑顔で隣の席から腕を組まれて、触れ合っている部分があたたかい。
「まったく。グローケン嬢、お嫌でしたら張り倒していいですからね」
「張り…!?」
「でもそうか、直接触れ合わないと発動しないはずが、リシェルは違ったのですね」
「は、はい」
すぐに話が戻ってしまったが、隣でリシェルがジロリとグレイリヒトを睨んでいるので、物騒な単語は聞き間違いではなかったみたいだ。
仲がいい兄妹というのは、こんな感じなのかしら…?
私には生まれたばかりの弟しかいないから、わからないわ…。
「グローケン嬢、少々不躾なことを言うんだが」
なんか怖い前振りには似合わずに、グレイリヒトが真剣な目で私を見た。
その目は、髪よりも綺麗だった。
「君の手に触れてみてもいいだろうか」
一瞬、静寂がテラスを包んで、すぐにリシェルの声が飛んだ。
「まあっ!お兄様ったらハレンチ!ばか!」
「こら、私でも変わるのか試してみたいだけだよ」
「だからって、未婚の女性相手に…、婚約者でもないのにぃ」
「そう思ったから、許可を得ようとしているんだろう」
「シノン様、断っていいですからねっ!お兄様は気になることができると、とことん調べないと気が済まないタチなんです!子どもの頃からどれだけ付き合わされてきたことか…!」
「おかげで少しは体調も改善したじゃないか」
「それは感謝してますけどぉ」
むくれるリシェルに、平然としているグレイリヒトを見て、2人はいつもこんな感じなんだろうと思ったら微笑ましくて、気づいたら笑えていた。
人前でこんなに自然に笑えたのは、いつぶりだったろうか。
「…ナイタダーラ様のお役に立つなら」
私がそう答えると、グレイリヒトの表情は少年のように変わって、もっと眩く見えた。
「では、失礼する」
そう言って、なんの躊躇いもなく手に触られて、いいと言っておきながら心臓が速くなった。
「…………変わらないね」
「そう、みたいですね…」
「ふふん、お兄様じゃなくて私の方が仲良しなのよ」
「それは関係ない。オペラグローブを突き破るくらい、リシェルの体の中にいらないものがいっぱいあると考える方が筋は通りそうだ」
「どうせ私は万年体調不良拗らせ女ですよ〜〜〜〜っだ」
「変なところでいじけるのはやめなさい」
この2人に挟まれて会話されるのは、なんだか嫌じゃなかった。
むしろ、久しぶりに家族以外とまともに話せていて、内心とても浮き立っている自分がいる。
何か、もっとお役に立てることがあったらいいのだけれど。
「あの、ナイタダーラ様」
気づけば自分から話し出していた。
「オペラグローブを外して、試されますか?」
言ったあとに、それこそ未婚の婚約者でもない女が言ってはいけないことを言った気がして、ハッとした。
「あ、いえ、その…すみません」
「ぜひお願いしたい」
「へっ」
「お兄様だけずるいですわっ!シノン様、私とも手を繋いでくださいませ」
「あれ、繋ぐって話でした、っけ…?」
「グローケン嬢は、よろしいのですか?」
自分でも驚いている。
このオペラグローブは、鎧のようなものだった。
自分を守る唯一の術で、気味悪がれないための心の拠り所で、なくてはならないお守りだった。
でも、どうしてだろう。
この方たちを前にして、怯えているのは嫌だなと思う。
「はい、何かわかる分には、私も助かりますので」
そう言って、ゆっくりオペラグローブを外していった。
途中、指先が震えたけれど、2人は何も言わなかった。
まっさらな素肌の手が、無防備に曝け出された。
思わず、一人で固唾を呑んでしまった。
「結構、緊張しますね…」
「ふふふ、私はお友達と手を繋げるのが楽しみですわっ」
「リシェル、静かにしてるんだよ。では、グローケン嬢失礼しますね」
「は、はいっ…!」
そうして先ほどとは違って、躊躇いがちにグレイリヒトの指が伸びてきた。
指先が触れて、発火したかと思うほど熱く感じた。
そのまま、関節一つ分だけ指をかけ合う形となった。
「わ…、すごい…」
グレイリヒトの小さな呟きが聞こえてきて、きっと私は彼の濃紺な髪色をこの髪に映したのだろう。
彼と同じ色だと言う事実に、脈が速くなり、心が満たされるようだった。
こんな気持ちは、はじめてだ。
「本当に色が変わるんだね」
「むうう、さっきまで私の色だったのにぃ。お兄様だけズルい」
そう言って、リシェルがもう片方の手を握った。
すると、2人の表情が変わっていった。
「えっ、えっ、色が半分…っ!」
「こりゃあすごい…、2人に触れられるとそうなるのか…」
「え、今私の髪、どうなっています…?」
「右半分が、私の紺色」
「私と手を繋いでいる方は、私と同じ金色ですわっ!」
「えっっ!?」
「シノン様、すごいわ!とっても綺麗だわっ!」
リシェルは興奮気味にそう言うと、急に立ち上がって手を繋いだまま庭へと駆け出した。
「え、えぇ…!?」
「こら、リシェルっ!」
繋いだ手のまま、私も連れて行かれて、グッと握り直されたグレイリヒトもついてくる形で、くるくると回り出した。
あまりの行動にびっくりしたままだったけど、リシェルが満面の笑みで振り返った。
「ほらっ、駆け回れるくらい元気なのっ!嬉しい〜〜!シノン様、ありがとうっ!」
その笑顔が見れてしまったら、もういいかという気持ちにもなる。
この髪に意味があったのなら、私はこの髪をそこまで疎まなくてもいいのかもしれない。
それだけで今は十分だった。
「だからって、急に走り出さない。グローケン嬢に失礼だろう?」
「あら、お兄様はさっさと手を離せばよかったじゃないですの」
「いきなり動くから」
「そう言いながらもまだ握っているじゃないですか。もう〜、こうなったらお兄様が責任取ってお嫁にもらうしかないですねっ!」
「ええぇぇ!?」
「おや、リシェルの割にはいいことを言うじゃないか」
「だって、命の恩人なんですもの!それに見合ったものをお返しすべきですわっ!」
「ははっ、それなら私の身分はそれなりものになるな」
「いやいやいや、それなりどころでは…!」
さすがの私も言い返してしまっていたが、両サイドから手を握られたまま、兄妹ともに近づいてくる。
「あら、お兄様では嫌ですか?」
「私ではお眼鏡に敵わなかったかな?」
「い、いえっ…!私では釣り合わな…」
「「そんなことないです」」
兄妹のハモった声に、私はただぱちくりするしかできなかった。
「あ、えっと、ナイタダーラ家の皆様がよろしければ、これ以上ないお話です……」
私の答えは満足のいくものだったらしく、同じような美しい顔がにっこり笑ったのだった。
「ふふふ、今日は人生で最高の日ですわ!」
「今度ご両親にも挨拶に行くね」
「わ、私もご挨拶させてくださいませ…!」
私の揺れる髪を見て、グレイリヒトは眩しそうに目を細めていた。
「ちなみに、グローケン嬢。その髪はどれくらい他人の色を反映させられるのだろうか」
「そうですね、上書きされなければ大体1週間程度でしょうか」
「そうか。では、週に一回は会えるようにしたいな」
「へっ…!?」
ニコリと笑った顔は、いたずらっぽい少年の顔だった。
「お兄様って独占欲強いタイプだったのですか?」
「どく、せ…っ!」
「んー、お気に入りはずっとそばに置いておくタイプじゃないか」
「そう言われるとそうかもですね」
「ええぇ…」
気の抜けた声とともに、こんな形で私の婚約は決まったのだった。
その後、本当にグレイリヒトと婚約してからは、私の髪色は日々濃紺となった。
夜会などの社交場に出るたびに地毛の白髪ではないから、最初の頃は好奇の目で見られていたが、グレイリヒトを相手に突っかかってくる人もおらず。
それでも、時々濃紺ではなく淡い金色に日もあるから、結局は気味悪がれていたけれど、私はもう傷ついたりすることはなくなっていた。
可愛くて愛しい親友兼義妹と、自分の髪色を反映することをとても喜んでくれる優しい夫に囲まれる生活に、憂いなどなくなっていって──。
この髪は、大切な人たちの色を映し出せる。
近い将来、そのことが誇らしく思えるようになるのだった。
了
お読みくださりありがとうございました!!
258日目。
公募挑戦詰め詰め期間が終わったので、今日の分からしれっと感想欄を開ける方に戻しておこうと思います。
ちょこっと報告なので、あとがきにて失礼します〜。どうぞお手柔らかに〜。




