勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~ episode1
「記憶喪失勇者」
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本編の800年前に活躍した勇者レギウスとその従者の物語です。
※『記憶喪失勇者』のスピンオフ短編です。本編未読でもお読みいただけます。
王都を発って、七日目の朝だった。
「お嬢、あっしを置いて出かけちまうなんて、あんまりですぜ」
心底情けない顔で街道を駆けてきたのは、従者のブレイジールだ。
背の中ほどまである絹糸のような金髪を一本にまとめ、巨匠の描いた名画から抜け出してきたような美貌は、すれ違う娘が十人いれば十人が振り返り、うちふたりが荷物を取り落とすほどだった。
――この男を造るとき、神さまは顔だけに本気を出したに違いない……。
「起こしたよ。三回も」
透けるような金髪をショートカットにした少女は、歩調を緩めずに答えた。
「そのたびに『いま起きやす』って寝言が返ってきた。たったひとりの従者が寝坊って、ありえなくない?」
「寝坊じゃありやせん。寝不足で準備が遅くなっただけでさ。ゆうべは酒場の娘さんの身の上話が、なかなか終わらなかったもんで」
「その前の村では、宿の看板娘の恋の相談だったよね」
「へえ。よく覚えてらっしゃる」
「魔族のくせに、どうして人間の女の子ばっかり構うの?」
「べつに口説いちゃおりやせん。話を聞いてるだけでさ」
ブレイジールは大真面目な顔で言った。
「女の子ってのは、聞いてほしい話を山ほど抱えて生きてるもんですぜ。誰も聞かねえから、あっしが聞く。女の子ってのは、この世でいちばん大切に扱われるべき生き物なんでさ。……お嬢も、なにかありゃあいつでもどうぞ」
「はいはい。僕は、おまえに聞いてほしい話なんてない」
「そりゃあ、残念ですぜ」
――魔族のくせに、本当に変なやつ。
勇者は、金髪紅眼でなければならない――。
王宮に納められた勇者の剣と盾が、その中からただひとりを選ぶ。この国の誰もが知る習わしだ。
魔王は、四百年に一度、魔界からあらわれる――。
勇者候補の筆頭は、ユヌリス大公家のシリウスだった。四つ年上の、剣の天才。そのシリウスが、選定の儀式の直前に、稽古中の事故で亡くなった。
国に残った金髪紅眼は、生まれたばかりの王女殿下と、レギウスだけ。
王が見守るなか、勇者のふたつの神器は、剣も振れない十五歳の少女を選んだ……。
だからいまは、従者を探す旅の途中だ。
魔王があらわれる前に、非力な勇者の代わりに戦ってくれる強者を、国中から集めなければならない。
――そのひとり目が、この女たらしの魔族なんだから、我ながらどうかしてると思うけど……。
◇
夕方にさしかかるころ、街道の先に、みっつ目の村が見えてきた。
「ずいぶんと小さな村でやすな」
ブレイジールが、瞬きをひとつした。
一瞬で、瞳の色が変わる。魔族の証である金色が、澄んだ湖の青に染まった。人前に出るときの、この男の“よそゆき”だ。
――魔族だってバレたら、大騒ぎどころじゃすまないしね。
だが、ブレイジールはあまり瞳の色を変えたがらない。本人いわく、『色を変えてると、肩が凝りやす』とのことだ。魔族のくせに、まったく緊張感がない。
村の入り口には、斧や鎌を手にした男たちが立っていた。よそ者を追い返すためのしかめっ面が、レギウスの顔を見るなり崩れた。
「金髪に……赤い目……ゆ、勇者さまだ! 女神さまは、俺たちを見捨てておらんかった!」
歓声を聞きつけて、村人たちが次々と集まってくる。人垣のなかから白髪の村長が進み出て、この物々しさの理由を語った。
「十日間で、三人も子供が消えた!?」
レギウスは思わず村長の言葉を繰り返していた。
「魔族の仕業じゃという噂が流れましてな。村はもう、ご覧の有様ですのじゃ。……いやはや、それにしても」
村長は、レギウスとブレイジールの顔を見比べて、目を細めた。
「勇者さまは、お噂にたがわぬお美しい少年でいらっしゃる。お連れの方も、ようもまあ、これほど」
――少年、ね。
短い髪に男物の旅装、腰には剣。それに、父がつけたこの名前。間違うなと言うほうが無理な話だ。慣れているはずなのに、胸の奥がちくりとした。
――それよりも……。
なにかが引っかかっていた。棘のような、小さな違和感。レギウスは深々と頭を下げる村長を眺めて、その正体を探したが、つかめなかった。
村長が去ると、入れ替わりに村の娘たちがブレイジールを取り囲んだ。
「旅の人、王都から来たの?」
「ねえ見て、綺麗な青い目……」
「お名前はなんていうの?」
「へえ、へえ。ひとりずつ、順ぐりに聞きやすからね」
――いま、子供が消えた話をしてたっていうのに……。
娘たちに連れていかれる従者をレギウスはあきれた目で見送った。
その袖を、くいと引く者があった。
小さな女の子が、真剣な顔で見上げている。
「あのね、勇者さま。ミルカ、見たの。トマが村長さまのお家に入ってくとこ。トマ、それっきり、いなくなっちゃった」
「ミルカ! 余計なことを言わないの……も、申し訳ございません、勇者さまっ!」
飛んできた母親が、女の子を抱え上げていってしまう。村長の家の隣に住む親子らしい。
――村長の家に……?
レギウスは、遠ざかる小さな背中を見つめながら、先ほどの違和感のことを考えていた。
◇
村にひとつだけの宿に部屋を取ると、ブレイジールが戻ってきた。
レギウスは寝台に腰かけ、膝の上で小さな魔導人形を調整していた。人形が着ている真紅のドレスは、旅のあいだに縫ってやったものだ。
ブレイジールが、手元を覗き込んでくる。
「村娘の名前を五人覚えやしたよ」
「本当に自由だね、おまえは」
「そのうちのひとりが『勇者さまは、お人形みたいにお綺麗』って言ってやした」
「人形は、おまえの顔のほうでしょ」
「お嬢は今夜も、人形に可愛い服をお着せなさる」
「……悪い?」
「いいえ、ちっとも。ただ」
金色に戻った目が、いたずらっぽく笑った。
「お嬢が着たほうが、よっぽど似合うでしょうにねえ」
「勇者がドレスを着てどうするの」
「勇者だって、着たいもんを着りゃあいいんでさ」
「……着る機会なんて、ないよ」
人形の髪を直すふりをして、そっぽを向いた。生まれたときから、勇者候補として、男の子のように育てられたレギウスは、ドレスを着たことすらなかった。
ブレイジールはそれ以上からかわず、窓の外へ目をやった。
「――で、お嬢。あの村長、どうご覧になりやした」
「歩き方が、変だった」
昼間の違和感の正体には、もう気づいていた。
「できそこないの魔導人形みたいに、ぎこちなかった。物心つく前から人形をいじってきた僕が言うんだから、間違いない。……それに、ミルカの話」
「へえ。さすがはお嬢でさ」
ブレイジールの声から、軽さが消えた。
「あの村長――魔族ですぜ」
人形をいじる手が、止まった。
「下級の魔族のなかにゃ、人に化けるのだけが取り柄って連中がおりやしてね。化けて、入り込んで――食うんでさ」
「……!?」
レギウスは、唇を噛んだ。下級の魔族は、人を食べる。……知識で知っているのと、実際にそれが目の前で起こっているのとでは、まるで違った。
「お嬢。朝一番で、この村を発ちやしょう」
「は?」
「こっちが気づいたことにゃ、向こうも気づいてやす。幸い、あっしは気配を消してやすから、正体まではバレちゃいねえでしょうが、長居は災いのもとでさ」
「魔族がいるってわかってて、村を見捨てて逃げろって言うの? ミルカだっているんだよ。あいつがまたお腹を空かせたら、次は誰?」
「村の百人の生命なんかより、お嬢のかすり傷ひとつのほうが、あっしにとっちゃあ重いんですぜ?」
悪びれもせず、ブレイジールは肩をすくめた。
「だいたい、あっしは腕っぷしのほうはからっきしでやしてね。得意なのは、結界を張ることだけ。守って、隠れて、嵐が過ぎるのを待つ。争いの嫌いな、へなちょこ魔族なんでさ。鬼退治を期待されちゃあ困りやす」
「嘘だ。おまえ、本当は強いでしょ」
「さあ、どうでやすかねえ」
――出た。すぐ、はぐらかす。
――でも……もう、決めた。
レギウスは人形を置いて、従者にまっすぐ向き直った。
「命令だよ。あの村長の正体を暴いて、村を助ける。付き合って」
「へえへえ……」
ブレイジールは、降参するように両手を上げた。
「それが、あっしのお嬢でやしたね。なら、まずは今夜、あっしがようすを見てきやしょう」
「見てくるって、どうやって?」
問いの途中で、従者の姿が、ふわりと縮んだ。
寝台の上に、黒っぽい金色と白っぽい金色の、ふわふわの長毛の猫が座っていた。
「……何度見ても、その可愛さはずるいと思う」
「にゃあ」
わざとらしくひと声鳴いて、猫は窓から夜の村へ滑り出ていった。
◇
猫が戻ったのは、真夜中だった。
窓枠から音もなく降り、人の姿に戻る。その顔に、いつもの軽さはない。
「ミルカ嬢ちゃんの言うとおりでさ。あの家、血の匂いがしみついてやす。……もっとも、魔族のあっしの鼻でなけりゃわからねえほどの、うっすい匂いでやすがね」
「……そう」
人間には確かめようのない証拠。それでも疑いは確信に変わった。
――さて。どうやって村長の正体を暴く?
考えはじめた、そのときだった。
窓の外に、いくつもの松明の火が揺れた。足音と押し殺したざわめき。宿の戸が、乱暴に叩かれた。
「勇者さま! 夜分に相すみませぬ! ……そちらの、お連れの方に用があるんですじゃ」
村長の声だった。
戸を開けると、松明を掲げた男たちが宿を囲んでいた。手には縄と、鎌や斧。クワを持った者もいる。先頭の村長が、悲しげに眉を寄せてみせた。
「わしは、この目で見てしもうたのじゃ。そちらのお方の目が……闇のなかで、獣のように、金色に光っておるのを」
――嘘だ。ブレイジールが猫に変わるところは見られてない……先に、仕掛けてきた。
「目の色なら、ご覧のとおり青ですよ。見間違いでしょう」
レギウスが言うと、村長は大げさに首を振った。
「勇者さま。魔族というのは、人の目を欺く生き物ですのじゃ。目の色のひとつやふたつ、いくらでも変えられますのじゃ」
でも、子供たちが消えたのは僕たちが来る前じゃないか――そう言いかけて、レギウスは村人たちの表情に気づいた。松明に照らされた顔、顔、顔。どれも、村長の言葉をすっかり信じ切っている。
ブレイジールが本当に魔族かどうかは関係なかった。村人たちは、ただ、村のなかに魔族がいるという恐怖を早く取り除いて、安心したいだけなのだ。
――どうする。どう言えば……。
「――お嬢」
迷う主の隣で、ブレイジールが静かに前へ出た。恐ろしいほど整った顔が、レギウスだけを見て、微笑んだ。
――なに、その笑顔。なんの合図……?
止める間もなかった。村人たちの前で、ブレイジールは目をつぶった。
次に開かれた目は、松明の明かりの下で、鮮やかな金色に輝いていた。
「ま……魔族……魔族じゃあっ!」
「待って! ブレイジールは僕の従者だ。子供たちのことと、この男は関係ない――」
声は、怒号に飲まれた。男たちが飛びかかり、ブレイジールを縛り上げる。従者は抵抗しなかった。暴れれば、主の立場が悪くなる。
「勇者さまっ、お下がりくだされ!」
村長が、ふたりの間に割り込んできた。
「あなたさまは、騙されておられるのじゃ! お若い勇者さまを言葉巧みにたぶらかし、従者に成りすまして入り込む。魔族とは、そういう生き物ですのじゃ! のう、皆の衆!」
そうじゃ、そうじゃ、と声が重なる。
――誰も、僕の話を聞こうとしない……。
村人たちの目に、悪意はなかった。あるのは善意だ。魔族に騙された気の毒な勇者を自分たちが救わなければ。その善意が束になって、レギウスの声を押し潰していく……。
◇
広場には、村中の人間が集まっていた。
杭に縛られたブレイジールを、松明の輪が囲んでいる。
「焼け! いますぐ焼いてしまえ!」
「子供らの仇じゃ!」
「魔族に情けは要らんぞ!」
――ああ、そうか。
レギウスは、妙に冷静な頭で考えていた。
――ここで村長が魔族だと言っても、誰も信じない。真実でも、信じてもらえなければ、なんの意味もないんだ。
――なら……信じたくなる嘘で、勝負する。
すう、と息を吸った。
「みなさん、聞いてください!」
勇者の声に、広場が一瞬だけ静まった。
「僕の従者が犯人なら、勇者の名にかけて、僕がこの手で焼く。……でも、その前に、確かめさせてほしい。子供をさらった魔族は、人に化けている可能性がある。本当の犯人はいまも、このなかで人間のふりをして、いっしょに『焼け』って叫んでいるのかもしれない」
ざわり、と広場が揺れた。
村人たちが、隣に立つ者の顔を見る。何年も見てきたはずの顔が、急に作り物のように思えてくる。
「そういや、おめえ……ゆうべ、夜中にひとりで出歩いとったろう」
「な、なんじゃと!? おめえこそ、近ごろ飯の量が急に増えたじゃねえか」
「どいつが、化けとるんじゃ!」
疑いは、火の粉より速く燃え広がる。
「し、静まれい! 勇者さま、村の衆を惑わすようなことを……!」
「惑わせるつもりはない。確かめるだけだ」
レギウスは懐から、あの人形を取り出した。真紅のドレスの魔導人形を頭の上に高く掲げる。
「これは、王都から持ってきた魔道具。“人に化けた魔族”に反応して、声を上げて知らせる。ひとりずつこの子の前に立てば、このなかに魔族がいるかどうかわかる!」
「な、なら、まずはその魔族から試すのが筋であろうが!」
村長が、震える指でブレイジールをさした。
「そうですね。ブレイジール」
名を呼ぶと、縛られたままの従者は、なにも聞かずに口の端だけで小さく笑った。レギウスは人形を、その端整な顔の前へ差し出す。
人形は、沈黙している――。
「ど……どういうことじゃ。そやつは魔族じゃぞ!」
「この魔道具が探すのは、魔族じゃない。“人に化けている”魔族だ」
レギウスは、村長をまっすぐに見た。
「ブレイジールは魔族だけど、いまは化けていない。正体を晒しているから、魔道具は反応しない!」
村人たちが、どよめいた。
「ミルカも! ミルカもためすっ」
母親の手を振りほどいて、ミルカが駆けてきた。レギウスの隣に、ちょこんと並ぶ。人形は、沈黙したままだ。
それを見て、村人たちがぞろぞろと列を作りはじめた。
「じゃあ、ひとりずつ。……ああ、そうだ。まずは村の代表から、お手本をお願いできますか?」
レギウスは、村長へ人形を向けた。
「ば……ばかばかしい! わしは村長じゃぞ! なんでわしが疑われなきゃならんのじゃ!」
「試せば、疑いは晴れますよ。それとも――」
一歩、踏み込む。
「試されると、困る?」
村長の動きが、止まった。
次の瞬間、老人の輪郭が、泥のように崩れた。皺だらけの皮膚が裂け、灰色の肌があらわれる。裂け目の奥から、縦に割れた黄色い眼が、ぎょろりとレギウスをにらんだ。
「――おのれ、小僧がァァァッ!」
灰色の腕が、鞭のようにしなった。
速い。避けられない。とっさに、振れもしない剣の柄をつかんでいた。
視界が、金色にかすんだ。
ぱさり、と。空になった縄が、地面に落ちる音がした。
気づいたときには、レギウスの身体は宙にあった。何者かが彼女を横抱きに抱え、広場の端まで飛びすさっていた。
「……縄抜けは、猫の得意技でやしてね」
ブレイジールだった。縄の輪から猫の姿で抜け出し、人に戻りざま、レギウスを助けたのだ。
「お怪我は?」
「な、ない……」
「けっこう」
「いやぁぁぁっ!」
悲鳴は、その直後に聞こえた。
振り抜かれた爪の先に――ミルカがいたのだ。小さな身体が地面に叩きつけられ、転がった。母親の絶叫に、いくつもの悲鳴が重なった。
「ミルカっ!」
ブレイジールの腕から飛び降りて、レギウスは駆け出した。
村長だった魔族は、身をひるがえして村の外へ走り出していた。馬でも追いつけない速さ。逃がした、と誰もが思った。
勇者の従者だけは、慌てなかった。
「――お嬢に、爪を向けやしたね」
金色の目から、笑みが消えていた。すっと、右の手のひらを前に突き出す。
「結界ってのは、本来、守るための術なんでやすがね。閉じ込めて――」
夜の畑を走る魔族を、金色の光がまるごと包んだ。
「潰すのにも使えるんでさ」
ブレイジールが手を握りしめる。光の球が縮んで、消えた。魔族の絶叫は、一瞬だった。
レギウスは、ミルカのそばに膝をついていた。
胸から腹にかけて、深い爪傷。血の気の引いた小さな顔。息が細い。
「ミルカ、聞こえる? 大丈夫。……大丈夫だから」
レギウスは、少女の傷の上に、そっと手のひらを重ねた。
――僕の持っている、たったひとつの勇者のスキル。
「《超治癒術》」
手のひらが、白く光った。
村人たちが息をのむのがわかった。裂けた皮膚が、光に溶けるようにふさがっていく。奇跡を見るように、誰も声を出せずにいる。
そして、その傷を作ったすべてのダメージが、レギウスに流れ込んできた。
――僕が、その痛みを代わりに受けるから……。
口のなかに、血の味が広がる。傷はどこにもない。ないのに、身体の内側がまとめて悲鳴を上げた。視界が白く濁って、世界が傾く。
――ああ、倒れる。
地面にぶつかる衝撃は、来なかった。
「――お嬢」
聞き慣れた声が、すぐ耳元でした。抱き止めた腕が、ほんのすこしだけ、震えていた。
◇
目が覚めると、三日が経っていた。
村でいちばん上等だという客間の枕元で、金色の猫が丸くなっていた。
「……おまえの看病って、寝てるだけ?」
「にゃ」
猫はのびをひとつして、次の瞬きの間には、窓辺に腰かける美青年に戻っていた。
「三日ぶりでやすね、お嬢。あっしを拾ったときも、ちょうど三日、寝てなすった」
「そうだっけ……ミルカは!?」
跳ね起きた拍子に、視界がぐらりと揺れる。
「生きてまさあ。傷痕ひとつ、残っちゃおりやせん。今朝はかゆを、おかわりしたそうで。……立派な命拾いでさ。お嬢のおかげだ」
「よかった……」
レギウスは、枕に沈み直した。しばらく天井を眺めて、ぽつりとこぼす。
「ねえ、ブレイジール。僕は、治すことしかできないのに……こんな僕が勇者でいいのかな?」
「さあ。魔族のあっしにゃ、勇者のことはわかりやせん」
ブレイジールはあくびをひとつして、愉快そうに続ける。
「ただ、“人に化けている魔族”を見破る魔道具。あれ、ただの玩具でやすよね? あの状況であんなでまかせ――」
思い出したのか、ブレイジールは吹き出した。
「それに、このあっしが仕えてるんですぜ? お嬢が、はずれの勇者のわけがありやせん」
「……なにそれ」
笑って――それから、ひとつ聞きたかったことを思い出した。
「あの夜。どうして、自分から正体を明かしたの。黙ってれば、切り抜けようは、いくらでもあったのに」
「ああ――」
ブレイジールは、さも重要なことのように言った。
「村の連中が刃物を持ってやした」
「それで?」
「万が一、お嬢が怪我でもしたら、大変なことになりやす。あっしにはお嬢の傷を治せないんでね」
――それで、自分が焼かれそうになるなんて……。
「ばかだ、おまえは」
「へえ。それ褒め言葉でやすか?」
午後、村人たちが列を成して詫びに来た。年寄りが板の間に額をつけようとするのを、レギウスは慌てて止めた。
「顔を上げてください。もう、いいですから」
「いいえ、いいえ……従者さまを罪人あつかいしたうえ、あわや焼き殺すところじゃった……なんとお詫びを申し上げてよいか……」
「ブレイジールが悪い魔族じゃないって、わかってもらえただけで、充分です。でも、ブレイジールが魔族だってことは、ここだけの内緒にしておいてください」
「わかりました。村の者全員に忘れさせます。それにしても、勇者さまは、まだこんなにお若い少年じゃというのに、なんとお心の広い……ほんに、真の勇者であらせられますじゃ」
「――少年じゃない」
レギウスは、すこしだけ不機嫌な声で言った。
「レギウス・ソフィア・トロワール。……言っておくけど、僕は女だよ」
村人たちが、固まった。
「え……お、おんな……? 女の、勇者さま……!?」
「だから、お嬢なんでさ」
ブレイジールが、さも当たり前のことのようにつぶやいた。
村人たちが、真っ白になって平伏し直す。ああでもない、こうでもないと、詫びの言葉が倍になって降ってきた。
◇
翌朝、ふたりは村を発った。
見送りの人垣のいちばん前で、すっかり元気になったミルカが、ちぎれるほど手を振っていた。
「ゆうしゃさまー! ミルカも、おっきくなったら、おんなの勇者さまになるからー!」
言い返そうとして、やめた。レギウスは、大きく手を振り返した。
その後ろでは村の娘たちが、名残惜しそうにブレイジールへ手を振っている。
村が見えなくなると、ブレイジールは瞬きをひとつして、瞳を金色に戻した。
「にぎやかな村でやしたねえ」
「……そうだね」
――そういえば。
街道を歩きながら、レギウスは、ふと思った。
――ブレイジールは、初めて会ったときから、一度も僕を男と間違えなかったな……。
隣を見上げる。従者は素知らぬ顔で、金色の目を細め、朝の光に長い髪を透かしていた。
のちに勇者レギウスは、七人の従者とともに、爆炎の魔王アノンを討ち滅ぼすことになる。
だがそれは、まだ、ずっと先の話である――。
「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」を読んでくださり、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら
【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!
ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!
あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!
「記憶喪失勇者」というお話も書いています。
もし興味を持っていただけましたら、「記憶喪失勇者」もよろしくお願いします。
「記憶喪失勇者」
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「近衛騎士キーラ」
https://ncode.syosetu.com/n9724mq/
※近衛騎士であるキーラとその主の幼い辺境伯ソフィアのお話です。
「受付嬢ミア」
https://ncode.syosetu.com/n1427mq/
※冒険者ギルドの受付嬢ミアのお話です。
レギウスのイメージ画像をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




