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5話 仲良くできそう

 新人の近衛として近衛騎士団長と剣同士の勝負をしていたところ、近衛の先輩たちが一気に訓練場にやってきて二人の試合を見ていたことから、リゼルは気まずくなりそれを悟った近衛騎士団長であるヘンリーが引き分けという形で勝負を終わらせてくれたのだ。


「皆、よく聞け! 近衛隊に新人が入った!」


 近衛の皆は、まだ新人が入隊したということを知らない。だから、リゼルとヘンリーの戦いを見ていた時不思議に思っていたはずだ。もう勘付いている者もいるかもしれない。


「この者だ!」


 ヘンリーのその言葉に反応して、長身のヘンリーの後ろに隠れていたリゼルはヘンリーの前に出て、王族の前に立つ練習をしてみようと腰を軽く曲げて右手を左胸に添える。


「リゼル・アリーラ、訓練の仕方や礼儀はまだ勉強中です。先輩方、剣術の指導や、出来れば経験も話してくれると嬉しく思います」


 先輩たちは、「宜しくな!」と親指を立てる者もいれば、「近衛騎士団長に匹敵する才能を持っているなら………」なんて、少し呆れ気味で言う者もいる。だが、誰もがリゼルという新人近衛を歓迎してくれた。リゼルも表情筋の硬いその顔のせいで感情を顔に出せないが、いつか出せるようになれると良いなとリゼルは思いながら姿勢を正した。


「戻って良いぞ、リゼル」

「はい」


 ヘンリーが微笑んで促してくれたため、リゼルは己の位置に向かった。並び順は決まっていて、入隊した順番が早い者が前になる。リゼルはもちろん、一番後ろに姿勢を正して並んだ。

 そこから、ヘンリーの近衛騎士団長としての話が続き、訓練タイムになった。


「ねぇ。やらない?」

「えっと………」


 訓練場で革で造られたカカシ的な物に向かって木剣を振っていると、一人の先輩が声を掛けてきた。背中くらいまである漆黒のストレートの髪はそのまま結びもしないで、歩く度に彼の髪が靡いている。エメラルド色の瞳は意志が強く、信頼出来るような眼差しだ。さっきの整列の時、一番前にいた人だ。


「剣術。やろ」

「あ、はい………」

「うん」


 その意志の強そうな瞳に見られて、半ば強制的にリゼルは頷いた。彼は少しだけ口角を上げ、リゼルについて来てと言うように背中を向ける。それに従いついて行くと、大きく白い線の長方形に囲まれたコートがあった。

 先程、ヘンリーと戦ったところだ。


「君はリゼル、だったよね」

「はい、そうです」

「僕はハルシ」


 ハルシと名乗った彼は、リゼルと同い年くらいに見えた。


「ハルシさんは何歳?」

「十六。………ハルシ、で良いよ」

「あ、うん。同い年ですね」


 ハルシが名乗り終わったところで、勝負はスタートした。ハルシの動きは素早く、ついて行くのも精一杯。だが、ハルシは剣を合わせて行くうちに口角が上がって来ていた。機嫌が良いのだろうか、自分が今勝ちそうだから。

 リゼルも負けてられないなと動き始める。


「良いね。君、近衛騎士団長より強いんじゃない?」

「ありがとうございます。近衛騎士団長と手合わせさせてもらった時は、引き分けという形で終わりましたよ」

「ふぅん。ふふっ、やっぱりか」


 他の近衛たちがジッとコチラを見ている。視線が突き刺さり、気まずくなって来たが、ハルシはヘンリーとは違い勝負を終わらせてはくれなかった。だが、リゼルとしてもそれは好都合だ。もっと、もっと鍛錬したい。


「動きが変わっていってる。凄いね。………でもね」

「っ———⁉︎」


 最後は、ハルシが素早い動きでリゼルの手から剣を離した。やはり、彼は強い。しかも他の近衛よりも素早い動きだ。

 リゼルは地面に突き刺さっている剣を抜き、負けを認めた。


「………負けです」

「あまり悔しそうにしてないね。君、感情ないの?」


 不思議そうに首を傾げられて、首を横に振る。

 しっかり感情はあるのだ。……表情筋が、硬いだけで。


「あります、感情。顔に出にくいだけです」

「そっか………剣術が得意で、礼儀もある。気に入ったよ」

「はぁ………」


 もしかして、試されていたのかとリゼルは曖昧な返事をしてしまった。むずむずと口角を上げている彼は、リゼルに手を差し伸べる。どうしたのだろう。


「君さ、僕と訓練しない? 素早い動き方も教えたげる」

「………………」

(それは、とても、とても………良いこと、かな)


 リゼルは差し伸べられた手をしっかりと掴んだ。ハルシは、少年らしい笑みを溢す。自分はハルシと違って何かすれば自然と口角が上がるような人間ではないが、いつかそうなれれば良いなと思った。家族以外には無表情になってしまうリゼルだが、ちゃんと心の中は感情豊かなのだ。

 そうして手を取り合って「宜しく」と言おうとしたら、名を呼ばれた。


「はい?」

「国王陛下から、王女様との顔合わせの準備が整ったと」

「あ………そうですか。今、でしょうか」


 問い掛けに、国王の従者と思われる者はこくりと頷いた。


「すぐ、行きます」

「はい。では御案内します」

「ありがとうございます。………行ってくる」

「はーい。どうぞ、楽しんで」


 ハルシの見送りも貰ったことだし、行こう。

 近衛に入って、友人ができたような感覚だった。

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