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24話 王太子

 シウィアに連れられて来た場所は、王城の二階。王太子の部屋だ。


「………お兄様」

「連れて来たかい? 入って」


 連れて来たのか聞かれ、シウィアが何か一瞬、硬直した気がした。だが、緊張しているのだろうとリゼルは主のことを何も口出ししなかった。

 王太子の入室を促す声音は、少々強張っていて、根暗な印象を与えた。


(一体、どんなお方なのだろう)


 そう緊張しつつも、リゼルはシウィアが入室すると同時に入る。

 入室し始めに目に入ったのは、三つの絵画。

 一つ目は、この国の国王の絵。

 二つ目は、国王を支える役目を担う王妃の絵。

 そして三つ目は、リゼルの仕えるべき主、シウィアの絵だった。


「お久しぶりですね。………お兄様」

「あ……そうだね。我が妹よ」


 穏やかな笑みを保ち続ける王太子は、絵の具のパレットを持ち、彼の背後には大きな景色………いや、彼が描いたのであろうフィシリーフ王国の景色があった。部屋は暗く、暗闇に慣れて来ると床が絵の具で所々汚れているのが見えた。


「こちらが、私の護衛騎士。リゼルです」

「ご紹介に(あずか)りました。リゼル・アリーラ。平民の出ですが、宜しくお願いします」

「へい、みん………?」


 兄の思わずと言ったような呟きに、シウィアは仕方ないと思った。


(だって、リゼルは平民とは思えない美男子だから………)


 神が与えた剣技の才能。その才能を活かし、鍛錬し続けて辿り着いたところが、近衛騎士という彼にピッタリな名誉。そして、生まれ持った顔立ちは故郷でもさぞかしモテていたことが窺える。

 リゼルを考えると、複雑な気分になる。

 どうしてか分からないから、シウィアはいつか、母親に相談しようと思う。


「ねぇ、シウィア」

「はい? どうかしましたか、お兄様」


 首を傾げ、どうしたかと尋ねるも、あのことだろうなとシウィアは思った。

 兄は、スリーフェクという名だ。


「この絵、どう思う?」

「…………とても、良い絵だと思いますよ」

「やっぱり、な。皆、悪くないと言うんだ」


 どうやら兄は、『良い絵』と『悪くない絵』を同じ風に思っているようで、良い絵だと言っても何故か落ち込む。ならどうやって褒めれば良いのだと、シウィアは毎回頭を抱える羽目だ。というか、まず悪くない絵と言われても嬉しいだろうに。だが、兄スリーフェクは違うのだろう。


「なぁ………近衛君はどう思う」

「え? は、はぁ」


 突然聞かれ、リゼルも呆気に取られ曖昧な返事をする。だが、リゼルが曖昧に答えれば逆効果で、「あぁ、私の絵はやっぱり」と項垂れている。もう、見慣れた光景だが、リゼルにとってはそうではないため、少し助け舟を出す。


「リゼル。褒めてください、あの絵を」

「は、はい」


 小声で言えば、リゼルはとても良い答えを生み出した。


「フィシリーフ王国の自然が絵でちゃんと表現されてて、良い絵だと思います」


 恐れ多いと顔に表しながら、リゼルは答えた。その具体的に真面目に答える姿はシウィアをドキッとさせるのだが、それはまた別の話だ。シウィアの兄スリーフェクは、項垂れていた顔をパッと上げ、瞳を輝かせた。


(なるほど。お兄様の期待に応えるためには、具体的に言えば良いのですね)


 そう、学んだシウィアであった。

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