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閑話 誰かの呟き
暖色の煉瓦の壁に飾られるは、母の姿、父の姿、妹の姿。
家族の絵姿を壁に飾り、彼は言った。
「………新しい絵の具を持って来てくれるかい?」
「承りました」
己の従者にそう頼めば、軽く腰を曲げ礼をし、倉庫へ行くため退室する。
手元の絵の具がなくなれば他の者が持って来てくれる。
(なんて恵まれた環境なのだろう)
そう思ってしまうのは、己に自信がないからなのか。だが、そう思うのは身分の高い者として何かの弱さになり得る。早く、この恵まれた環境は当たり前だと思い込まなければならないのに、それが自分には出来ないのだ。
「この絵も、全然上手くない………!」
むしゃくしゃして頭を掻きむしる。あの従者が絵の具を持って来る時、もう既に自分が読んだ近衛騎士と妹が来ているだろう。今、書いている絵を妹に見せて、彼女に伴ってくるであろう近衛騎士にも、恐る恐るだが感想を聞いてみよう。
「だがどうせ………、皆と同じで『悪くない』と言うんだろうな」
自嘲気味に微笑めば、無意識のうちに手を握り締めていた。
願わくば、どうか———。




