23話 雑談
雑談をしようと、シウィアの自室にて二人は和やかに話す。
「姫様」
「はい?」
「貴女は、どうして護衛の俺にも丁寧語を使うのですか」
苦し紛れにそう言うと、シウィアは苦笑しながらも話してくれた。
「それが良いんですよ。私には」
「良い…………?」
王女なのだから、シウィアは騎士はもちろん平民や貴族にも丁寧語を使わなくとも良いはずだ。踏み込まない方が良いと頭では考えつつも、リゼルは「どうして………」と小さく尋ねてしまった。
「ふふ、知ろうとしてくれて嬉しいです。どうしてかと、言うと———」
シウィアは無才無能な王の娘として貴族や平民にも蔑まれていた。
『王女なのだから、それは当然』『私たち貴族でも出来るのに』、そんな陰口をコソコソ言われ続け、どうしたら努力以外で皆に嫌われずに済むのかと思い悩んだ結果が、誰にも平等に丁寧語を使うということだったらしい。
「昔はそればっかりで、頑張って皆に敬語を使うよう努力しました」
「…………………」
それから紡がれた言葉も、手汗が出るまで手を握り締め声が出るのを我慢した。
「そうしたら、皆は私の前で私の悪口を言うのをやめ……隅で言うようになりました」
「でも、貴女はザレンカの毒の解毒剤を………っ」
「皆、私の功績ではなく研究者の功績と思っているようです」
「だれがっ、そのように」
「ふふ、誰もありませんよ。貴族たちがそう思っているだけですから」
ザレンカの毒の解毒剤は、平民にはまだ公開されていないものの、一部の身分の高い貴族には明かされている。その貴族らは、研究者一同が協力して解毒剤を作ったと確信しているらしい。その確信は間違いなのだが、シウィアが作ったという選択肢はないみたいだ。
「大丈夫ですってば。私は、陰で活躍してれば良い。というか、活躍しているんですし、良いじゃないですかっ」
「……………シウィア様」
無理に笑っているのがバレバレで、リゼルはその薄い唇を結んだ。
敬愛する主の名を呼べば、彼女は「はい?」と微笑みながら首を傾げる。
「他の人には敬語を使わなければいけないけど、俺にはっ」
言葉を絞り出すようにして、紡ぐ。
僅かに緊張で高鳴る左胸を押さえながら、リゼルは言う。
その頬はほんの少しだけ、薄桃色に染まっていた。
「———私には、敬語を使わず、気軽に接してもらえると嬉しい、です……」
「……………はい。ありがとう」
ポカンとした表情はすぐに柔らかい微笑みに代わり、シウィアは礼を言う。「ありがとうございます」ではなく、「ありがとう」だったことが、とても嬉しく感じた。
「王女殿下」
「……………どうぞ、入って?」
シウィアが入室を促せば、彼女の侍女が入室して来る。首を傾げて侍女に用を聞くシウィアの様子から、侍女がこの時間に来るのは意外のようだった。
「王女殿下。王太子殿下から、お呼び出しです」
「お兄様から………?」
「はい。リゼル様を連れて来いと、伝言を預かっております」
その言葉に、シウィアは眉をピクッと動かす。リゼルを兄へ連れて行くことが微妙なのだろう。
シウィアは第一王女だ。だが、第一王子である王太子も居る。その王太子はシウィアより二つ年上で、リゼルとは一つ年上の十七歳となる。穏やかで皆に人気という第一印象だが、シウィアはどうして、リゼルを王太子に会わせたく無いのだろうか。
「シウィア様?」
「あぁごめんなさい。どうしたの?」
数秒前に敬語を使わないで欲しいという願いをもう叶えてくれるシウィアは、本当に優しい。
「俺は王子殿下に、会っても良いですよ」
「………ごめんなさい。私、ただ嫉妬深いだけだから」
「? しっと、ぶかい」
姿勢を正したまま、リゼルは嫉妬深いと呆気に取られながら言う。だが、それが照れ隠しだと言うことは自分が一番分かっていた。
「はい。私の剣で、盾でもある貴方を見せるのは、勿体ないなと」
「………嬉しいです。ですが、姫様———」
美しく、リゼルは表情も変わらないが確かに言った。
「貴女の剣と盾が俺ならば、貴女は何でしょう」
「……………主」
「はい。では、貴女にとって守るべき人は誰でしょう」
「国民、お父様、お兄様………」
思わずと溢すシウィアの言葉に「はい」と頷く。
「敬愛している嫉妬深い主の兄上に、お目通り願えますか?」
「…………! は、はい」
遠回しな言い方をして申し訳ないが、王太子には会いたいと思ったのだ。
それに、敬愛する主という言葉も嘘じゃないのだから。




