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22話 護衛再開

 ルッパク村に戻り村人たちに別れを告げたリゼルは、帰城した。あっという間に夜になってしまった。今は最上階にある国王の部屋の横にズラァと並んでいる一室にいる。新しく設けられた、リゼルの自室だ。この一日だけでとても疲れたのは仕方ないだろう。疲労が溜まる原因は何個かある。


「ふわぁ………」


 子供のような、可愛らしい欠伸(あくび)をした後にリゼルは浴室に向かう。皆で使う大浴場などは近衛と言っても一騎士なのでないが、近衛は自室に浴室がある。

 湯船に浸かると、一気に疲れが滲んできた気がした。


「明日から、護衛が再開………」


 数時間前、シウィアが自分に飲ませてくれた液体はザレンカの毒の解毒薬だろう。研究者の間でも苦戦しているという、あのザレンカの毒の解毒薬をどこで手に入れたのだろう。


(もしかして、自分で作ったり………? あり得るなぁ)


 湯船に浸かりながらだからか、頭がどんどん真っ白になっていく。今日はもう何も考えずに、温かく快適な夜を過ごした方が良いかもしれない。食堂でたくさん食べてきて、お腹もいっぱいだ。あとは寝るだけ。


 ♢*♦︎*♢


 シャツを一枚ボタンを全て開けて着るだけの寝間着で、リゼルは浴室を出た。また腕を上に伸ばして欠伸をする。


「ねむ………」


 もう寝なければいけない時間はとっくのとうに過ぎている。スケジュール通りに毎日を過ごしたかったところだが、やはり近衛になってから色々なことが起きるため、思い通りにはいかないのだ。


(おやすみ、なさい………)


 誰かに心の中で呟いた後、リゼルの意識は途切れた。

 朝起きれば、そこは故郷の匂いではなく心落ち着く香りがした。王城の近衛用の部屋も王族の部屋に負けないくらい良い部屋だと思うのは、リゼルの生まれが平民だからなのか。もしかしたら、貴族の生まれだったら全然違うと思うのだろうか。そうやってどうでも良さそうなことを思いながら着替えを行う。


「………よしっ」


 寝間着からいつ見ても格好良い近衛の服へと着替えが終わり、お決まりの気合いを入れる言葉を呟いた後にリゼルは扉を出た。


「「あ」」


 扉を出ると、数部屋くらい飛ばしたところに友人となったハルシがいた。二人おはようと言い合い、食堂へと向かった。


 ♢*♦︎*♢


 朝食を摂り、朝の訓練が終わった。シウィアが起床の七時に訓練場を出て、リゼルはシウィアの着替えが終わる頃を、勘だが見計らって行く。勘だから着替え中に行ってしまうこともシウィアの護衛をしていく内にあるかもしれないが、その時は侍女から『まだ入らないで』と言われるだろう。


「シウィア様。お目覚めですか」

「リゼル様っ。まだ入らないでくださいませねっ?」


 僅かに興奮気味で猫撫で声の者は侍女だろう。丁度、着替え中にシウィアの自室に着いてしまったらしい。リゼルは「はい」と一言だけ言って、扉の横に背中を向けて待った。壁にもたれず、姿勢を良くして立っている。


「あの、リゼル様。退屈かもしれませんし、お話でもしませんか?」

「はぁ………別に、良いですが」


 誘いを断るのも王女の護衛としてやめたいので、リゼルは仕方なく扉から恐る恐る顔を覗かせてきた侍女の誘いを受ける。貴女と話していた方が退屈ですよ、という言葉は喉から出るギリギリのところで飲み込んだ。


「リゼル様は慕っている方はいらっしゃるのですか?」

「………母や、父。妹でしょうか」


 家族は大事だ。両親は優しいし自分たちの恋愛話をされると恥ずかしがる、まだ少年少女らしい一面もある。妹のフローラはとても活発な少女でリゼルよりも四歳年下の大切な妹だ。

 リゼルの答えを聞いた侍女は何故か頬を染めて手を合わせた。


「まぁ! では、婚姻する方のことも慕う………つまり、恋愛結婚が望ましいと!」

「…………まぁ、そうでしょうね。出来れば恋愛結婚が良いですよ」


 ますます頬を染める侍女を怪訝に思い、リゼルは彼女から一歩離れた。

 その離れた時に、また扉が開いた。顔を覗かせたのは、シウィアだ。


「あの〜………リゼル? もう入って良いですよ」

「あっ、はい。では」


 侍女に軽く会釈をして、シウィアの自室に入っていく。次々と部屋から出ていく侍女らは、先程リゼルと話した侍女に何か訴えているようだった。元々、他人の気持ちに疎いため今は彼女らがどんな心境なのか分からなくて申し訳ないと思う。尤も、知って得するようなことではないかもしれないが。


「リゼル。貴方、さぞかしウチの侍女にモテておりましたね」

「え? ………あれは、そういうことなのですか?」

「………はい? そうですけど。どうして、気付かないんでしょう」


 本当に不思議そうにするシウィアの疑問を晴らすため、リゼルは口を開く。


「元々、人の気持ちに疎いんです。申し訳ありません」

「なるほど! そうなんですね。それならば仕方ありませんねっ!」


 薄らと頬が紅潮しているシウィアを首を傾げて見る。

 気まずそうに視線を逸らし、彼女は左胸を押さえた。


「あの、もしかして何か………疲れで風邪でも引いてしまいましたか?」

「いえ。絶対そうではないんですが……何か、胸が苦しいんです」


 風邪でもない、病気でもない。それでも胸が苦しい。

 どう言うことだろうと、二人で見詰め合い首を傾げる。


「「………何ででしょうね」」


 ボーッと暫く時間が過ぎていく。先に我に返ったのはリゼルだった。


「えぇと。今日の、ご公務はなんでしょう」

「あっ、今日はないのですよ。……雑談でも、しますか」

「そうですね」

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