19話 己の父に謁見を
あと1話くらい、シウィア姫目線が続きます!
その解毒薬かもしれない液体を、シウィアは瓶に入れてその瓶を木箱に入れた。個室を出て、大切に抱えながら大広間へ向かった。今日は王城で行われるパーティーはないため、急ぎ足ではなく液体を配慮してゆっくり歩いていても間に合う。
「ねぇ見て。王女殿下、また何かしてる」
「本当ね。リゼル様が、可哀想だわ。あーあ、陛下の騎士になれば良かったのに」
「ね。どうして、断らなかったのかしら」
王宮内を歩けば囁かれる悪意や敵意も、慣れてきた。………というのは自分自身に言い聞かせていることであり、本当は己が慕っている国民に嫌われているというのは複雑で虚しいものだ。
「シウィア・フィシリーフ王女がお見えになりました」
謁見の間に続く豪華な扉を騎士に開けてもらい、シウィアは非公式のため「御父様」と形式的な挨拶もせず声を掛ける。国王もそれを許して、娘に向ける笑みで「おぉ、シウィアよ。どうした?」と話し掛けてくれた。
「これを」
木箱を差し出すと、国王は玉座から立ち上がり差し出された木箱を受け取る。
国王は蓋を開け、目を見開いた。
「………これは、なんだ?」
「ザレンカの毒の、解毒薬です」
それを聞いた時、国王が「何っ」と驚く。
「だ、だが、それが本当に解毒されるとはまだ証明してないのだろう?」
「はい。それを、御父様に証明してもらえないかと思いまして」
シウィアの真剣な眼差しに、国王は固唾を呑む。
「………分かった。すぐに手配しよう」
「ありがとうございます」
すぐに手配、と言ってもザレンカの毒の研究は止まっている。突然、証明しろと言われても戸惑うだけだろう。研究者たちに同情しつつ、シウィアは白衣を羽織ったままカーテシーをした。
だが、これが成功したならば自分は国民に認めてもらえるのではないか。そういう、期待と不安が混ざり合う。
「娘よ。リゼルとはどうだ?」
「………! リゼルには、良くしてもらってます。……はい、本当に」
頬を少し紅潮させて俯きがちで言う彼女の目は、少しの熱を持っていた。その娘の様子を見て国王は悟り、これは困った予感がする、と頭を抱えそうになったのだった。だが、王女はまだ一ミリも気付いていないようだ。それでも、あと何十日か経てば、様々なジャンルの本を読んでいるシウィアなら己の気持ちに気付くだろう。
(………どうしたものか)
国王は先程までの威勢をなくし、誰にも気付かれずに溜息を吐いた。
そんな、時だった———。
「王女殿下、国王陛下!」
「「———っ⁉︎」」
バンッ、と音を立てて扉を開けた彼は国王の側近だ。頼りになる彼は、珍しく額に汗を浮かばせ、ゼェハァと荒く呼吸をしながら報告する。きっと悪い報せだろうと国王は身構えた。
「王女殿下の、近衛騎士リゼル様がっ! ザレンカの毒を体内に………!」
そこまでして言葉を区切った側近は、今も疲れているようだ。だが、状況を察するには今の言葉で充分だった。その恐ろしい報告を聞いたシウィアは膝がガクガクし、顔が青褪めている。
「そっ、んな。リゼル………リゼルは。え? 体内に、毒………?」
情緒不安定になっている娘を、国王は立ち上がり彼女の背中をさする。それで少し安心したのか、深く深呼吸をして「あり、がとうございます。……御父様」とお礼を言った。
「そうだな………シウィア。これで、お前の解毒薬の効能を証明しよう」
「え?」
ニヤッと笑った国王に、シウィアは呆気に取られる。ポカンと小さく口を開けて、信じられないと言うような、不安そうな顔色になった。だが、暫し目を閉じ、覚悟を決めた眼差しを国王に向ける。
「分かりました、御父様。行って参ります」
「あぁ。リゼルの無事を祈っておるぞ」
そして国王は、解毒薬が入った木箱をシウィアに返した。




