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1話 近衛就任

(………とても懐かしい夢、だったな)


 王城よりも少し離れた場所にある数多い小屋は、騎士の家だ。一人一人が自分の家を持ち、王城に入城していく。平民のリゼル・アリーラも、一騎士としてその小屋を使っている。

 懐かしい夢を見たと、リゼルはもう寝心地が良いと感じるようになったベッドの上で腕を額に乗せながら考える。起床して、まだ着慣れない騎士の鎧を着ると、リゼルは剣を握り小屋を出た。


「おはよ」

「おぉ、リゼル! 美少年っぷりは今日も変わらねぇな!」

「リゼル! おはよう、今日も頑張るか!」


 次々と小屋から出て来る仲間たち全員にリゼルは挨拶をする。だが、その表情は無だ。リゼルは、家族以外には無愛想になることが殆どで、直したいと思っているが日々の鍛錬が難しくできない。だがそんなところも騎士と言う同じ立場のため話すようになった仲間たちは気にせず、気軽に話し掛けてくれる。


(そう言えば、今日陛下から呼び出されてたんだ)

「用事あるから。ちょっくら行って来るよ」

「ちょっくらって………きっと陛下からのお呼び出しだろ?」


 呆れるように皆肩をすくめるが、それも気にせずリゼルは早足で謁見の間へ向かった。どんなことを言われるのか。まぁ、どんなことでも受け止めるけどとメンタル強めの表情筋の硬い十六歳の美少年は思った。

 入城すると、視線が突き刺さる。好意、悪意、敵意、嫉妬、そんな視線の針さえも彼の心を揺さぶらない。メンタルは強いが、リゼルは強過ぎるのだ。


「騎士リゼル様が参りました!」


 様付けされるほどでもないんだが、なんて己の功績を理解していないリゼルは、国王の座る玉座の前に跪く。跪いた後、「お呼びでしょうか」と言って。


「あぁ。其方(そなた)は、騎士として多くの功績を残してくれた」

「…………光栄、です」


 一体なんのことだろう。そう思った。

 リゼルは自覚が足りないところがある。家族以外には無愛想で、そこもクールで良いと城の乙女たちに噂されていることも、従者などに嫉妬や敵意の目で見られても、リゼルはそれさえも分かっていない。何故、敵意を向けられているのか。


「リゼル。自覚などお主にはないかもしれぬが、お主が思うほどに其方は大変大きな功績を残してくれている」

「………申し訳ございません、覚えがございません」


 リゼルも、少し直さなければと思っている。無自覚に悪意や好意を受け流していることなど、色々。騎士は他人の気持ちにすぐ気付かなければならないのに、そこだけがリゼルの欠点だった。


「よい。話に戻ろう」

「………はい」

(国王陛下に気を遣わせてしまっては、騎士失格だろう)


 そう跪いたまま下を向き反省しながらも、リゼルは国王の言葉を聞く。


「———その数々の功績を元に、お主を姫付きの近衛騎士になってもらいたい」

「………………………………」


 思わず吐息が溢れる。気を抜いてしまった証だとリゼルはすぐ気を引き締めるが、それでも不思議と思うものは思うものだ。近衛、誰が、自分が。そうやって自問自答しているが、姫付きの騎士をまず問い掛けることにした。


「発言をお許しください」

「うむ」

「何故、姫付きの近衛なのでしょうか」

「………不満、か? ならば護衛対象を変えよう」


 国王の言葉を聞き、リゼルは恐れ多過ぎると首を横に振る。「では、どうしてだ? 申してみよ」と国王が理由を問うため、リゼルは恐れ多いと思いながらも口を開いた。


「姫様付きの騎士というのは、あまりにも、光栄過ぎると言いますか。私はそんな姫様に付くほどの実力を持ち合わせておりません。もし、不幸な事故から護衛するべき方を守り切れず……ということがあるのなら………」


 顔が青褪める。そんなリゼルを見て国王は不思議そうに口を開いた。


「そんな時、(わし)から罰を言われることが怖いか?」

「いいえ。私が罰を受けることは当然の報いかと思います。もしも、私がそんな失敗を犯したのならば、この腹を切りましょう」


 腹を切る。その言葉に二人の会話を見守っていた貴族たちがざわめき始める。そんな中でも国王は威勢のある表情を和らげて言葉を紡いだ。


「其方の目、本気だな。そんな覚悟があるやつを儂は大事な娘の騎士にしたかったのだ。それに、お主の剣技は国中……いや、世界中で一番とも言えるほどの腕前だ。自信を持つが良い」

「あ、ありがとう、ございます」


 ポカンとするリゼルを満足げに玉座から見下ろし、国王は「では、近いうちに其方と娘の顔合わせの場を設ける」と宣言した。


「お気遣い、感謝致します」

「あぁ」


 リゼルは謁見の間を後にした。


 〜〜*〜〜*〜〜


「「「近衛就任、おめでとぅー!」」」


「おめでとう」ではなく「おめでとぅ」と言う元になるであろう同僚たちは、リゼルが小屋に帰って来たと同時に祝ってくれた。


「…………え?」

「いやー、お前が近衛とは! いや、まぁな。同僚として鼻が高い!」

「分かる! よっ、天才剣士くん!」


 調子に乗ってリゼルに向かって色々なことを言う同僚たちは、リゼルの小屋でリゼルを待ち構えていたらしい。


「何故、みんな俺の小屋に?」

「いやー、だってさ。友人の家で待ち構えるってしてみたかったんだよねー」


 そうやって片手を後頭部に添える彼に皆、人差し指を向ける。


「「「それな!」」」


 お調子者である同僚たちは、リゼルとは正反対の性格だ。明るくていつも自然と笑顔を溢す。表情筋が硬くて笑おうとしても変な風になるリゼルとは大違いだった。


「まぁ、良いか」

「おぉ! リゼル近衛騎士のお許しが出ましたーー!」

「やるぞ! 今日はみんな鍛錬休みだ!」

「そうだそうだ!」


 リゼルは国王との謁見という理由で今日一日休みを貰っているが、同僚たちは謁見していないため今日も鍛錬に向かう日だ。


「………今日、鍛錬じゃないの?」

「「「騎士団長に休み懇願してきた‼︎」」」


 皆、口を揃えてそう言った。


(しょうがないか)


 いつもなら皆を送り出すのだが、今日のところは許そう。

 そう思いながらリゼルは無愛想な顔はそのままで、「ありがと」と言った。


「お礼貰いました! イケメンのありがとは破壊力強し‼︎」

「分かるよ分かるよ!」

「なんか、俺『イケメンにやって欲しい行動』って言う本持ってる!」

「おぉ! リゼル、今から俺が言うことをやれ!」

「…………仕方ないな。やるか」


 リゼルの答えを聞けば、彼らは「うぇぇぇええい!」と喜んだ。

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