14話 家族という宝物
愛馬のレホクを走らせ、リゼルは自分が生まれた村、ルッパク村に向かった。ルッパク村は煉瓦や木材で造られた家が並んでいて、小さくて生徒も少ないが学校もある。リゼルと妹のフローラも、そこの学校に小さい頃通っていた。
「レホク、ここ懐かしく思わない?」
「ぶるる」
レホクとは小さい頃からこの村で過ごしていた馬だった。平民よりも大きな家の庭を、レホクに乗って走り回ったことだって多々あった。
レホクの走る速度を落とし、レホクから降りる。何メートルか先に村の目印である木の門が見えた。
村の門番は昼寝をしているが、もう一人の門番は真面目に立っている。彼は、リゼルがこの村を出る前もこの村の門番をしていた。
「ねぇ、レホク。突然俺が帰って来たら、どんな反応をするかな?」
馬は人間の言葉を話せないが、それでもレホクに問い掛ける。レホクの鬣を優しく撫でてあげると、嬉しそうにして頬を鬣を撫でていた手に当てる。
「久し振り」
「…………えっ? り、リゼルと、レホクじゃないか」
門に着いてそう手を振ると、門番は呆気に取られたように自分たちの名を呼ぶ。門番が驚き、リゼルは悪戯心が満たされた気がした。
「おい、みんな! リゼルが帰って来たぞーー‼︎」
昔から変わっていない大声で門番は村人たちにリゼルの帰還を告げる。門の外からでも分かる賑やかな声が驚きに変わり、門の前に集まった。
「リゼル! どうしたんだい、急に!」
「お帰りなさい、リゼルー! 遊んで遊んで!」
「ほへ〜……美少年が成長したらこんな美男子なるんだねぇ」
リゼルの帰りを待ってくれていたことが、皆の様子を見て分かった。子供たちはレホクを撫でたり、乗ったりと、レホクの周りは忙しそうだ。レホクは門番に馬房へ連れて行ってもらい、子供たちもついて行く。リゼルの周りには帰還を喜んでいる大人たちだけだ。
だが、その中で唯一の子供がいた。
「お兄ちゃんっ!」
「あ、フローラ。それに、母さん、父さん」
フローラと手を繋ぎこちらに来た家族に、リゼルは微笑む。自分の表情筋が柔らかくなるのは、家族の前だけというのが改めて分かった。
「お兄ちゃん、お帰り!」
「リゼル、お帰りなさいね。この二年、大丈夫だった?」
「お帰り。リゼル、お前が夢を叶えられて、私も嬉しい」
フローラはリゼルの手を取って少し跳ねながら喜び、両親は大人しくも素直に喜んでくれる。とても良い家族を持ったなと、改めて思った瞬間だった。
家族の大切さを噛み締めていると、母が話し掛けてきた。
「リゼル貴方、いつまで居るの?」
「一日だけだよ。姫様のお慈悲で、一日休憩を貰ったんだ」
「そっか………でも、一日だけでも嬉しい!」
家族や村の皆と挨拶を交わした後、リゼルは生家に家族と共に向かった。




