11話 互いの愛馬
馬房には、リゼルの愛馬がいる。シウィアは他の、王族用の馬房に愛馬がいるので、そちらに行っていて今は一人だ。
「姫様は、どうして自身の魅力に気付かないんだろうな」
馬房にいる馬の鬣を撫でながら、リゼルは馬に呟いた。愛馬の名前はレホクと言って、鬣の先端が淡い水色の、黒色の鬣の黒馬だ。
近衛用の白色の鞍に座り、金色の手綱を握る。
「じゃあ、行こう。久し振りに走れるよ!」
リゼルの言葉に喜ぶように、馬はヒヒーンと嘶いた。
〜〜*〜〜*〜〜
シウィアは王族用の馬房に着き、溜息を吐いた。リゼルは騎士用の馬房に居て、そろそろ来る頃だろう。
「なんだか、酷いことを言った気がします………」
思い返すのは数分前の『リゼルは私とは違う』と言ってしまったこと。
美少年である彼は先日自分の近衛になったばかりで、あまり性格や個性的な一面というのを知らない。ただ、王宮の者たちの大半に信頼され好かれている超絶イケメンということだけは分かる。
(リゼルにはもっと欲を持ってもらわないと)
馬を撫でながら思う。シウィアは、出来損ない、無能無才として知られている。何故か数時間前のシウィアの部屋にて、リゼルが己の大切なものはシウィアだとハッキリ言葉にしたことを思い出して、頬が紅潮する。だれだって顔が良い人に言われたら火照るものだろう。
「はぁ………」
馬は溜息を漏らしたシウィアを元気付けるようにブルルと首を振る。微笑んで、「ありがとう」と礼を言えばシウィアの愛馬、フォラは目を瞑ってシウィアの撫でる手を気持ちよく思ってくれているようだ。
ふっと微笑み、口を開く。
「もう行かないといけないです。……リゼルを、待たせているかもしれないし」
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リゼルは馬に跨り、王族用の馬房へと向かっていた。もちろん、馬を走らせず、歩かせている。愛馬のレホクは久し振りに走れると機嫌がよく、歩いている今もリゼルの指示に従いパカパカと歩いていた。
「———あっ。姫様」
王族用の馬房に向かっていると、こちらに向かって歩いてくる白馬がいた。黄金色の鬣を撫でながら白馬を歩かせている女性は、シウィアだ。
レホクを止め、ジーッと彼女を見ているとシウィアもこちらに気が付いたようで、手綱を握り早歩きで駆け寄ってくる。リゼルも、レホクを歩かせた。
「リゼルの馬、可愛らしいですね」
「ありがとうございます」
シウィアが馬から降り、レホクを撫でる。王女が降りているのに近衛が降りないのはいけないと思い、リゼルもシウィアに気を付けながら降りた。
「この子のお名前は?」
「レホク、です。性別は男ですよ」
「ふふ。レホク、良いご主人様に恵まれましたね」
そう言いながらレホクを撫でるシウィアの言葉に、案外照れ屋なリゼルはウブな少年らしく頬を染めた。こほんと、シウィアに気付かれないように己を落ち着かせるため咳払いをする。
「………姫様の馬はどんなお名前なんですか?」
「フォラですよ。性別は女の子」
「そうなんですね、可愛らしい名前です」
リゼルはフォラと言うシウィアの愛馬を優しく撫でる。『とても魅力的な主を持ったな』と心中微笑んで。
「それじゃあ、行きましょうか」
「あ、はい」
お互い愛馬に乗り、草原へ向かった。
門兵に城の正門を開けてもらい、白馬と黒馬が並ぶ。本当は隣よりも斜め後ろの方が良かった気がしたが、隣で護衛対象の目線になり護衛する方が馬に乗っている時は良いと判断した。
「ふふっ、乗馬は久し振りです!」
「俺もですっ。訓練でしか乗らなかったんですが、案外楽しいですね」
シウィアが堪え切れないとばかりに言えば、リゼルが返事をする。
リゼルは無表情ながらも、シウィアには彼が楽しんでいると感じていた。
シウィアは歩いていた愛馬を手綱を握り締め走らせる。
「じゃあ、突っ走りますよ!」
「えっ、ちょっ。姫様、お待ちください……!」




