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10話 どうすれば救える?

 シウィアの自室で繋いだ手は、自室を出るのと同時にパッと我に返り手を離した。否、シウィアが頬を染めながら「———っ」と離したのだ。リゼルとしても、その場面を王宮の者たちに見られればただでは済まないので、それは助かったとも言える。そのまま、手を繋いで歩きそうだったから。


「まずは、私専用の図書室でザレンカに関係する本を何冊か調べます。あと——」

「……………………………………………」


 シウィアが思い出すように天井を見上げ、予定を言っている。リゼルはシウィアの斜め後ろを歩き、たった一人の主を護衛していた。だが、今は敬愛する彼女から紡がれている予定を真剣に聞く余裕などなかった。


「どうして、出来損ないの王女が」

「リゼル殿は何故、シウィア様の護衛をしているのだろう」

「無才で無能のクセにさ………」

「リゼル様、可哀想」

「近衛になったら誰だってあんな王女じゃなく陛下の護衛をしたいわよね」


 リゼルは、前を行く知らぬふりをしているシウィアを見ながら思う。


(姫だ、王女なんだ。どうして誰も分からない)


 王宮にてひそひそと囁いている貴族、侍女、従者らは、どうしてかシウィアを王女認定していない。言葉では王女と言っているのに、王族に対する敬意を感じない。ハルシの言っていた、王女の護衛を近衛の皆が断って来たという話も、嫌だが今では頷ける。


「リゼル、どうかしましたか?」

「っ………いいえ、姫様。なんでもありません」

「そう、ですか?」


 立ち止まり、後ろを振り返り自分を心配そうに見るシウィア。護衛という騎士にさえも優しく、心配してくれる彼女の魅力をも誰もが知らない。少し喜んでしまうが、でも皆に彼女の魅力を伝えたいという欲もあった。

 シウィアは前を向き、また歩き始める。一刻も早く、この悪口を言われるところから立ち去ってしまいたいだろうに、シウィアは穏やかに歩を進めるのだ———。


「ねぇリゼル。貴方も少しは欲を見せないのですか?」

「………………欲は、あります」

「本当に? じゃあ、それを言ってみてください」


 誰も居ない、『王女の図書室』にて。もう既に本を何冊か腕に抱えているシウィアにそう聞かれた。リゼルは、己の欲望を口にする。少し、シウィアにも関わることだから照れ臭い。


「姫様の決意を広める手伝いを、したいです」

「……………っ‼︎」


 先日の顔合わせでシウィアが言っていた言葉を思い出す。


『国民は国の宝。宝を守るのは、王女としての責務でしょう?』


 妖艶で不思議な笑みを見せてそう言ったシウィアに、リゼルは敬愛したのだ。だったら、その主の手伝いをするのは近衛騎士として本望。

 シウィアは暗く微笑んで、リゼルから視線を外した。


「だから、リゼルは私とは違うんです。護衛をしてくれるだけ、有難いですよ」

「それだけじゃ、俺が………いや、私が満足しないんです」


 真摯に向き合うリゼルにシウィアは何も言えなくなったのか、沈黙が続く。だが、次に顔を上げたシウィアは満面の笑みでリゼルを見ていた。でも分かる、彼女は泣きそうになっている。


(やっぱり、気にしてるんだな)


 思わず眉尻を下げるリゼルは、寂しい気持ちになった。

 シウィアは、先程の廊下でひそひそと陰口を言われたことを気にしているのだ。彼女は自分には何も才がないと思っているが、リゼルは知っていた。己の才能には気付きにくいものだということを。


「———あっ!」

「?」

「ザレンカの資料集がありました! これを持って、草原に行きましょう!」

「……………そうですね。姫様」

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