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8話 初日の朝

 昨日決めたスケジュール通り五時五十分に起床して、近衛騎士の隊服に着替える。騎士だった頃はリゼルの細身に合わない鎧だったが、近衛になってからの隊服は布製で作られた隊服で、布といえど防御力はバッチリなものだ。


「………よしっ」


 服装を全身鏡でチェックし完璧なのを確認して小さく呟けば、リゼルの一日の始まりだ。シウィア姫の護衛を任され、近衛に就任した。この格好良い隊服を見ると、その喜びを噛み締めることを無意識にしている。

 六時、食堂に着くとハルシがいた。


「おはよ、ハルシ」

「あ……おはよう、リゼル。早いね」

「どうも」


 知り合って一日しか経っていないのに、なんだか友人関係が芽生えた気がする。これから親友になれれば良いなと思いながら、リゼルは「今日の鍛錬、宜しく」とハルシに言った。


「うん。厳しく行くからね」

「ありがと」


 微笑むハルシに、リゼルは無表情のままにお礼を言う。

 食堂は好きな食べ物を自由に取って良いということなので、リゼルは全て取った。全部好きだったと言うより、シウィアに自己紹介として言ったように好きな食べ物、苦手な食べ物がないからだ。

 ハルシは、少食なのか皿に乗っているのはサラダとパンだけだった。


「うわぁ………それ、食べ過ぎて腹壊さない?」


 二枚の皿に朝食を全て乗せてハルシの隣にトレーを置くと、ドン引きされた。


「? 大丈夫でしょ。一騎士だった頃の同僚たちはこれの倍食べてたよ」

「…………まぁ、良いことだね」

「うん」


 そう。同僚たちはこの倍は食べていた。三倍食べていた者も居たし、その倍食べている者もいた。ドン引きするとすれば、彼らにだろう。


「いただきます」

「…………いただきます」


 朝食の生産者など、関わりのある者に心中お礼を言いながらそう手を合わせると、ハルシも共に手を合わせた。そしてタイミングが良いことに、リゼルたちが食べ始めた頃に近衛騎士団長がやってきた。


「おぉ! 二人とも早いな!」

「うっるさ………いや、近衛騎士団長も随分早いと思いますが」

「おはようございます、近衛騎士団長」


 ヘンリーが現れ、この場の空気が一気に明るくなった気がする。ヘンリーはすぐ皿に盛り付けてきて、ハルシの隣に座った。

 そうして、静かな雰囲気になるはずがとても明るい雰囲気に変わったのだった。

 だがそんな空気も、リゼルは嫌いじゃなかった。


 〜〜*〜〜*〜〜


 リゼルは二人よりも早く食べ終わり、シウィアのところに向かった。礼儀よく食べながら雑談をしていたら、もう六時四十分になってしまっていたため、残りを出さずに全て食べ終わったのだ。顔色一つ変えないリゼルに、ハルシは呆れ、ヘンリーは豪快に笑っていた。


「姫様。入って宜しいでしょうか」


 コンコンと軽く扉をノックして言えば、入室の許可が下りた。それに従いシウィアの部屋に入室すると、彼女はまた、椅子に座りハープを弾いていた。


(本当に、どこでも奏でてるな)


 女神の贈り物と大袈裟に記されていても誰も疑わないほどの、そのハープは、代々フィシリーフ王国の第一王女に授け、継がれていった。だから、シウィアが大切にするのも頷けるのだ。


「おはようございます、姫様」

「おはようございます。………そうでした、護衛がいるんでしたね」

「はい」


 どうやら、自分がいつも一人だったため、急に護衛が来て驚いたようだった。昨日顔合わせをしたが、その翌日から来るとは思わなかったのだろう。


「………では、ついて来てくれますか? 今日は公務があるんです」

「出張、ですか?」

「はい、そうですね」


 シウィアは、些細なことで活躍しているため国民の方では、『何もしていない出来損ないの王女』という風にされているそうだが、こうやって、ちゃんとシウィアは公務をしているのだ。

 少しだけ、それを寂しく思った。

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