第四十一話「処理だよ」
〈砂藤はこないよ〉
一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。いや、頭に入らなかった、のほうが正しいのだろうか。そんなはずはない。だって、ついさっきも僕に声をかけてくれた。あいつらが追ってくるのを防いでくれていたじゃないか。いや、でも、今目の前にいるのって——。
じっと僕を眺めていたやつが口を開いた。
「聞こえてなかったのか? 砂藤は——」
何も思っていないような、感情がこもっていない声。やけに聞き取りやすい発声に吐き気がする。お前のせいで、こうなったんだろ。何もかも。
「聞こえたよ......。はっきりと」
そう言った僕の声は震えていた。足の感覚はとうに薄れつつあった。血が流れる感覚だけが、一定のリズムを刻んで伝わってきていた。
「何が、目的なんだ」
「君を殺すこと」
僕を、殺すこと? 全身を悪寒が走った。言葉で聞いて、再度強く実感した。これから殺されるのだと。明日は来ないのだと。あの時はあれだけ望んでいた終焉。それが今はどうだ。こんなにも、耐えがたい。別に殺されることが嫌なんじゃない。これ以上、生きられないのが嫌だった。せっかく、砂藤さんは生きる意義をくれたのに。世界は残酷だ。望まぬ者に与え、望むものから奪う。それで世界の均衡を守っているつもりなのだろうか?
少し諦めがついてきた頃、一つの疑問が頭を埋め尽くしていた。不快感。なぜ、どうして僕は殺されなくちゃいけないんだ。僕の人生では、理由なき暴力を受け続けなければいけないのか、と。
意識が遠のく中、僕は問いかけた。
「なんで......殺されなきゃいけないんだ」
そいつは考えるそぶりもせずに、すぐに答えた。
「君が邪魔をしているからだ」
「そもそも、お前らの......目的はなんなんだよ......」
「私たちの目的、か。そうだな。処理が無事終わったら教えてやろう。もっとも、無意味なことだが、君が望むのなら」
そういうと、やつは僕の腕を持った。神経が通っているはずの「それ」は、力なくだらっとしたまま、物のように持ち上げられた。到底自分の腕とは思えないほど、いうことを聞かない。ああ、これが死か、と嫌でも実感した。
奴の手が薄白く光りだした。それとともに手先から肩へと、肩から首、頭へとなにかが通るのを感じた。それは這うように皮膚の下、いや骨の中を通る感覚だった。
「なんだよ。これ。なにを......」
これが、〈処理〉なのだろう。感覚が頭まで到達したとき、激しい頭痛に襲われた。痛い、痛い痛い痛い! 内臓をかき回されているような痛み。とても耐えられるようなものじゃない。足をナイフで刺された痛みなんて、どうでもよくなるような激痛。
「あ、あ」
うまく体に力が入らず、叫ぶことすらできない。幸い、意識だけは激痛によって無理やり引っ張り出され、表層にいた。ただ、今はそれがとても苦しい。僕は完全に諦めていた。早く楽にしてくれ、それだけを願っていた。
ふと、なじみのある感覚がした。視界に砂藤さんが映っていた。彼女は手に斧を持っていて、こちらに向かって走ってきていた。最後に彼女の姿を見られてよかったのかもな。そう思った矢先、痛みが頭から去った。そして気づいた。僕の手を持っていたあいつはいなくなっていて、代わりに近くには砂藤さんがいた。




