第三十六話「Completed」
そして刀身が振り抜かれると同時に彼女の頭が刀と逆向きに傾く。
血が舞って、彼女の体が後ろへずれた。
――そんな
振り抜かれた刀が酷く遅く見えた。
眩しく光を反射する綺麗な刀身が、砂藤さんを見つめる僕たちを反射している。
ゆっくりと、地面へと近づく。
刃に映る歪んだ僕らが上へとずれていくのをただ眺める。
かつん、と音を立てて切先が地面に触れた。
同時に市松さんと共に襲撃者が地面へと倒れる。彼はすぐに襲撃者を押して立ち上がり、砂藤さんの元へと駆け寄った。
何一つ行動していないくせに未だ呆然としている僕と対照的に、全力を注いだ彼はこんな時にも素早く動いている。その差は歴然で、どうしようもなく……僕は惨めだった。
「花怜」
市松さんが倒れた彼女を抱き抱える。
「しっかりしろ」
彼女の顔を覗き込み、声をかけていた。その様子は誰から見ても無防備で、この敵に囲まれている様子にあまりに不釣り合いだ。彼女の心配よりも先にそんなことを考えてしまう自分が嫌だった。
最寄りにいたナイフを持った襲撃者が一歩近づいた。市松さんの感情が一瞬で変容する。強く握りしめられた手は震えていて、彼女をゆっくりと下ろしながら見つめる視線は酷く鋭利だった。
その気迫に押されたのか、襲撃者がその場に立ち止まった。
ゆっくりと、市松さんが起き上がる。そして襲撃者と目線を合わせ、顔面を目掛けて素早く殴った。
わざと受けたかのように見えるほど、そのストレートは綺麗に鼻筋に当たった。一撃受けた襲撃者が勢いよく仰反る。
僕は気づいた。市松さんの後ろで、刀を持った襲撃者が立ち上がっていたことを。その距離はすでにあと数歩といったところまで来ており、血が滴る刀身を空へと掲げている。
「危ないっ」
僕が警告するも虚しく襲撃者は勢いよく刀を振りかぶる。
直後、ガキンと甲高い音が響いた。
突如として現れた真っ白な板によって、刀の軌道は逸れていた。そして、役目をまっとうした板は思い出したかのように落下する。
視界の端。砂藤さんの伸ばされた手の先に、緑の輪が。そしてその中央には「Completed」と文字が浮かんでいた。




