第三十三話「ゆあ、ふれんど」
「砂藤さん?」
僕が身を引いたせいで彼女に当たった? いやいや、まさか。そんなはずは......。
不安になり、急いで後ろを見た。
真っ先に目に入ったのは店の様子。先ほどまでとは打って変わって、落ち着いている。
いや、今見るべきは砂藤さんだ。
——いた。
「よかった——」
安堵の声が漏れた。見る限り目立った外傷はなく、ただ尻餅をついただけに見える。
服も無事だ。血もついていない。傷ついていない。僕のせいで砂藤さんが傷ついたとなると、正気でいられるか定かではない。
そして、落ち着いた今、気になるのは店だ。先ほどまでの色の侵食がまるで夢だったかのように治り、全て元通りになっていた。
砂藤さんの修復がちょうど終わったのか? それにしては様子が変だ。
襲撃者は砂藤さんの修復を妨害しようとした? ギリギリ間に合ったのかということか?
「アー、縺ク繧薙?縺九s縺吶k縺ェ」
悪寒が背中を撫でる。砂藤さんの安否で頭が満たされていて完全に忘れていた。こいつの存在を。
さっきから気持ちが悪い。なぜこうもおとなしい。前回は考える暇もなく襲ってきたのに......。
隣にいる市松さんもその気味が悪い様子に眉をひそめている。拳には力が入ったままで、とても警戒していた。
一言、一言、出てくる言葉は全て意味不明だ。表情も乏しく得体の知れない不気味さが蔓延している。
5秒ほどだろうか。僕らの鋭い視線の中、呟き続けていたあいつの言葉は、不意に聞きなじみのある音になってきていた。
「え。こう。いあーでも。......そうで」
「あ。だい......じょうぶそうかな? ふだん発声しない。......もので」
「何しにきた」
肩がわなわなと震えながら、市松さんは問いかけた。
「私たちは......君。味方だ」
理解不能だった。一瞬日本語に近しい別の言語か、と思ったほどに。それはあまりにも無責任な言葉。
君の味方——だなんて、どいつもこいつも軽々しく言いやがって。
「なんの用だ、と。そう聞いているんだ」
市松さんからの問いかけに、そいつは首を傾げる。
「ただ、渡してくれ......さい。彼を」
「彼って——林道のことか?」




