第三十二話「交差」
先ほどまで服に現れていた異常な色の継ぎ接ぎが、ハンガーラック、床、果てには付近の壁まで広がっていた。
それらは、今までのどんな異常よりも明らかに壊れている。原色に近い様々な色が多角形に入り乱れ、重なり、ガクガクと動いている。重なり合っている部分はチカチカと明滅を繰り返しており、お互いの色がぶつかり合っているように見えた。一箇所、また一箇所と多角形が増えていく。
「とりあえず、俺らは距離を置こう」
市松さんの冷静な一言に僕はハッとなって後ずさり店から距離を取る。後ろで未だ店の中にいる砂藤さんはすでにバグに対して手を伸ばし、対処する準備をしていた。
その間にも、刻一刻と増えていく色に、僕は今までにない焦りを覚えた。
距離が離れているのではっきりとはわからないけど、小さな体から伸ばされた細く白い手は僅かに震えているようにみえる。この光景を見るたびに僕は何も手伝うことのできない自分に嫌気が差す。
僕たちは静かにその光景を眺める。何も言わずに、じっと。あたりの静寂が緊張を高める。デパートって意外と静かなんだな、と僕は思って辺りを伺う。そういや、店の店員はどこに行ったんだ?
見る限り、人がいない......。店の中はもちろん、廊下にも、広場にも......。
「ちっ」
急に手を引っ張られた。驚いて市松さんの顔を覗く。彼の顔には、焦りの表情が浮かんでいた。
無意識に彼の目線の先を見ると——
見慣れたあいつ。——襲撃者が、じっとこちらを見つめていた。
僕たちを挟むように、砂藤さんと逆の位置に現れている。
「どうしてっ......こんな時に——」
隣の市松さんが苦渋の表情で呟く。急に現れた襲撃者は、心なしかいつもより落ち着いてみえる。
だけど、僕の胸の鼓動は落ち着くことを知らず、耳にうるさく響いた。
見つめ合う。実際は数秒のはずなのに、なぜか異様に長く感じる。
あいつが、手を振り上げた。
「危ない!」
その声と共に市松さんが僕の腕を掴んで引く。体が横にずれる。
空を切る音が聞こえる。怖い、殺される——
僕は恐怖に耐えられずに思わず目を瞑ってしまう。
何も聞こえない。
何も——起きていない?
恐る恐る僕は目を開けた。目の前には......何も変わりのない市松さん。その奥には、手を振り上げたままの、襲撃者。
バタッ——
布が擦れる音、後ろで誰かが倒れた。




