第二十九話「ママチャリ」
会計を済ませ、財布をしまう。扉を開けると、猛烈な熱気が襲ってきて僕は一瞬ふらっとした。
こればっかりは慣れないな。冷房の効いた部屋で自堕落な生活を送っていた僕にとってこの寒暖差はきついものだった。
三人で炎天下の中を歩いてゆく。先頭を砂藤さん、続いて市松さんと僕だ。
昨日の出来事があったからか、以前よりも僕の側にいる気がした。すぐに守れるように近くにいてくれているのだろうか? もしそうなのなら、本当に彼には頭が上がらない。
道を歩いていると、ふといつもの違和感を覚えた。
はっとして辺りを見渡すが、それらしき兆候ない。こういうとき困るんだよな......。
僕がはっきりと対象を伝えない限り、彼女らはバグを認知できない。もっと抽象的でいいのなら楽なんだけど。
赤信号で立ち止まると、真横に止まった自転車に目が留まった。なんの変哲もないママチャリ。ただ、直感が「ここにバグがある!」と告げていた。
僕はじっと直視したい気持ちを堪えて、横目にチラチラと確認した。変な形でもない、無人でもない、色も普通だ。
赤と、緑と、青の3色で構成されたデザイン。別に——変じゃない。自転車の模様は基本こんな感じだよな、と僕は思う。
「どうした?」
さすがにキョロキョロしすぎていたようで隣にいた市松さんに気づかれた。
どうしたものかな。変に誤魔化すよりは言ってしまった方がいいのだろうか?
「いやー......さっきから違和感を感じるんですけど、なかなか見つけられなくてですね......」
「今回は小さいバグなのかな」
先頭の砂藤さんは前を向いたまま答えた。歩幅は一定。後ろを確認する様子はない。
「砂藤さんも手伝ってよ」
あれ? 反応がない。こういうとき反応してもらえないのが一番困るんだけど......。
助けを求めるように市松さんを見たけれど、苦笑を浮かべているだけで助けてくれそうにない。
そんな塩対応じゃなくたっていいじゃないか。そう思ったけど、助け舟はどこにもなかった。
そうこうしているうちに人通りが増え始め、やがてデパートが見えてきた。
デパート? なんでそんなところへ向かってるんだ?
そういや、目的地を聞かされていなかったことを思い出した。まあ、一人で付き合うよりかはましか。
最悪、大人の市松さんに全て持たせよう、などと僕は考えていた。




