第二十八話「正体」
「そもそもさ、どうしてあいつは僕を襲ってきたんだろう?」
「確かにそうだな」と市松さんが隣で言う。
「全く目的がわからないが、厄介なのはどちらかと言うと花怜の方だろう」
確かにそうだ。僕はせいぜい異常がわかる程度で、一人では何もできない。
「そうなんだよね。私もそれを考えてた」
「なぜ林道を襲ったのか——それがわかるとつながって解決策もわかるような気がして」
「そうだなぁ......順当に考えるとするのなら、僕らがやっているバグ探しを阻止したい、とか」
「その可能性が一番高いのかもな。正直、それが理由なら俺が襲われない理由は一目同然だろう」
「俺はただバグを研究しているだけだし、何も成果はでていない。できることとすれば、護衛ぐらいだからな」
「なるほどねー。修復の阻止、か」
砂藤さんは手を口に当てて悩んでいる。彼女の悩んでいる表情は何気に初めて見たかもしれない、と僕は呑気に思った。
「確かに修復作業は私と林道君の二人セットじゃないとできない。だから非力な林道君を狙うのか......」
非力って......。確かにそうだけど、はっきりと言われるとなんだかくるものがあるな。
僕が言い返そうと口を開きかけたときには、彼女はすでに次の言葉を口にしていた。
「そうね。とりあえず、今後は常に林道といっちーが一緒にいればいいんじゃない?」
「前回もいっちーが守ってくれたんでしょう?」
その通りだ。僕は昨日のことを思い出す。突然現れた刺客。今も思い出せる強烈な打撃。
正直市松さんがいなければ僕はもうここにはいないかもしれない。
「うん。本当に......ありがとうございます」
「いやー、ほんと生きててよかった。林道が一撃喰らったのは俺のミスだ。申し訳ない」
「いやいや、市松さんが謝ることじゃないですって!」
「今後はペアで動いてね」
「わかった」「了解」と声を合わせて返事をする。まだまだ不安はある。でも何かあっても市松さんが守ってくれる。その安心感が怖がる心を覆ってくれていた。
「とりあえず外に出ますか」
そう言って砂藤さんは席を立つ。早いもので彼女の肩にはすでにカバンがかけられていた。
一瞬後ろを振り向いた砂藤さんは、僕たちの「なんで急に......」と言いたそうな表情を見てか、
「じっとしていてもバグは増え続けるでしょう?」
と一言だけ言った。




