第二十四話「これは警告だ」
そうだ。市松さんはあの後どうなったんだ?
「市松さんは......?」
椅子に座りながら砂藤さんは答える。
「ああ、いっちーならさっきまでいたよ」
僕は驚いた。市松さんまでお見舞いに来てくれていただなんて。
「そもそも救急車を呼んだのはいっちーなんだよ?」
市松さんが呼んでくれたのか。じゃあ、あいつを倒したのか?
「あいつはどうなったんだ......?」
「あいつ? あーなんか怪しいやつのこと?」
「多分」と僕はうなずく。
「それならなんか逃げていったみたい」
「よかった......」と僕は安堵した。あいつは市松さんを恐れて逃げたのか。死ななくてよかった。
「あ、でも去り際に何か言ってたみたい」
「なんて?」
「これは警告だ——って」
警告.....? なんの警告だ? 僕らが世界を治していること?
「警告って......」
「私が知ってるわけないでしょ」
「そうだよね......」
なんのことだろうか。あいつがバグだとしたらなぜ意思を持っているんだ? 砂藤さんに頼めば殺す...直してくれるのか?
あ......思い出した。
あいつ、夢の中で現れた奴らにそっくりじゃなかったか?
確か、真ん中にいたやつに。
定かな情報ではない。そもそも僕の夢の話だ。でも何か引っ掛かる。
いつもの夢と違ってあの夢は嫌にリアルだった。1歩踏み出す度に足に伝わる硬いコンクリートの反発。
後ろから迫り来る複数人の足音。僕らを追い抜く隙間風の音。隣で聞こえる砂藤さんの息遣い......。
「そうね。これからは常に3人で動こうか」
「3人で?」
「そう。まだあいつが誰を狙っているのかわからないし危険なことに変わりないから」
状況的に僕が狙われている可能性がいちばん高いと思うけど、どちらにせよ市松さんと一緒に行動できるのなら心強い。また襲われても撃退してくれるかもしれないし。
「あ、そうだ。思ったんだけど、あいつってバグじゃないの?」
「バグ? ただの人じゃなくて?」
「うん。あの動きは明らかに人じゃない」
「武術の天才かもしれないよ」
「いや、違うんだ」
僕は息を吸って続ける。
「まずアイツが現れた時不自然に道が混んでたんだ。あの道が混んだところなんて見た事ない」
「そして、市松さんと戦闘になった後その人混みは綺麗に消えていた。数人の通行人さえいなかった。これっておかしくない?」
砂糖さんは顎に手を当てて真剣に考えている。
「確かにそうかも。意図的にバグを起こしてるってことかな」
そうか。あいつ自体がバグなんじゃなくてあいつがバグを発生させているのか。確かにそうかもしれない。そう考えると色々と辻褄がついた。




